第四話 キアラ商会

村を出た所で一度幌馬車を止め、部下達を乗り込ませたわ。

『おはぎ達はこれからずっと馬車に乗って、商品を買いに来た人達に愛想を振りまくのよ!』

『撫でて貰えばいいニャ?』

『そうよ、簡単でしょ』

『任せるニャン!』

猫が五匹ニャーニャーとうるさいけど、お客の受けも良いだろうし、寝る時は抱いて寝ると温かいのよね。

それに寂しさもまぎれると言う物よ。

『わたがしは、幌の上に乗って周囲の警戒をして頂戴』

『ほーほっほっほ、お任せあれ!』

『クッキーは、幌の中の木の枠の所に隠れていて、私に危害を与える者が来たら、遠慮なく噛み付きなさい!』

『ご主人様、僕頑張ります!』

『ジェラートとティラミスは、今まで通り村に魔物が近寄らない様に警戒していて頂戴!』

『了解したのじゃ』

『ボス、分かったわ~』

ジェラートとティラミスは、本当なら幌馬車の護衛に付けたい所だけれども、流石に魔物を引き連れて行く訳には行かないわ。

その点わたがしとクッキーは魔物でも小さいから、街に入る際には幌馬車の中に隠れられて便利よね。

おはぎたちは護衛にはならないだろうし、小さい魔物を捕まえて来てもらった方が良さそうね。

でもそれは、魔力が増えてからの話ね・・・。

『エクレア、後はよろしくね』

『マスター、お任せを!』

私は御者台から荷台に移り、毛布にくるまって横になったわ。

幌馬車はエクレアに引かれて丸一日、次の日の朝にはアシュタンス伯爵の街に、何事もなく無事辿り着いたわ。

何事も無かった訳では無いわね・・・。

何度か雷が落ちる音が聞こえたから、わたがしが近寄って来た魔物を排除したのでしょう。

本来なら、この街までは二日かかるのだけれども。

エクレアは休む必要も、水を飲んだり食事をする必要もないので、夜通し幌馬車を引いて一日で辿り着けたわ。

門番にお金を払って街へと入ったわ。

先ずは商業ギルドに行って、商売を始める許可を貰わないといけないわね。

私は商業ギルドの脇に幌馬車を止めて、中に入って行ったわ。

商業ギルド内は比較的綺麗で、受付のカウンターが一番手前にあり、横にはテーブルがいくつか置かれていて、商人と思われる人達が雑談をしていたわ。

私は受付の前に歩いて行ったわ。

カ、カウンターが高いわね・・・つま先立ちして何とか顔を出せたわ・・・。

「お嬢ちゃん、商業ギルドに御用でしょうか?」

受付のお姉さんが、微笑を浮かべて私を見ていたわ。

茶色の髪をポニーテイルにまとめていて、笑顔がとても似合うわね。

他にも、受付のお姉さんは数人いるけど、どの人も見た目は良いわね。

恐らく、そこら辺にいるおやじたちの相手をする為に、顔で選ばれているんだわ。

「商売を始める事になったので、ギルドへの登録をお願いします」

私がそう言うと、受付のお姉さんは驚きの表情を見せていたわ。

「えーっと、登録ですね、分かりました、書類を記入して貰うので、あちらの席に行きましょうか」

でもそこはプロよね、こんな小さな私にもちゃんと対応してくれたわ。

私と受付のお姉さんは、後ろにあるテーブルの椅子に腰かけ、私に一枚の紙とペンを差し出して来たわ。

「文字は書けますか?」

「はい、問題ありません」

私は紙に、名前をキアラ、年齢を十二歳、商会名をキアラ商会と書いたわ。

この世界で年齢なんて、貴族位しかまともに数えていないわ。

平民だと背格好で大体どのくらいか判断するそうよ。

貴族名も書かなかったわ。

これから私は貴族では無く、平民として過ごすのだからもう不要よね。

書き終えた紙を、受付のお姉さんに渡したわ。

「キアラちゃんですね、歳は十二歳・・・十二歳?」

「十二歳です!」

受付のお姉さんは、私の体型を見て疑っていたけれども、年齢なんて調べようが無いので、それで通したわ。

「そうですか・・・では登録料として、千ユピス頂きます」

千ユピスは結構痛いけど、必要経費よね・・・。

私は収納から千ユピス出して、受付のお姉さんに渡したわ。

「収納の魔道具!」

受付のお姉さんは驚いて、大声を出したわ。

その事で、周りにいた人達もざわめきだした。

お父様から、収納の魔道具が使える魔法使いは貴重だから、商人や貴族、それに王国も欲しがる人材だと教えられたわ。

そして、私を利用しようと近寄って来る者もいるから、注意しなさいとも言われたわ。

「ごめんなさい、登録をして来るから、少し待っていてね」

受付のお姉さんはカウンターへと戻って行ったわ。

その隙にと、近くにいた商人と思われる男達が近寄って来て囲まれてしまったわ。

「お嬢ちゃん、俺の所で働かないか?いい給料はらうぜ!」

「お嬢ちゃん、わしはこう見えて王都に店を構えておる、わしの所で働くのがよかろう!」

『おはぎ、助けて!』

『すぐ行くニャ!』

見知らぬ男達に囲まれた私は、身をすくめてガタガタと震えてしまったわ・・・。

すぐに私の周りとテーブルの上に、おはぎ達が来てくれたわ。

「「「シャーッ!!」」」

「何だこの猫は!」

「ひっかくんじゃない!」

おはぎ達によって、男達は無事追い払われたわ。

でも、遠巻きにこちらを見ているわ。

寒気がするわね・・・。

ちょっと昔の事を思い出しちゃったじゃない!

