第六話 悪魔契約

ルベール、コレットの二人は、明かりを点ける魔道具への魔力の補充を、難なく行えるようになっていたわ。

そこで無属性の魔法を唱えさせてみたけど、問題なく発動したわね。

やはり、ナディーヌ姉さんが特別では無く、この方法で誰でも魔法が使えるようになることが分かったわ。

二人は自分が魔法を使えたことに驚き、とても喜んでいたわ。

次は、私の魔力が多い事が特別なのか否かの証明ね。

「ルベール、コレット、今から魔法書を読んで貰いますが、この中の二種類の属性しか使うことは出来ません。

一種類は好きなのを選んで構いませんが、もう一種類は二人共召喚魔法を選んでもらいます。

理由は、商売をやっていくうえで必要だからです。

分かりますよね?」

「分かる」

「キアラちゃん、私も猫さんとお友達になりたい」

二人は頷き、馬車の中にいる部下達を見ていたわ。

これまで何度か、わたがしが魔物を追い返したのを見ているし、街の外に出れば様々な危険がある事は誰でも知っているわ。

「でも、いきなり強い魔物と契約は出来ませんから、次の街で小動物と契約して貰います」

「分かった」

「分かりました」

「魔法書を見せますので、読めない所は言ってください」

私は、商業ギルドで買い求めた魔法書を二人に手渡したわ。

二人はまだ、全ての文字を読める訳では無いので、手伝ってあげたわ。

「俺は風属性魔法に決めます!」

ルベールは男の子らしく、風属性魔法に決めたようね。

空を飛びたい気持ちは、よくわかるわ。

「うーん、うーん・・・」

一方、コレットは悩んでいるようね・・・。

「コレット、すぐ決める必要はありませんが、何を悩んでいるのでしょうか?」

「・・・キアラちゃん、水属性魔法と神聖魔法は、どちらの方が良いと思う?」

「そうですね、一種類は召喚魔法を選んで貰いますから、戦闘の事は考えないでいいです。

となると、水属性魔法で得られるのは、飲み水の確保や、お風呂に水を入れる際には非常に便利です。

また、氷を出せば食材を冷やしておくことが可能です。

神聖魔法は、ほとんど守りに特化しているので、召喚魔法とは相性がいいですね。

それと、いずれコレットに家族が出来た時も、病気や怪我を治してあげる事が出来ますね」

コレットは再び考え込んだわ。

「キアラ、俺も戦わない方が良いのか?」

「ルベールは男の子ですから、戦いに参加しても構いませんよ。

ですが、支援程度にしておいた方が良いでしょうね。

これまで戦闘訓練を受けた訳では無いでしょう?」

「うん、分かった!」

ルベールは魔法を使って戦って見たいのでしょうね。

その機会が全く無いと事では無いのですから、私も少しは戦う練習もした方が良いのかしら?

