プールデート1

 水着を買った日に約束をした愛沙とプールに行く日。俺はなぜか集合場所ではなく高西家にやってきていた。


「お姉ちゃんをよろしくね!」

「はいはい」


 愛沙とは駅で待ち合わせの予定だったが、まなみから連絡が来て急遽家まで迎えに来たのだ。


「ほら! お姉ちゃんも早く!」

「……わかってるわよ……」


 どうも当日になって愛沙が尻込みしたらしい。気持ちはわかる。

 荷物持ちとは違って、今日のこれはまぁ、普通にデートと言える……と思う。俺だってまなみに呼ばれて助かったと思ったくらいだ。

 愛沙はまだ踏ん切りがつかないらしく、玄関でまなみの影に隠れて出てくる気配がない。


「ねぇ、やっぱりまなみも来ない?」

「何言ってんの! 私が一緒に行くのは海! 今日はお姉ちゃんと康貴にぃだけでデートです!」

「デート……」


 愛沙がつぶやいて顔を赤らめる。

 俺も釣られるからやめてほしい。


「ほら! 早く行かないともったいないでしょ!」


 トンっと軽く押し出すように愛沙が玄関を越えてくる。

 一部始終を眺めていた俺と目が合うと、いつもの鋭い目つきで俺を睨みつけてきた。


「……なによ」

「いや……」


 顔が赤いせいで怖さがないのと、愛沙がこれだと俺の方に少し、余裕が出てきた気がする。


「いくか」

「ん……」


 元気に手をふるまなみに見送られて、不安な1日が始まりをつげた。


 ◇


 電車とバスを乗り継いで1時間ちょっと。

 郊外の大型レジャー施設である大型のプール。この時期は室内・室外両対応で、1日中いても遊び甲斐のある場所になっていた。


「チケットは?」

「あるよ」


 移動中、少ないながらも会話があったおかげでぎこちないながら必要な会話はこなせるようになっている。ただまぁ、最低限の会話しか生まれていないが。


「じゃ、待ち合わせはあそこで」

「ん……」


 それだけ言ってそれぞれ更衣室へ入っていった。


「しかし……大丈夫か? 今日……」


 愛沙との会話はまなみありきでなりたっていたことが本当によく分かる。

 前回はなんだかんだ、お互いがまなみの助言を受けていたおかげで全体がスムーズに進行していただけだ。少なくとも俺は今日、前回のような流れをすべて網羅したアドバイスは受けていない。愛沙の様子を見るにあちらもそうなんだろう。


「先が思いやられるな……」


 言ってもしょうがないか。男の着替えはあっさり終わるので、俺が浮き輪係になっている。結局トータルでどちらが早くいけるかわからないくらいになりそうだった。

 浮き輪の自動空気入れの混雑具合を見て、諦めて自力で空気を入れることを決める。


「……もうしんどい……」


 外に出る前から汗だくになりながら、なんとか浮き輪1つふくらませきって、ようやくプールの方へ足を踏み入れられた。

 消毒の足場を通り、汗をかいた身体にちょうどよいシャワーを浴びて少し回復する。


「この分だと愛沙の方が早そうだな……」


 思いの外苦戦させられた浮き輪を睨みつけながら、集合場所へ向かって歩き始めた。

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