やはり男は駄目ね・・・ここが商業ギルド内で無ければ、部下達に命令して殺してやりたいけど、残念ながらそれは出来ないわね。

『おはぎ、助かったわ、ありがとう』

『お安い御用ニャ!』

そして、申し訳なさそうに受付のお姉さんが戻って来たわ。

「ごめんなさい、私が大声を出したばかりに、怖い思いをさせてしまいました・・・」

「いえ、大丈夫です、この子達が守ってくれましたから」

私は、テーブルの上にいるおはぎを撫でてやったわ。

「もしかして、召喚魔法?」

「はい、と言っても猫くらいしか使役出来ません・・・」

「でも猫は可愛いからいいじゃない、私も触っていいですか?」

「どうぞ」

『皆撫でて貰いなさい!』

おはぎ達は、受付のお姉さん近寄って撫でて貰っていたわ。

受付のお姉さんも、猫を可愛がられて満足している様子だわ。

猫は癒しよね、おはぎ達には直接言わないけど、色んな所で癒されていて感謝しているわ。

「幸せです・・・はっ、ごめんなさい、これが商業ギルドカードです」

受付のお姉さんは、私にカードを渡してくれたわ。

「キアラちゃん、私の名前はマーシャです、困った事や分からない事があったら、何時でも聞きに来てくださいね」

「はい、よろしくお願いします」

「では、商業ギルドの規約を説明しますね。

商業ギルドカードは、フレイカウニ王国のみ有効です。

他の国で商売をする場合は、その国の商業ギルドに行ってまた登録する必要があります。

街に入る際に、商業ギルドカードを提示すれば無料で入れます。

しかし、そこで商売をする場合には、商業ギルドがあるならそこで、無い場合は領主に手数料を支払う必要があります。

手数料はその街によって変わります、この街の場合は百ユピスです。

お店を構えるのであれば、その街の商業ギルト、または領主に申請する必要があります。

この街でお店を構える場合は、手数料として三千ユピスかかります。

それと毎月納めるお金があるのですが、それは店の大きさによって変わります。

商業ギルドカードを紛失した場合、再発行できますが、手数用として五百ユピス頂きます。

以上ですが、覚えきれないでしょうから、分からない時には私に聞きに来てください」

「はい、ありがとうございます」

結構お金がかかるわね。

取り合えずお店はまだ構えないから、ギルドか領主へ手数料を支払うだけで良さそうね。

「マーシャさん、商品を買うだけでも、手数料を支払う必要があるのでしょうか?」

「この街では必要無いですが、商業ギルドが無い場所だと、支払う必要があります」

「分かりました、ありがとうございます」

「いえいえ、今日はこの街で売って行くのですか?」

「今日はまだ買って行くだけです」

「分かりました、キアラちゃん頑張って下さいね、応援していますよ!」

「はい、では失礼します」

マーシャに見送られて、商業ギルドを出たわ。

『おはぎ以外は、馬車に戻ってなさい!』

私はおはぎを抱きかかえて、市場へと向かったわ。

『今日は売らないニャ?』

『えぇ、塩と蜂蜜は他の場所で売った方が儲かるのよ、それから、おはぎは私に不用意に近づいて来た男を追い払って頂戴』

『分かったニャン!』

流石に塩と蜂蜜だけでは商売として成り立たないので、食料や消耗品等を少しだけ市場で買ったわ。

商品を受け取る際、収納の魔道具を使わないといけないわ。

その度に商人から勧誘を受けたけれど、おはぎが上手く追い払ってくれて助かったわ。

後は、私が食べる物を買わなくてはならないわね。

デュロンが、出掛ける際に渡してくれたお弁当も無くなってしまったわ。