でも、私が戦う事になった時点で、負けのような気もするわね。

そもそも、戦いなんてやりたくないから商売をしているのに、私は部下を増やす事に専念する事にしたわ。

「キアラちゃん、私もキアラちゃんと同じ神聖魔法にします」

「分かりました、女の子はその方が良いかも知れませんね」

「はい」

さて、二人の使う属性も決まり、次に立ち寄った街で、二人に動物と契約をさせたわ。

ルベールは真っ白の犬と契約を交わし、コレットは三毛猫と契約したわ。

「ルベール、コレット、これから魔力に余裕が出来てきたら、また新たな動物を捕まえて契約してください。

その際動物は、ずっと出したままにしておいてくださいね」

「分かった」

「キアラちゃん、分かりました」

これで二人の魔力が増えてくれれば、問題無いわね。

増えなかった時には、普通に魔法を使って貰うしか無いわね。

後は、どうやって魔物を捕まえるかよね・・・。

私の場合は、運よくジェラートが来てくれたけれど・・・。

聞いて見るのが早いわね。

『わたがしは、どうして戦っても無い私と契約したのかしら?』

『ほーほっほっほ、それはジェラートに負けたからよ!』

『つまり、ジェラートの主人である私にも負けた、という事になるのかしら?』

『ほーほっほっほ、その通りよ!』

『なるほどね、一応私の魔法ではある訳だし、そう言う事になるのね・・・』

『ほーほっほっほ、でも二号は違うわよ、私が話をして主と契約して貰ったわ!』

『戦っていなくても、納得していれば契約してくれるという事ね。

という事は、ルベールやコレットに、わたがしの仲間を連れて来てくれる事は可能なのかしら?』

『ほーほっほっほ、それは無理ね、契約は自分が強いと認めた者としか行わないわ。

でも、弱い魔物なら可能ね!』

『そうなのね、でも、私は全然強く無いわよ?』

『ほーほっほっほ、私も肉体的な強さで言うと、主とさほど変わらないわ。

魔力の強さで言うと、主はかなりの強さを持っている事になるわね!』

『そう言われればそうね、わたがしの攻撃は魔法だったわね。

つまり、ルベールとコレットの魔力が増えれば、わたがしが捕まえて来た魔物と契約する事は可能という事ね』

『ほーほっほっほ、その通りよ!』

『わたがし、教えてくれてありがとう』

何とかルベールとコレットに、魔物と契約させる事は出来そうね。

そこまで行ければ、今周っている所を二人に任せて、私は他の事が出来る様になるわね。

次に進むべく道を考えつつ、二人の教育に力を入れる事にしたわ。


妨害していた商人を殺してからと言う物、特に私の妨害をして来る者はいなくなったわ。

アシュタンス伯爵の街の商人たちも、私に物を売ってくれるようになったわ。

領主達も、私に商売をするなとは言ってこなくなったし、何もかも順調よね。

しかし、油断は禁物よ、気を引き締めて行かないとね!

・・・しかし、世の中どうにもならない事ってあると思うのよ・・・。

今現在置かれている状況がそうよね。

私の目の前には、頭に角が二本生え、背中に黒い羽根と尖った尻尾、そして健康そうな褐色の肌をした少女の悪魔が、腕を腰に当てて立っているわ。

どうしてこうなったかと言うと、少し時間を戻すわね。

いつもの様に、幌馬車をエクレアに引かせて街道を移動中、突然わたがしとエクレアから慌ただしい声を掛けられたわ。

『ほーほっ、私では勝てないわ!

引き付けておくから、エクレアは主を連れて逃げなさい!』

『マスター、全力で走ります、何かに掴まって下さい』

エクレアがそう言ったのだけれど、幌馬車は止まってしまったわ。

『マスター、前に立ち塞がれました!』

『分かったわ、それで相手は魔物なの?』

『ほーほっほっほ、魔族よ!』

『魔族ですって!』

私はとても驚いたわ。

魔族がいる事は知っていたけど、それはこの大陸の北より海を隔てた魔大陸と呼ばれる所に住んでいて、人が住まう所にはいないと教わっていたわ。

その魔族が、どうしてこんな所にいるのよ!

嘆いた所で、状況が変わるわけでは無いわね・・・。

取り合えず、出払っている部下達を呼び寄せて、何とか打開するしか無いわね。

「出てこーい!出て来ないと、馬車を消滅させちゃうぞ!」

どうやら、そんな時間も無さそうね・・・。

「ルベール、いざとなったらコレットを連れて逃げなさい!

もう二人でも十分生きて行けるでしょう」

「キアラはどうするんだよ!」

「キアラちゃん・・・」

二人は心配そうに私の事を見ていたわ。

「私の事は良いから、自分たちの身を案じなさい!

私が出て行ったら、後ろから逃げるのよ!」

「・・・分かった」

「お兄ちゃん!」

ルベールは真剣な表情で頷いてくれたわ。

ルベールにお金の入った袋を渡し、後は自分の身を守るだけね!

私は覚悟を決めて、幌馬車の御者台の方から出て行ったわ。

それで、最初に戻る訳だけれども、やたらと日焼けして健康そうな少女の悪魔が、腰に手を当てて仁王立ちしているのよ。

私も悪魔の前に立ったわ。

『わたがし、手を出しては駄目よ!』

『ほーほっほっほ、頼まれてもやりませんわ!』

『いや、私が頼んだらやりなさいよ!』

まぁ、わたがしの事はどうでもいいわね。

「こんにちは・・・」

目の前にいる悪魔は、いきなり攻撃してくる様子は見られないから、挨拶をしてみたわ。

「やぁやぁ、こんにちは!」

やたらとフレンドリーな感じで挨拶を返してくれたわ。

これなら、いきなり殺される様な事は無いのかしら?

でも、慎重に言葉を選んで機嫌を損なわせない様にしないといけないわね。

「私に何か御用でしょうか?」

「そのとおーり!

たまたまこの近くを飛んでいたら、強い魔力を感じたので、どんな奴なのか見に来たんだけど、こんなにちびだとは思わなかったよ!」

ちびって何よ!

自分だってそうじゃない!

