プールデート2

「愛沙は……あれか……」


 集合場所は砂浜をモチーフにしたという謎にこだわりを感じる波のプール。

 休憩時間で人がはけているはずなのに、その一角だけ妙に人が集まっているのでよくわかった。


「あいーー」


 近づいて声をかけようとしたところで様子がおかしいことに気づく。


「なぁなぁ、1人ならさ、俺らと遊ぼうよ」

「せっかく来たんだからちょっとは弾けなきゃ!」


 日焼けした筋肉質な男2人組に声をかけられておろおろする愛沙。なんというか、あんなナンパらしいナンパって初めてみたな……。


「えっと……人を待ってるから」

「まぁまぁ、男のほうが着替えが遅いなんてありえないっしょ?」

「来てないってことは向こうもどっかでイイコトしてるって」

「嘘……」


 おい。なんでナンパの言葉を真に受けて死んだ目になってるんだ。お前の俺への信用低すぎるだろ。

 そもそも普段俺に向けるくらいの目を向ければ、ナンパくらいなんともない気がするんだけどなぁ……。


「ほら、行こうって」

「ちょ、ちょっと! いや!」


 男たちが手を伸ばしたところでようやく人混みをかき分けられて声を上げた。


「お待たせ!」

「康貴!」


 思わずこちらがドキッとするほど弾ける笑みを浮かべてこちらへ走ってきた。


「俺の彼女なんで、すみません」


 思わず口をついた言葉に愛沙が目を丸くしていた。

 信じられないものを見る目つきは心に来るからやめてほしい。顔も赤いしこれは怒らせた可能性が高い。

 ただわかってほしい、こう言ったほうがこの手の話は早いんだ。暁人に聞いたから多分。


「ちっ……あんな顔見せられちゃ手出す気もなくなるって」

「ほんと、こんな可愛い子待たせんな」


 2人組は過激なタイプでなかったようで、それだけ言うとあっさり引き下がってくれた。

 良かった。これ以上押されてもなにか出来る案はない。


「遅くなってごめん」


 改めて愛沙に向き直ると、顔を赤らめて「ん……」とだけ答えた。


 改めて水着姿に目が奪われる。

 あのとき選んだ水着ではあるが、そんなにじっくり見る余裕もなかった。イメージ通り似合ってはいるんだが、いかんせん刺激が強い。特にビキニの下の部分とか、こんなとこまで買うとき見ていなかった。思ったより際どい……。


「何よ……」

「いや……似合ってる」


 かろうじてそれだけ言う。


「そう……」


 それだけ言うと愛沙は、顔を赤らめたままうつむいた。

 普段のあれを考えると信じられないほど、その、なんというか……可愛かった。


「でもあの……ちょっと刺激が強くて……」

「そんなことは言わなくていい!」


 素直に感想を口に出せというまなみのアドバイスを実践したら怒られた。難しいな……。


「ほら! せっかく来たんだから行くよ!」


 愛沙のほうは何か吹っ切れたように俺の手を引いて歩いていった。

 トラブルはあったが、そのおかげで少し、さっきまでのぎこちなさはなくなった気がした。

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