場所さえあれば自分で料理は出来るのだけれども、そんな物は無いわね。

当分の間は、パンと干し肉と生野菜、それと果物で我慢するしか無いわね。

数日分の食料を買い込み、井戸で飲み水を汲んで、出掛ける準備は整ったわ。

私は幌馬車に戻って、エクレアに指示を出したわ。

『エクレア、この街を拠点に、周囲にある子爵領や男爵領を周るわよ!

次は、エインテュス子爵領に向かって頂戴!』

『マスター、了解しました』

こうして私は、初めての行商に向かって行ったわ。


エインテュス子爵領の街での初めての商売は、驚くほど上手く行ったわ。

「あら、可愛いお嬢さんが商品を売ってくれるのかしら?」

「猫ちゃんも可愛いわね」

「お塩が安いわ!」

「本当にこの値段で買い取ってくれるのか?」

「はい、今後ずっとこの値段で買い取らせてもらいます」

最初は私の様な少女が売っても買ってくれるのか、商品を売ってくれるのか、とても不安だったけど。

最初の一人が、値段を聞いて買ってくれた後は、それが広まってあっという間に売り切れてしまったわ。

それもそのはずよね、事前に調べた値段より一割安く売ったのだから。

そして買取も一割高く買い取ったわ。

それでも大儲けよ!

街と街を結ぶ街道には、魔物や時には盗賊も現れるわ。

護衛を付けていないと、襲われた時に対処できなくて、死んでしまうかも知れないわ。

だから、商品にその分の費用が上乗せされていて、高くなってしまうわ。

私には護衛を雇う必要が無いから、その分は丸儲けって事よね。

また、一か月後に訪れる事を宣伝して、次の街へと向かったわ。

こうして私は、他の商人たちより安く売り、高く買う事で行く先々の街で稼いでいったわ。

一ヶ月ほど街を巡って必要な商品を買い集めた私は、ブランタジネット男爵領へと戻って来たわ。

それでもやはり、商人はこの村を訪れてはいなくて、今まで不足していた商品を買い求めに来た人達からお礼を言われたわ。

そして、一か月の報告をするために実家に帰って来たわ。

お父様から資金提供をしてもらっているため、報告しないわけにはいかないわよね。

それと、お風呂に入りたかったというのが一番の理由ね。

毎日、朝と夜に浄化の魔法で汚れは落としているけど、お風呂に浸かってゆっくりしたいわ。

だけど、家に入る前に、わたがしにお願いしておかないとね。

『わたがし、お前の仲間を明日の朝までに捕まえて来れるかしら?』

『ほーほっほっほ、簡単な事よ!』

『頼んだわね』

これで余っている魔力の使い道と、道中の防衛の強化が出来るわね。

そして、改めて家の中に入ったわ。

「お帰りなさいませ、キアラお嬢様」

執事のジョセフが迎え入れてくれたわ。

「ジョセフ、ただいま、お父様は書斎かしら?」

「はい、キアラお嬢様のお帰りを、首を長くしてお待ちかねです」

「それなら早く行って差し上げないとね」

「よろしくお願いします」

私はまっすぐにお父様の書斎に向かったわ。

「お父様、ただいま戻りました」

書斎の扉を開けて中に入ると、いきなりお父様に抱きしめられたわ。

「キアラ、よく無事に戻って来た、心配していたんだぞ!」

「お父様、苦しいです」

「おぉ、すまんな、つい力が入ってしまった」

お父様は私から離れて、書斎の席に座ったわ。

「改めて、キアラ、お帰り」

「お父様、ただいま」

「うむ、それで商売の方はうまくいったのか?」

「はい、これがこの一か月の収支になります」

私は収支をまとめた紙を、お父様に手渡したわ。

「・・・ふむ、凄いでは無いか!