って言い返したいけど、流石にそれは不味いわね。

「特に用事が無い様でしたら、先を急ぎますので失礼しますね」

「待って、待って、待ーって!」

私が踵を返して幌馬車に戻ろうすると、前に回り込まれて止められたわ・・・。

「用事ならあるから!

コホンッ・・・。

僕と悪魔契約をしてよ!」

少女の悪魔は、改まって笑顔で言って来たわ。

軽い感じに聞こえるけど、言っている事は重いわね。

悪魔契約とは、危険な感じしかしないわ・・・。

もしかして、私はこの悪魔の奴隷になるのかしら・・・そんなの絶対に嫌だわ!

「すみません、悪魔契約がどの様な物か知りませんので、よろしければ説明して頂けませんか?」

「あっ、そ、そうだねー!

えーっと、悪魔契約とは、僕の出来る範囲で、何でも願いを叶えてあげる事なんだ!」

願いを叶えてくれる?

やはり、かなり怪しくて危険な感じしかしないわ。

しかし、僕?どう見ても女の子に見えるけど、悪魔に性別とかは無いのかも知れないわね。

「私は願いを叶えてもらう代わりに、何かを差し出す必要があるのでしょうか?」

「それは勿論!

願いの大きさによって、君から魔力を頂くのさ!

あっ、でも心配しないで!

君は魔力が多いから、願い次第では少なくて済むよ!

勿論大き過ぎる願いなら、それなりに魔力を貰う事になるけど・・・どうかな?」

悪魔は上目遣いでお願いして来たわ。

魔力をあげる分には構わないけど、特に無理をして願いを叶えたい事は無いわね。

「ごめんなさい、願い事はありません」

「そんなー!

何かあるよね、お金持ちになりたいとか、誰かを殺したいとか、王様になりたいとか、色々あるよね!」

確かに、お金持ちには成りたいし、殺したい人もいるわ。

でも、それは自分で成し遂げないと意味が無いし、殺したい人も自分でやらないと気が晴れないわ!

しかし、必死に頼んでくる悪魔側の利点は何なのかしら?

魔力は恐らく私よりも遥かに多いはずよね。

そうで無いと、わたがしが恐れたりはしないでしょうし・・・。

「質問しても良いでしょうか?」

「構わないよ、何でも聞いてよ!」

「では、いくつか質問させて貰います、悪魔さんは私から魔力を貰ってどうするのでしょうか?」

「それはねー、僕の魔力を増やすためさ!

悪魔は生まれ持った魔力を増やす事が出来ないんだ。

しかし、願い事を叶えてあげる事で得た魔力は、そのまま自分の魔力を増やす事になるんだよ!」

悪魔の目的は魔力の増加ですか・・・私達とは違って使っても増えないという事なのね。

「次に、私は魔力を取られる訳ですが、魔力量が減ったり、寿命が短くなったり、命の危険は無いのでしょうか?」

「普通の人だと、大抵願いを叶えた瞬間に死んでしまうんだけど、君の場合魔力が多いからその心配は無いかなー

後、魔力量も減ったりしないよ!」

何それ怖い!

でも、私の場合だと魔力を取られるだけで済むのね・・・それって部下達と同じって事なのかしら?

「最後に、悪魔さんの他にも、人の世界に来ている悪魔はいるのでしょうか?」

「多分いるんじゃないかなー、強くなるにはこの方法しか無いからね!」

まぁそうよね・・・。

という事は、他の誰かが私を殺してって、悪魔にお願いする可能性も出て来るわね・・・。

それを回避するためにも、もっと悪魔の事を知っておく必要がありそうね。

「ねぇ、もう質問は終わったんでしょうー!

僕と悪魔契約してよー!

良いでしょうーねっねっ!」

悪魔はもう我慢が出来ないと言わんばかりに、私にお願いしてきたわ。

ここで断れば、諦めて他の所に行ってくれるような雰囲気でも無いわね・・・。

しかし、何をお願いすればいいのかしら・・・あまり多く魔力を取られず、悪魔の情報を得られる願いは何かないかしら・・・。

そうだ、これならいいんじゃないかしら!

「悪魔さん、お願いを言いますね」

「うんうん、何でも言って!」

「私のお友達になって下さい!」

・・・。

二人の間に沈黙が訪れたわ。

「・・・えー、願い事ってそれ?

君、友達いないの?」

真顔で返されると、非常に辛いわね・・・。

そうよ!

男爵家の三女として産まれた私は、友達なんていないわよ!

