第11話 発狂

 頭をカラスについばまれて負傷した阿修羅を渋谷に残して以蔵と右衛門は、一馬と修の待つ奥多摩に向かった。空を飛んでると焼け野原と化した新宿が見えた。

「台場を攻めるには強い武器が必要になりますね?」

 以蔵は右衛門に尋ねた。右衛門は以蔵につかまりながらうたた寝していた。

「太陽の光がポカポカしてて気持ちいいのぉ」

「聞いてます?」

「そうじゃな?武器だけでなく兵力も必要になるな?新選組とか幕末から連れて来られないのか?」

 奥多摩に離陸した。


 ホリオ・トシアキは、奥多摩にある別荘に住む、ヤスダ・ユウマに雇われている調教主任である。ホリオは、ヤスダが発狂したと、右衛門に依頼した。

 右衛門は金田一少年や名探偵コナンを凌ぐ名探偵だ。


 ホリオによると、ヤスダはダービーに管理馬のショコタン・プリンス号を出走させるが、それが勝たないと借金のかたに屋敷や厩舎を差し押さえられてしまう。

 最近、ヤスダの姉で別荘の主人でもあるエビナ・マユとのいさかいがあったらしい。マユはそれまでヤスダ同様馬好きだったのが、この1週間はまるで馬に興味を示さなくなったという。

 そしてヤスダは、マユがかわいがっていたコーギー犬を人に譲ったのだ。また、ヤスダは誘拐された娘、ヨウコを最近はどうでもよく思っていた。


 さらに、ヤスダが夜な夜な納骨堂に出入りしているのが修に目撃される。納骨堂で見知らぬ男と会い、かなり昔の死体を掘り出しているらしいという。

 そして屋敷の炉の中から、黒こげになった人骨が出てきた。


 右衛門と修は釣りに来て道に迷ったように装い、別荘を訪れる。

 翌朝、健康のためにウォーキングしていたマユのもとに飼い犬だったヒトラーを林の中で目撃する。

「ヒトラー、私が恋しくなったの?」

 マユが近づくとヒトラーは噛みついてきた。  

「うぎゃあっ!」

 修が『回復』を使って治してくれた。


 その夜、右衛門と修はホリオを連れて納骨堂に向かい、そこで調査を開始する。そのとき、ヤスダ・ユウマが現れ、私の地所で何をしているのかと2人を問いつめる。

「儂はお主が犯人だと思ってる」

 右衛門が言うとヤスダが絶句した。

「姉貴を襲わせたのは俺じゃないぞ」

 やっとのことでヤスダはしゃべった。

「あれは事故だと思っていたのじゃが、やはりお主じゃったのか?」

「だから俺じゃないって!」

 ヤスダは慌てふためいている。

「本当のこと言ったら娘さんの居場所を教えてやってもいい」

 右衛門は抑えた口調で言った。

「本当か?」

「武士に二言はない」

「確かにあの人骨を掘り出したのは俺だ。だが、殺したりはしていない」

「本当だな?」

 右衛門は『知恵』を使った。脳内で星がキラめいた✨人骨の正体が明らかになった。

 ヤスダ・ユウマの祖父、ヤスダ・ガンイチロウだ。ガンイチロウは40年前に肺ガンで亡くなっている。

「おじいちゃんに会いたくなって盗み出したのか?」

 ずっと黙っていた修が口を開いた。

「まさか……ここだけの話だがな?『復活薬』っていうのを見つけたんだ」

 その薬を使えばエリカを蘇生できるんじゃ?なんてことを右衛門は思った。

 ヤスダはバックから小瓶を出した。

「あの、その薬売ってくれないか?」

 右衛門が言うと、ヤスダは「アァッ!!」と発狂した。右衛門たちは体をビクッ!とさせた。

「どうしたんですか!?」と、修。

「最近、自分でも分からないんだが勝手にデカい声が出るんだ」

「『復活薬』の呪いじゃないのか?」

 右衛門は『金の斧』ってイソップ寓話を思い出した。

 きこりが川辺で木を切っていたが、手を滑らせて斧を川に落としてしまう。困り果て嘆いていると、ヘルメース神が現れて川に潜り、金の斧を拾ってきて、きこりが落としたのはこの金の斧かと尋ねた。きこりが違うと答えると、ヘルメースは次に銀の斧を拾ってきたが、きこりはそれも違うと答えた。最後に木と鉄の斧を拾ってくると、きこりはそれが自分の斧だと答えた。 ヘルメースはきこりの正直に感心して、三本すべてをきこりに与えた。