商人とはこんなにも稼げるものなのだな!」

お父様非常に驚いているわ。

「いえ、お父様、私の場合は少し特殊ですので、他の商人はそのように稼ぐことは出来ないかもしれません」

「召喚魔法であったな」

「はい、それと、お父様が買ってくれた、収納の魔道具が無ければ不可能でした」

「そうかそうか、キアラの役になったのであれば幸いだ」

お父様は、自分が用意したものが役に立ったと分かって、大いに喜んでいたわ。

「それで、お父様から用意して貰ったお金を、少しずつ返却していきたいのですが、多くは返却できません。

ですので、毎回二千ユピスずつでよろしいでしょうか?」

「いや、返却する必要はない、あのお金はキアラの結婚資金として貯めていたお金だからな。

もし結婚するようであれば、自分で用意してくれ」

お父様はそう言って、ニヤッと笑ったわ。

私が結婚するつもりは無い事は、お父様も知っている。

つまり、返却する必要も、貯蓄する必要も無いと言う事ね。

「お父様、ありがとうございます」

「うむ、今晩は泊まっていくのであろう?皆キアラを心配しているから、顔を見せて安心させてやりなさい」

「はい、分かりました」

それから、家族全員に会って旅の話をしたりして、久しぶりに楽しく過ごして、家族の温かさを十分感じることが出来たわ。

翌朝、また家族全員に見送って貰い、村を出て行ったわ。

村を出て暫く行った所で、わたがしと合流したわ。

『ほーほっほっほ、主のご希望通り連れてきましたわよ!』

『わたがし、ありがとう』

わたがしが連れて来たスノウオウルと契約して、部下にしたわ。

『わたがしには、新人の教育を任せるわね』

『ほーほっほっほ、分かったわ!』

基本的に同種族の部下には名前を付けないわ。

数が多くて名前を覚えきれないし、付けるのも面倒だわ。

呼ぶ必要があるときには、番号で呼ぶようにしているわ。

この場合、わたがし二号ね!

