第五話 奴隷
幌馬車で仮眠を取った後、外に出て見ると、火事は収まっており、集まっていた人達もいなくなっていたわ。
これで暫くは、私を襲って来るような者は現れないと思うけど、用心はしておいた方が良いわね。
『わたがし、ジェラート、ティラミスは、協力して強い魔物を捕まえて来て頂戴!』
『ほーほっほっほ、お任せあれ!』
『主殿、承知したのじゃ』
『ボス、分かったわ~』
相手は王都に店を構える大商人と公爵よ。
冒険者や騎士団に襲われても、戦えるように準備をしておかないと行けないわ。
それとは別に、一人で商売を続けるのも限界に来ていた事だし、従業員を雇う事にしたわ。
そして、私はこの街にある、立派な店の前に来たわ。
看板には大きく「奴隷商店」と書かれているわ。
どうして街の中に堂々と看板を出して営業しているのか、最初は疑問に思ったけど、この奴隷商店は、王国が許可を出して営業しているそうよ。
王国で奴隷を管理していると言えば聞こえがいいけど、やっている事は人身売買よね・・・。
まぁ、そのおかげで私は信用できる人を雇うことが出来るのだから、その事を否定するつもりは全くないわ。
私が店内に入ると、立派な服を着た男の店員が迎え入れてくれたわ。
年は四十くらいのおじさんで、まっすぐ立つ姿は、家の執事を思い出すわね。
「これはお嬢様、いらっしゃいませ、当店に御用でしょうか?」
「はい、奴隷を一人買いたいのです」
「左様でございますか、どのような用途にご使用なさいますでしょうか?」
「商売の手伝いをして貰います」
「分かりました、では若い男性などがよろしいでしょうか」
「いえ、私は男性は怖くて嫌いなのです、出来れば私くらいの女の子が希望です」
「ご希望の奴隷はおりますが、商品を運んだりするのには向いておりませんが、よろしいのでしょうか?」
「はい、私がこれを持っていますから・・・」
私が腰に下げている収納の魔道具を店員に見せると、目を見開いて驚いていたわ。
それもそのはずよね、このような年端も行かない子供の魔法使いが持てるような魔道具ではないでしょうからね。
「これは失礼しました、ではご案内いたします」
店員はすぐに戻の表情に戻り、奥の扉を開けて、私を中へと案内してくれたわ。
そこにはいくつもの鉄の檻が置かれていて、男女様々な年齢の人達が入れられていたわ。
しかし、どの人も健康で、檻の中も清潔に保たれていたわ。
私の思っていたイメージとは懸け離れていたわね。
もっと汚く、奴隷もやせ細っているのかと思っていたのだけれど・・・。
奴隷を買った後の事を考えると、こちらの方が売る方も買う方もいいわね。
だてに国で管理している訳では無いと言う事かしら?
「こちらの奴隷になります」
案内された檻には、私と同じくらいの女の子と、少し年上の男の子が一緒に入れられていたわ。
そして、目に前に立った私を見て、男の子が女の子を背中に隠したわ。
二人共金髪で、顔立ちも似ている事から兄妹なのかしらね。
でも、私が必要なのは女の子だけよ。
「この女の子に決めます、おいくらでしょうか?」
「こちらの奴隷は、三万ユピスでございます」
思ってたより安かったわね。
予算として、十万ユピス用意していたけれど、安く済んでよかったわ。
「お願いします」
「畏まりました」
店員が檻の鍵を開けて、女の子を連れだそうとしたら、男の子がそれを邪魔したわ。
「コレットは渡さないぞ!」
店員は無理に男の子を排除しようとはせず、困った表情で私を見たわ。
「この子達は兄妹で、離れようとはせず困っております」
なに?つまり私に二人とも買えって言いたい訳?
