第2話 無法国家

 長門仁王の妻が、鎌を用いて若い女性ばかりを狙う連続殺人犯に殺された。 その殺人鬼を追っていた仁王は、友を交通事故で失った根来紀夫と出会う。 根来が殺人鬼の次の標的だと確信した仁王は、その殺人鬼を追い詰めるべく行動に出た。

 やがて殺人鬼が残したメッセージを見た仁王と根来は、長門葉月が殺害された場所とされるモーテルへと向かう・・・。

 星が描かれたカードが仁王の自宅のポストに入れられていたのだ。タロットの大アルカナに属するカードの1枚。カード番号は『17』。前のカードは『16 塔』、次のカードは『18 月』。

 カードの意味は正位置の意味だと、希望、ひらめき、願いが叶うなど、逆位置の意味だと、失望、絶望、無気力、高望み、見損ないなどを表すが、仁王は妻が死んだ那須烏山市にあるモーテル『STAR』であると確信した。

 ホテルの近くには雷獣が現れるとの噂もある。イタチより大きなネズミのようで、4本脚の爪はとても鋭いって噂だ。夏の時期、山のあちこちに自然にあいた穴から雷獣が首を出して空を見ており、自分が乗れる雲を見つけるとたちまち雲に飛び移るが、そのときは必ず雷が鳴るという。


 江戸中期の越後国(現・新潟県)についての百科全書『越後名寄』によれば、安永時代に松城という武家に落雷とともに獣が落ちたので捕獲すると、形・大きさ共にネコのようで、体毛は艶のある灰色で、日中には黄茶色で金色に輝き、腹部は逆向きに毛が生え、毛の先は二岐に分かれていた。天気の良い日は眠るらしく頭を下げ、逆に風雨の日は元気になった。捕らえることができたのは、天から落ちたときに足を痛めたためであり、傷が治癒してから解放したという。


『STAR』にやって来た2人は手榴弾を投げ込まれる。

 仁王は根来と烏山駅まで逃げ伸びるが、鎌を持った黒服の男に襲われる。

 黒服は仁王を半身不随にし、さらに根来を斬殺した。


 悲嘆にくれる鳥山修のもとに、黒服男逮捕の捜索のため、彼を特別捜査官に任命するというメールが届く。


 2020年1月1日

 木枯らしが吹いている。今年から法律が消えた。強盗・殺人何でもござれの時代のはじまりだ。俺はしがない派遣社員だ。今日のためにJR宇都宮駅近くにある武器屋でベレッタM92Fを買っておいた。

 全ては5年前、上総条一郎が首相に就任したときにはじまった。

『私は5年以内に日本を戦国の世に戻す』と、スローガンを掲げた。上総はテロリストに妻子を殺された過去がある。15年前……2005年4月6日、新左翼『ジェルトバ』が新宿の街中で爆弾を爆破、34名が死亡した。上総の妻子、佳乃と理沙も巻き込まれた。

『ジェルトバ』のリーダー、玄武秀隆は大学卒業後に20社以上にエントリーしたが、努力は報われなかった。

『就職できないのは人口が多いから』『人口を減らせば幸せになれる』という歪んだ思考にとらわれ、フリーターやニートの救済機関『ライフコア』に通った。そこで知り合った仲間と『ジェルトバ』を創り上げた。

『ジェルトバ』はロシア語で『生贄』を意味する。企業を次々に襲撃し、無差別殺人を繰り返した。新宿は6つ目の標的だった。買い物をしていた上総の妻子は犠牲になった。

『ジェルトバ』は6名のメンバーが未だに逃亡中だ。上総はもともとは警視庁の刑事で、政府が設立した掃討部隊『バベル』に参画し、任務途中にテロリストに射殺された……はずだった。奇跡的に蘇生し、金井首相の秘書として暗躍。影ではクーデターを起こし、カネノミクス(税率拡大)に反対する国民を味方につけ、政府を転覆することに成功した。俗にいう『霞ヶ関の変』である。

 

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