 それを知った欲張りな別のきこりは、斧をわざと川に落とした。ヘルメースが金の斧を拾って同じように尋ねると、そのきこりはそれが自分の斧だと答えた。ヘルメースは呆れて何も渡さずに姿を消し、それっきり現れることは無かった。欲張りなきこりは自分の斧をも失うことになった。


 ヘルメース神ではなく女神やニンフが現れたり、場所を川ではなく泉や池として語られることが多い。


 ヤスダは非合法な手段で『復活薬』を手に入れた。例えば神様に酒を酔わせて手に入れたとか?発狂するようになったのはその罰?

「ワァッ!!」

「またですか?」

 修が耳を塞いだ。

 ヤスダは小瓶の蓋をポンッ!と外して、人骨に『復活薬』を降り注いだ。しかし、何も起きなかった。

「パチモンか?悪いことしたから罰が当たったんじゃ?」

 修がケラケラ笑っている。 

「小学生のとき教室で友達の鉛筆盗んだのが悪かったのかな?」  

「そっちかよ!」

 修は苦笑した。人骨をほじくり返したことを悔やんでいたのだと思った。それに鉛筆って古いな?シャーペンじゃねーのかよ?

「それで娘は、ヨウコはどこにいるんだ?」

 右衛門は『知恵』を使った。

「つくば市にあるテラオって奴の家に監禁されてる」

 ヨウコを最初に拉致したのはメグミたちだったが、彼女たちが目を離したときに都内進出を目論むギャング『エンドルフィン』に奪われてしまう。そこのボスがテラオ・ギンジだった。

 

 ヤスダは以蔵におんぶして空高く舞い上がった。つくば市に降り立ったのは18時近くてネオンが瞬き始めていた。

「俺たちは怪物なら殺すことが出来るが、人間は殺すことが出来ない」

「どういうことだ?逆じゃないのか?」

 ヤスダは理解出来ないようだった。

「俺がそんな弱い人間に見えるか?」

「もしかして、怪物より人間の方が強いってのか?」

「理解してないだろ?分からなかったら分からないって素直に言えよ?」

「ん〜分からない❤」

 ヤスダはローラの真似をしたつもりだったが、以蔵はあまりテレビを見なかった。

「俺たち怪物は人間を3人殺すと死ぬ運命にあるんだ」

「マジかぁ?でも、『13日の金曜日』とかかなりの人数が殺されてるよな?もしかしたらあれか?まだレベルが低いのか?」

「そのへんのことは分からない、人間たちを始末するのはおまえに任せる」

「アァッ!アァッ!アァーッ!」

 ヤスダは発狂してる。

「うるせーよ!」

 

 つくば署の刑事グンジは、相棒刑事のゲンダを幼馴染のゴンドウに白昼堂々、家族の目の前で惨たらしく射殺される。グンジたちは非番でゲンダの娘の誕生日パーティーに呼ばれていた。ゴンドウの撃った銃はトカレフTT-33。ソ連陸軍が1933年に正式採用した軍用自動拳銃である。装弾数は8発、ゴンドウは2発使っている。

「残り6発か」

 グンジは血塗れの友の屍を見て涙を堪えた。犯罪が合法化したことで犯罪の数は急上昇した。警察は市民の安全を守る組織から、首相を護る為だけの組織に変わった。

 