この店員、中々の曲者ね・・・。
「他に、同じような年齢の女の子はいないのでしょうか?」
「残念な事に、現在おりません」
私は周囲の檻を見渡したけれど、確かに見える範囲内にはいないわね・・・。
「分かりました、二人で四万ユピスでどうでしょう?」
この値段では売ってくれないだろうけれども、不要な男の子を買わせられるのだから、少しでも安くしてもらわないとね。
「流石にその値段ではお譲りする事が出来ません、奴隷は王国の財産です。
ですが、無理を言っているのはこちらですので、五万五千ユピスではいかがでしょう」
「四万五千ユピス」
「分かりました、五万ユピス、これ以下には出来ません」
「分かりました、その値段で買います」
「ありがとうございます」
今のやり取りを聞いていた兄妹は、素直に檻を出て来てくれたわ。
「奴隷の登録を行いますので、こちらにお越しください」
店員の案内で別の部屋へと連れて来られたわ。
そこには首輪や、怪しい機材が色々置かれていて、不気味な感じがするわね。
漫画で見た魔女の部屋の様な感じね・・・。
「身分証を何かお持ちでしょうか?」
「商業ギルドカードでいいでしょうか?」
「はい、確認させて頂きます」
私は店員に商業ギルドカードを渡すと、店員は書類に私の名前と商会名を書き込んでいたわ。
「お返しいたします」
店員は書き終わると、カードを返してくれたわ。
「奴隷登録する前に、奴隷の管理についてご説明いたします。
先程も申した通り、奴隷は王国の財産です。
不用意に傷つけたり、殺したりした場合は罰せられます。
食事を与え無い場合も同じです。
その他の事故や病気で死んだ場合は、罰せられる事はありませんが、王国の調査が入る場合がございます。
以上の事をお守り頂ければ、奴隷を一生使い続ける事が出来ます。
ご質問はございますでしょうか?」
意外と奴隷は守られているようね。
私は奴隷を別に傷つけたりするつもりは無いから問題ないわね。
「私が奴隷より先に死んだ場合は、どうなるのでしょう?」
「その場合、奴隷はお客様のご親族に譲られるか、再び王国の管理下に置かれる事になります。
ですが、それまでお客様から得られた秘密を奴隷が話す様な事はございません」
秘密がばれないのは良いわね。
これから奴隷に教える事は、誰にも知られたく無い事ばかりですからね。
「もう一つ、奴隷を解放してあげる事は出来るのですか?」
「はい、可能です。その際は再び奴隷商人の所に来て頂かねばなりません。
それはこの後行われる、儀式の解除をする必要がある為です」
「首輪では無いのですね」
「はい、今はめている首輪は一時的な物です。
これから行う儀式は、お客様と奴隷との契約です。
契約を行う事によって、奴隷がお客様を襲う事はありませんし、嘘や隠し事をする事が無くなります」
契約ね、召喚魔法の契約と同じような物なのかしら?
「分かりました、質問は以上です」
「はい、では契約をする前に、お支払いをお願いします」
収納からお金を取り出し、店員に支払ったわ。
「ありがとうございます、では契約の儀式を致しますので、失礼ですが、このお皿にお客様の血を数滴お願いします」
店員は私に、お皿とナイフを手渡して来たわ。
これで指を切って血を出すのね・・・。
自分の指をナイフで刺すのは怖くて痛かったけど、何とか我慢したわ。
いえ、涙が少し出たわね・・・。
肉体の年齢が関係しているのかもしれないけど、涙腺が弱いのよね。
決して痛みに耐えきれなかった訳では無いわよ・・・。
「癒しの女神様、彼の者の傷を癒し給え、ヒーリング」
ずきずきと痛かったから、すぐに神聖魔法で傷を治したわ。
「神聖魔法ですか、とてもよろしいですね」
「はい、とても重宝しております」
私はにっこりと微笑んで店員を見ると、血の入った皿を受け取った店員は、私が使った魔法を見て感心していたわ。