ルベールとコレットも、友達かと言われれば違うと思うし、部下達も勿論違うわね。

どちらも私の命令には背けない以上、友達になる事は不可能よね。

「・・・はい」

「そうかー、よし!

その願い叶えよう、僕が友達になってやるよ!」

悪魔はにこやかに笑ってくれたわ。

「私はキアラです」

「僕はルシアテウス、長いからルシアって呼んでよ!」

「ルシア、よろしくお願いします」

「うん、キアラ、僕からもよろしくね!」

私は手を差し伸べ、ルシアと握手を交わしたわ。

その時、少し魔力を持って行かれたわ。

意外と少なく済んだわね、これで悪魔の情報を聞けるのであれば安い物よね。

「今のが、悪魔契約の魔力ですか?」

「その通り!あーでも、今回の契約は持続性があるから、毎日同じ量を貰う事になるねー」

えっ?!

友達と言えば確かにずっと続いていくものだけど、少しの魔力でも毎日とられていたら、ルシアはとんでもなく魔力が増えるんじゃないのよ!

「契約を解除する事は・・・」

「勿論できないよ!キアラが死ぬまでずっとね!

という事で、今日から友達として、一緒に生活をするからね!」

ルシアはそう言って、幌馬車に乗り込もうとしたわ。

「ちょっと待って!

一緒に生活をするってどういう事ですか!?」

私は慌ててルシアを止めたわ。

「そのままの意味だけど?

あーそうだね!

このままの格好ではまずいよねー!」

ルシアが指をパチンと鳴らすと、角、羽、尻尾、そして服も消え、裸の褐色の女の子の姿になったわ。

「これで良いよね!」

「良くありません!何で裸なんですか!」

「だって服持ってないから、キアラが買ってくれるよね!」

「分かりました、取り合えず私の服を着てください!」

収納から予備の下着と服を取り出し、ルシアに着せてあげたわ。

体型も似たような感じだったから助かったけど、本当に私と一緒にいるつもりの様ね・・・。

「キアラ、ありがとう!」

「それは良いですけど、本当に一緒に生活をするつもりですか?

ルシアは他の人の所に行って、悪魔契約をしに行けばいいんじゃないのですか?」

「悪魔契約は一度に一人までしか出来なくて、キアラとの契約が終わらないと、次の契約を結ぶ事は出来ないんだよー」

・・・私は最悪の契約をしてしまった様ね。

私がいつ死ぬかは分からないけど、私が長生きすればするほど、ルシアの魔力が増え続ける事になるわね。

その結果として、強力な悪魔を作り上げてしまう事になりそうね・・・。

でもそれは、私が死んでからの話よね。

ルシアが人を襲う様な悪魔には見えないし、ルシアが暴れ出した時には、私はすでに死んでいるから、気にしても仕方が無いわね。

よし、この事は考えない事にしたわ・・・。

ルシアはいい悪魔契約が出来たと、ニコニコして喜んでいる様だし、私はルシアから情報を得る事で元を取る事にしたわ。

幌馬車の中にルシアと乗り込んだら、ルベールとコレットが中にいたわ。

「貴方達、逃げなかったのですね」

「キアラを置いて逃げられるかよ!」

「死ぬときは、キアラちゃんと一緒です!」

「はぁ」

私は思わずため息をついてしまったわ。

「二人とも良いですか!

貴方達は私の奴隷ですが、自分の命を第一に考えてください。

この先商売を続けて行けば、私は何度も危険に身をさらす事になるでしょう。

ですが、それは自分で何とかしますし、出来ない時はそれまでだと思って諦めます。

ですので、貴方達も自分の身は自分で守る事!

勿論その為に、これからも色々教えて行きますから、いいですね?」

二人は暫く黙っていたけど、頷いてくれたわ。

「・・・キアラ、分かった、でもまだ俺達はキアラがいないと何も出来ないから、よろしくお願いします」

「キアラちゃん、大好き!」

コレットは私に抱き付いて来てくれたわ。

「なるほどねー、奴隷を買っていては友達なんて出来ないよねー!」

ルシアは、その光景を見てニヤニヤしていたわ。

「いけませんか?」

「いいや、いけなくはないよ、その為に僕が友達になったんだからね!

それより二人を紹介してくれよ!」

「はい、ルベールとコレットです」

「ルベールです」

「・・・コレットです」

「ルベールにコレットね、僕は悪魔のルシアテウス、ルシアって呼んでね!」

二人は恐る恐る挨拶を交わしていたわ。

こうして、悪魔のルシアを入れて、四人で行商を行って行く事になったわ・・・。

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