 ヤスダは市民のゴンドウが用意した拳銃で武装し、手始めにつくば駅近くにいたバーにいた吉岡ザンマ(『エンドルフィン若頭』)を射殺。

 ザンマの居場所をヤスダに教えたのは、ザンマの尊大な態度に不満を持つ末端組員のジンボとズシであった。


 ゼンバはザンマを殺したのがツクモたち東京の連中だと勘違い。ゼンバは義憤に駆られ、単独で池袋駅近くのロータリーにいたゾウシガヤ(ツクモ組の末端組員)を拳銃で襲撃する。

 防弾車でないゾウシガヤの車の後部窓ガラスは粉々に割れたものの、ゾウシガヤは奇跡的に生き残り、ゼンバは解体工場でツクモ組の手によって射殺された。


 ツクモは一計を案じ、自らがゼンバに殺されたかのように装う。目の上のたんこぶだったツクモが死んだと思ったテラオは上機嫌であった。


 ヤスダと以蔵は次のエンドルフィン襲撃計画に動きつつあったが、巨大なカエルの怪物が東京に出現したことを一馬からの連絡で知る。

 ワンボックスカーの中で撃ち合いになり、ヤスダは組員を全員射殺するが、この中でヤスダに協力していたグンジ刑事を死なせてしまう。その結果、ヤスダと以蔵の2名だけでエンドルフィンを襲撃せざるを得なくなった。以蔵たちに合流しようとしていた一馬はショットガン・スパスなどの強力な殺傷力を持つ武器を持参していた。


 表向き、死亡したことになっていたツクモは影で動き始める。屋上駐車場にヤスダと以蔵を呼び出し、今回の抗争の発生について花田に詫びさせる。

「アァァッ!娘はどこだ!!」

 しばらく止まっていた発作が久々に起きた。豹変したヤスダにツクモは驚いていた。

 さらに、ツクモは、『エンドルフィン』とは盟友である相馬連合の中堅幹部・ダイゴの出所パーティーに出席するテラオを襲撃するようにヤスダをそそのかす。ところが、ケチなテラオは中堅幹部のダイゴの出所に対する祝い金を払いたくなかったためにパーティーを欠席した。

 ツクモはテラオの欠席を知り、ヤスダによる襲撃をやめさせようとするが、ヤスダはエンドルフィンに対する報復の意志が固く、パーティー会場にスパスで武装した一馬と共に乱射、ヤスダはダイゴたちヤクザを大量に射殺した。巨大なカエルも出現!カエルは毒霧を吐くが、一馬はバリアーを張って防御、疲れ果てて眠っているところを、一馬はスパスで駆逐した。


 その後、ツクモはテラオがいる筑波山麓のアジトに急行。ツクモが生きていたことにテラオは驚き、腹心であった幹部のジンボを焚き付けるが、ツクモたちの手勢の多さに愕然とし、ジンボは寝返る。

 テラオは山中に連れて行かれ、そこに待っていたのはヤスダであった。ヤスダはテラオに「娘はどこだ?」と言い放つと、夜の峠道にテラオを首だけを出した状態で生き埋めにする。

「可愛かったからさ?気持ちよくなりたかったんだ……けど、ぎゃあぎゃあ泣き叫んだからね?悪いとは思ったんだ、ちゃんと墓も作ってやった」

 テラオは手でヨウコの首を絞め殺したそうだ。

「反吐が出る」

 ヤスダはトカレフTT-33をテラオの口にねじ込みトリガーを絞った。テラオは即死した。ジンボは、どさくさに紛れてもともと折り合いの悪かったズシを射殺した。


 さらに、ツクモはヤスダの殺害を最終的な視野に入れ、ジンボを焚きつけた。そのことを知らないヤスダは、以蔵を幕末に派遣した後、ジンボが運転するセンチュリーで宇宙航空研究開発機構に向かった。

 そこにはヂェンという台湾出身の科学者が勤務していた。ヂェンは研究目的でヤスダと友人だった火星人ヅラーを殺害していた。ヤスダはヅラー殺害に対する復讐のため、ヂェンを射殺した。

 しかし、ツクモの意向を受けたジンボは「アンタは派手に動き過ぎた」と言ってヤスダに拳銃の銃口を向ける。

 パンッ!乾いた銃声が響いた。


 

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