「では契約の儀式を行います」
店員はそう言って、まず男の子の後ろの首筋に、私の血を数滴たらしたわ。
「全てを覆い尽くす闇の力よ、この血を持って主従の契約を果たし給え、ブラッドエンゲージ」
店員が呪文を唱えると、私の血が魔法陣のような模様にを描き、男の子の首筋に焼き付いたわ。
「闇属性魔法でしょうか?」
「はい、私達奴隷商人は、全員闇属性魔法を使えます。
そして、私達は王国の奴隷です」
店員はそう言うと、自分の後ろの首筋を見せてくれたわ。
闇属性魔法の魔法書が無いと言っていたけど、王国が管理している様ね。
あったとしても、覚えたくは無いわね。
と言う事は光属性魔法も王国が管理している可能性が高いけど、今となってはどうでもいい事だわ。
私はもう覚えることは出来ないし、戦いに使うような魔法は不要よね。
店員は続けて、女の子の契約の儀式も行ったわ。
二人の契約の儀式が終わると、魔道具を使って首輪を外していたわ。
「これでこの二人は、お客様の奴隷となりました。
大事にお使いください」
「ありがとうございました」
私は二人を連れて店の外へと出ると、二人は寄り添う様にして、私の後ろを着いて来てたわ。
私は二人に向き直り、自己紹介をする事にしたわ。
「私の名はキアラです、貴方達の名前を教えてくれませんか?」
私は笑顔を浮かべ、出来るだけ優しく問いかけたわ。
「俺はルベール」
「・・・コレット・・・です」
「ルベールとコレットですね、今日から私の商売のお手伝いをして貰います。
その為には、お洋服を綺麗なのにして貰わなくてはいけませんね」
二人の服装は、汚れてはいないけれども、麻色の服で、商売をするには見た目が悪いわ。
お客様相手だから、清潔感がある服装にして貰わないとね。
私は服屋に二人を連れて行き、服と下着を数着買って着替えさせたわ。
「ご主人様、ありがとうございます」
ルベールにお礼を言われたけど、部下達からご主人様と言われているから、他の呼び方が良いわね。
それに、様付けされる様な人格者で無い事は、自分でも分かっているわ。
「ルベール、コレット、私の事はキアラと呼んでください。
お互い歳も近いですし、敬称や敬語も不要ですよ」
「えーっと、キアラ・・・よろしく」
「・・・キアラちゃん・・・よろしくね」
「よろしくお願いしますね」
まだ、二人共私の事を警戒している様だけど、奴隷として買われたのだから仕方のない事ね。
徐々に慣れて行って貰うしか無いわね。
私はその後二人の毛布と食料を買い、幌馬車へと戻って来たわ。
「二人とも乗ってください」
どこかの家に連れて行かれると思っていたのでしょうね、二人は驚きと不安の表情を見せながらも、荷台に乗ってくれたわ。
私は御者台に乗って発進させて、街の外へと出て行ったわ。
『エクレア、後はお願いね』
『マスター、お任せを!』
街の外に出てしまえば、エクレアが一人で目的地へと運んでくれるわ。
私は荷台に移り、二人にこれからの事を話す事にしたわ。
「ルベール、コレット、私は各街を行商して周っています。
ですので、貴方達もこの幌馬車で一緒に寝食を共にして貰います。
最初は慣れないかも知れませんが、我慢してください」
二人は黙って頷いてくれたわ。
「それでルベールとコレットは、文字の読み書きは出来るのでしょうか?」
「いいえ、出来ない、コレットも同じだ」
「そうですか、ではまずは文字の読み書きを覚えて貰います。
その後で計算の勉強もして貰いますね」
「分かった」
「・・・はい」
「それと今から私の事や、貴方達に教える事は、他の誰にも教えてはいけません。
例えそれが、自分の両親や、子供が出来た場合も同じです。
守れますか?」
「はい、俺達には親はいない、子供もまだいないし、奴隷では結婚出来ないから・・・」
ルベールはそう答えたけど、確かに結婚は難しいのかしら?
