高西姉妹襲来
「とつげきー!」
「お、お邪魔します……」
確かにいつきてもいいとは言ったが……。まさかその話のすぐ後に来るとは……。
本当にこんなすぐに来るとは思わなかった。さすがまなみである。
「よくきたわねぇ! あらあら2人とも綺麗になってー! どっちでも良いから康貴もらって欲しいわぁ」
「も、もらっ!?」
「えへへ!」
母さんの冗談に愛沙が口をパクパクさせ、まなみもどう反応して良いかわからないと言った様子で笑った。
「はいはいとりあえず部屋に上がっててくれ。俺はなんか飲み物とか持ってくから」
2人とも何年か来てなかったとはいえよく知った家だ、部屋の場所くらい覚えてるだろう。
「あ、手伝……」
「いいからそれよりまなみを見張っててくれ」
「……わかったわ」
いまにも階段を駆け上がろうとするまなみを見て愛沙が納得する。頼りになる幼馴染でよかった。
◇
「で、何でこんなことに……」
「えへへー」
部屋に戻ったら本棚から全ての本が抜き取られ部屋中に積み上げられていた。いや別にそんな大事にしてる本は無いからいいんだけど……。
「康にぃ、ちゃんと発散してる?」
「は?」
「けんぜんな男子の部屋にはかならずえっちぃ本があるって聞いてたのに!」
誰だまなみにそんなこと教えたのは!?
「辞書とかアルバムの箱の中にも隠してないとは……一体どこに……」
「いやいくら探しても出てこないから……」
いくら思春期男子でもいつ親が入るかわからない部屋にそんな危ないものを置いてはおけない。いやそういう問題じゃない。
「愛沙がいながらどうして……」
「えっと……私もその、康貴の好みは知っておいた方が良いかと思って……」
なんでだ……。頭を抱える。
「とにかく早く片付けてくれ。お菓子も置けないだろ」
「わーい! お菓子ー!」
「先に片付けてから」
「いえっさー!」
勢いよく片付けを始めるまなみ。
「こら、自分のじゃないんだから丁寧にやる」
「あっ、ごめんね康貴にぃ」
「いいよ、特に大事なもんはないはずだし」
引っ張り出していたのは辞書やらアルバム、参考書とか去年の教科書くらいだ。
「でも康貴はこの手のもの、使うもの順に並べてるから」
よく見てるな……。
愛沙が手際よく並べていくと、本棚は以前より欲しい物が近くにきて使いやすくなってる気がした。
「じゃあお菓子だー!」
「まなみが読んでた漫画、そこの引き出しにあるぞ」
「ほんとっ!?」
目を輝かせるまなみ。引っ込み思案だったまなみが変わったきっかけの一つは、うちの少年漫画だった気もしてくる。これのおかげで話し相手や遊び方が男側に寄ったともいう。
「愛沙は……」
愛沙ってうちにきて何してただろうか……?
おとなしかったまなみは部屋の隅で漫画に夢中になっていた記憶があるが、愛沙が来たときに何をしてたか思い出せない……。
「気を使わないでいいわよ」
「そうか」
持ってきたお菓子に手を付けながら足元に目を移す愛沙。見ていると出したままになっていたアルバムを開いている。
「懐かしいな」
「そうね。ほんとにずっと一緒だったのね」
当然部屋にあるのだから俺のアルバムだが、めくるページの全てに2人の姿がある。
運動会や入学式などイベントはもちろん、おそろいでジンベエを着ている写真や、目隠しをしてスイカ割りをしている写真、まなみはまだ抱っこされて口を開けていたりするものまで。
「これは……」
一緒に風呂で暴れている写真まで出てきて妙な気持ちになった。
「あ! 懐かしー!」
ページが進んできた頃にちょうどよく漫画を読み終えたまなみが加わる。
「キャンプ! 懐かしい! また行きたいねー!」
「あー、そんなのもあったな」
藤野家、高西家は両家合同で毎年キャンプに行っていた。いつの間にかなくなったが夏といえばキャンプだったな。
「あら、いいわね」
「いつの間に入ってきたんだ……」
「ふふ、さぁ。あなたたち夢中になってるから気づかなかったのね」
母さんがお盆を片手に部屋に入ってきていた。これがあるから家に危険なものは置けないんだが……今はまあいいか。
「うん、あなたたちもまたこうやって話すようになったなら、今年はやりましょうか」
「なにを?」
「キャンプよ」
突然の母の申し出。
「やったー!」
飛び上がるまなみ。
俺と愛沙は顔を見合わせるが、うちの親が止まらないことはよくわかっているので何も言わなかった。別に嫌なわけじゃないしな。
こうして両家の一大イベントが復活した。
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