多分私が許可すれば出来るのよね・・・それは今度奴隷商人に会った時に聞いて見る事にするわ。
「コレットも守れますか?」
「はい、キアラちゃんの命令を破る事は出来ません・・・」
「分かりました、ではまず、私は神聖魔法と召喚魔法を使う事が出来ます。
二人は魔法について知っていますか?」
「知らない」
「・・・知りません」
「そうですか、神聖魔法はケガや病気を治す魔法です。
具合が悪くなったり、怪我をした場合は治療しますので、すぐに私に言ってください。
召喚魔法は動物や魔物と契約して、使う事が出来る魔法です。
そこにいる猫達は、私と契約した動物になります」
コレットは、幌馬車に乗ってからずっと、おはぎ達を撫でて楽しんでいるわ。
しかし、今私の契約した動物だと知って少し驚いていたけど、猫の可愛さには勝てなかった様ね。
「これが召喚魔法・・・」
ルベールもおはぎ達を触ろうとしていたわ。
私は箱の中に隠れている、わたがし二号を取り出したわ。
「この梟もそうですし、幌の枠の所にいる黄色い蛇もそうですよ」
「ひっ!」
「きゃぁぁぁ!」
二人は幌の内側の天井付近で、チロチロと舌を出しているクッキーを見て驚いていたわ。
私はわたがし二号を、外敵から守って貰うために、幌の外に出したわ。
「安心してください、私の部下達は、貴方達を決して攻撃したりはしませんから。
そして、魔物や盗賊が襲って来ても、中にいれば安全ですので、決して外には出ないで下さいね」
「わ、分かった」
「・・・はい」
二人は、こくこくと、何度も頷いていたわ。
そんなに恐ろしかったのかしら・・・でもこれからずっといるのだから、そのうち慣れると思うわ。
「今日は遅いですから、食事をして寝る事にしましょう」
私は食事を二人に配ると、大した食事では無かったけど、美味しく食べてくれたわ。
「ルベール、コレット、今日から毎日眠る前に、この魔石に触れてから眠って下さい。
それと、魔石に触れて疲れたり、眠くなったらすぐ離してくださいね」
「分かった」
「・・・はい」
二人は疑問に思いながらも、素直に魔石に触れてくれたわ。
そして、ナディーヌ姉さんの時と同じように、眠くなった様で、すぐに毛布にくるまって寝てしまったわ。
この二人が魔法を使えるようになるのかは分からないけど、試して見る分には何も問題無いわよね。
魔法が使えると便利にはなるけど、使えなくても私の部下を付ければ問題は無いから、どちらでも構わないわね。
私が寝ようとしていた時、わたがしから連絡が入ったわ。
『ほーほっほっほ、捕まえたわよ!』
『そう、それでこっちに連れて来て頂戴!』
『ほーほっほっほ、ジェラートが運んでいるから、少し時間が掛るわよ!』
『それなら、わたがしが運んできなさいよ!』
『ほーほっほっほ、残念ながら、私では運べないわ!』
『分かった、待っているわ』
それから一時間ほどして、ジェラートが私の所にやって来てくれたわ。
『主殿、大変お待たせしたのじゃ』
『ご苦労様、所で、私は強い魔物を捕まえて来る様に言ったのだけれども・・・ジェラートの背中に乗っているのは強いのかしら?』
ジェラートの背中に乗ってる・・・いや、張り付いているのは、多分スライムよね・・・。
黄色のベチャっとした感じで、スマホで暇つぶしにやったゲームに出て来た丸っこいスライムとは、まったく似て無かったわ。
『そうですじゃ、このスライムにはわしの牙も爪も効かず、わたがし殿の魔法で何とかここまでの大きさに出来たのですじゃ』
『よく分からないけど、強いのならば契約してみるわ』
ジェラートの言う事を信じていない訳では無いけど、やはり私には強い魔物には見えないわね。
契約して、駄目だったら解除すればいいだけよね。
ジェラートは地面にスライム置くと、私の横にお座りをしたわ。
私はしゃがんで、スライムに触れたわ。
やっぱり、ねばつく様な感触でひんやりと冷たく、気持ち悪かったわ・・・。
「力ある者よ、我の魔力に呼応し契約を交わせ、エンゲージ」
スライムと契約を交わした途端、目の前に巨大な黄色の物体が現れたわ!
「これは何・・・」
『これがスライムですじゃ』
十メートルはあるんじゃないかしら・・・確かにこれなら強いのかも知れないわね。
『ご主人様、よろしくなの』
『えぇ、よろしくね、あなたの名前はプリンよ!』
『プリン、いい名前をありがとうなの』
『所でプリン、小さくなれないのかしら?』
『無理なの、でも分身すれば出来るの』
プリンはそう言うと、プルプルと体が揺れたかと思ったら、私の目の前に、三十センチほどのプリンが出て来たわ。
『こんな感じで、いっぱい増やす事が出来るの』
『それは良いわね、でも今は必要無いから元に戻っていいわよ』
『はいなの』
小さなプリンは、大きなプリンに吸収されたような感じで元に戻って行ったわ。
『それでプリンは、どの様な攻撃が使えるのかしら?』
『食べるだけなの』
『毒も無いのかしら?』
『無いの』
毒々しい色をしているのにないのね・・・。
『分かったわ、プリンは、ジェラート達と協力して、適当に魔物を狩っていなさい』
『ご主人様、分かったの』
『わたがし、ジェラート、ティラミス、ご苦労様。
暫くまた捕まえなくていいわ』
『ほーほっほっほ、では馬車の護衛に戻るわね!』
『承知したのじゃ』
『ボス、分かったわ~』
ジェラートたちは去って行ったのだけれども、プリンも遅れず着いて行ったわね。
あの巨体で意外と素早く動くのね・・・。
プリンは食べるだけと言ったけれども、あの大きさの物が素早く移動して来て覆いかぶされたら、相手は何もできないうちに食べられてしまうわね。
想像するだけで恐ろしいわ。
でも部下として考えるなら、心強いわね。
小さくなれると言うのも使えるわ。
何処にでも入って行けそうよね。
でも今はまだ使い道が無いから、魔物を狩って強くなっていて貰うしか無いわね。
私は幌馬車に乗り込み、再びエクレアに移動するよう頼んで、眠りについたわ。
翌日から、ルベールとコレットには、幌馬車で移動中の間に、読み書きを教えて行ったわ。
それと、お店を出している時の手伝いも、少しずつやらせているわ。
二人共呑み込みが早く、一度教えた事は間違えないので助かっているわ。
いい奴隷を買ったと思ったのだけれども、一つだけ不満があるわね。
この兄妹、仲が良すぎるのよ!
まぁ、私も実家に帰れば仲良く過ごしているのだけれども、そう言う仲の良さでは無く。
確実に、恋愛感情があると思うわ。
これはまだ幼い今の内に、矯正しておく必要があるわね。
「ルベール、コレット、今日から二人で一緒に寝るのを禁止します!」
それを聞いた二人は、この世の終わりかの様な表情をしていたわ。
「キアラ、どうしてだ!」
「・・・キアラちゃん」
「貴方たちの年齢にもなれば、たとえ兄妹でも、男女は一緒に寝たりはしないのです。
コレットは、一人で眠れないのであれば、私が一緒に寝てあげます」
私がそう言うと、二人は見つめ合ってどうしようかと相談しているように見えたわ。
「・・・分かった、しかし、俺たち二人を離れ離れにしないでくれ!」
ルベールが懇願して来たけれど、それは出来ない相談ね。
「その約束は出来ません、今は三人で行商を行っているけれど、将来的には一人でやって貰う事になります。
それと、これは貴方たち二人の事を思っての事です。
何時までも二人で依存しあっていると、将来結婚する時に困る事になりますよ」
「・・・でも、俺達奴隷だし、結婚なんて出来るはずがないじゃないか!」
多分、結婚出来ないのが普通なのでしょうけど、それは私が許可すればいいだけの事なのは確認済みよ。
「結婚は私が許可しますし、相手も責任を持って探しますから安心してください。
それとも、結婚はしたくないのでしょうか?」
「そんな事は無い・・・」
「・・・まだ分からない」
ルベールは結婚したい様だけれども、コレットはまだ、お兄ちゃん大好きの様ね・・・。
「そう言う事だから、今日から離れて寝てくださいね」
まだ納得はしてはいない様だけど、私の命令には背く事は出来ず、二人は離れて眠ったわ。
とは言え、幌馬車の狭い中でのことだから、そこまで離れている訳では無いわ。
でもこれで、目の前でイチャイチャされるのを見なくて済むわね。
色々と理屈をつけたけれど、結局の所それだったのよね。
私にとって、精神的によろしくない状況を改善したまでよ!
「・・・お兄ちゃん」
・・・。
私の横で寝ているコレットが、涙を流して泣いていたわ。
少しやり過ぎたかしらね・・・。
私は、フローラ姉さんにいつも寝る時やって貰っていた様に、コレットを優しく抱きしめて一緒に眠ってあげたわ・・・。
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