そんな事はどうでもいいわね。

それより、わたがしと一緒に私を待っていた、ジェラートとティラミスもいたのだけれども・・・。

『なんか、貴方たち大きくなってない?』

『そうですじゃ、村に近づいてきた魔物を倒して、徐々に強くなっておるのじゃ』

『ボス、この辺りにいる魔物は大方片付けたわ~、もっと遠くに行っても構わないかしら~』

『そう、村に危害が及ばないのであれば、構わないわよ』

『分かったわ~』

『主殿のお役に立てるよう、強くなりますのじゃ』

契約した魔物って、強く成る物だったのね。

契約時の強さから変わらない物だと思っていたわ。

強くなってもらう分には、全然問題ないわね。

『エクレア、お願いね』

『マスター、承知しました!』

移動はエクレアに任せて、荷台でゆっくりすることにしたわ。


それからも各街を周る商売は、順調に稼げていったわ。

しかし、二か月辺りを過ぎた時、中継点のアシュタンス伯爵の街に立ち寄った際に問題が起こったわ。

「キアラちゃん、ごめんよ、商品を売ってやる事が出来ないんだ・・・」

何時も商品を買っているお店に行くと、そう言って謝られたわ。

「それはどうしてですか?」

「上からのお達しでね・・・俺としてはキアラちゃんに売った方が儲かるんだが、それをやってしまうと俺まで他の店から売って貰えなくなるんだよ。

本当にごめん!」

「そうでしたが、御迷惑をおかけする訳には行かないので、また買えるようになったらお願いします」

「あぁ、その時はよろしく頼むよ」

私は店を出て考え込んだわ。

恐らく、他の店に行っても同じ対応をされるのでしょうね・・・。

私がこの周辺の街に行商をしに行くようになって、他の商人たちの売り上げが極端に落ちているのは、各街に配置している、ラムネやチョコの部下達によって確認していたわ。

その事で、何か私に仕掛けて来るのでは無いかと思っていたけれども・・・。

まさか、商人たちを脅して私に物を売らないようにさせるとは思わなかったわ。

先程、上の方からのお達しと言っていたわね。

まさか、商業ギルドからの指示と言う訳では無いでしょうね・・・。

私は確認するべく、商業ギルドへ向かったわ。

『おはぎ達、着いて来なさい!』

『ボス、分かったニャン!』

私はおはぎ達を引き連れて、商業ギルド内へと入って行ったわ。

おはぎ達の役目は私の護衛と、マーシャの為ね。

受付嬢のマーシャは、私の事を見るなり飛んできて、早速おはぎ達を撫でまわしていたわ。

「マーシャさん、お久しぶりです。聞きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

「えぇ、構いませんよ、そこのテーブルに座って話しましょう」

私とマーシャは、おはぎ達を抱きかかえてテーブルの席に座ったわ。

「キアラちゃん、聞きたい事って何でしょうか?」

「はい、今日街の商店に買い出しに行ったら、販売拒否をされてしまいました」

「何ですって!!」

マーシャが大声を上げた事で、また注目を集めてしまったわ・・・。

「マーシャさん、声が大きいです!」

「ごめんなさい、あまりの出来事だったものでしたから・・・」

マーシャの驚き方からすると、商業ギルドは関わっていない様ね。

「それで、販売拒否をされたのは今日が初めてですか?」

「はい、商業ギルドからその様な通達を行ったという事では無いのですね?」

「勿論です、商業ギルドは中立な立場です。特定の商人に対して商売の邪魔をするような通達を行う事はありません!」

「そうでしたか、となると、大店の商人か、それとも貴族からの通達という事になりますね」

「えぇ、その様な通達が出されているとしたらそうでしょう・・・しかし、商業ギルドとして止めるよう通達を出す事は可能です!

それなりに手続きがあるのですが、私が何とかしますよ!」

マーシャはそう言ってくれたけれども、マーシャが商業ギルドを首にされる可能性もあるわね・・・。

「いえ、通達を出しても、売る売らないは自由だと言われればそれまでですので・・・」

「そうですね、力になれなくてごめんなさい・・・」

「マーシャさん気にしないで下さい、それより、商品の値段は自由に決めていいんですよね?」

「はい、それは勿論各商人の自由です。

ですが、長年の慣習で、ある程度の値段はきめられている様です」

「それを私が破った事で、この様な仕打ちを受けたという事ですね」

「多分そうだと思います・・・。

でも、キアラ商会の噂はいい話しか聞いてませんよ。

商人達からの受けは悪いですが、街に住む人達からは良好です」

マーシャは私を励ますように言ってくれたわ。

「それだけ聞ければ、まだ頑張って行けそうです。

今日はありがとうございました」

「キアラちゃん、絶対に負けちゃ駄目よ!

頑張ってね!」

マーシャは笑顔で見送ってくれたわ。

この街で商品が買えないのは少し痛いけど。

それは他の街や村で買いそろえればいい事ね。

私は街を出て、次の場所へと向かったわ。


次の目的地の村に着くと、入り口で止められたわ。

「キアラ商会は、この村で商売する事を禁ずる!」

ここまで手を回しているという事は、商人では無く、貴族と言う事ね。

商人が領主に命令する何てこと、出来ないわ。

「村に入る事は出来るのでしょうか?」

門番は少し悩んでいたけど、絶対に商売はしてはならないと念を押されて入れてくれたわ。

村の中で商売をしてはいけないけど、外でする分には問題無いわよね。

『エクレア、ゆっくり村を一周して頂戴!』

『マスター、承知しました』

私は御者台に立ち、息を大きく吸いこんだわ。

「キアラ商会でーす!

これより、村の外で露店を開きまーす!

お手数ですが、村の外までお越しくださーい!

買取もいつもの様に行いまーす!

お手数ですが、村の外までお持ち下さーい!」

大声で、村中に宣伝して回って、喉が痛くなったわ・・・。

でもその甲斐あって、私が村の外に出た時には、いつもの様にお客がいっぱい来ていたわ。

私は急いで準備をして、商売を始めたわ。

暫くすると、私が商売しているのを聞きつけて、領主がやって来たわ。

「貴様、誰の許可を得て商売をしている!」

「ここは村の外ですから、許可を得る必要無いと思いますが?」

私がそう答えると、領主は怒りの表情を見せていたわ。

「この領地は私の物だ、どこであろうと私の許可なく商売をする事は許さん!」

いえ、貴方の土地では無く、王国から管理を任されているだけですよね。

そう反論したかったけど、こじれるのは面倒ですから、予定していた通り、集まった人たちを利用する事にしたわ。

「そうですか、ここの領主様は、民に高い商品を買わせ、作った物を安く売らせるのですね。

それではいつまで経っても民は豊かになりませんし、領主様も出世できないでしょう!」

「なっ!」

私の発言に、周りに集まった人々達も賛同の声を上げてくれたわ。

「そうだそうだ!」

「キアラ商会は何時も安く売ってくれるわ!」

「今までより高く買い取ってくれるから、生活が楽になったぞ!」

「領主様、キアラ商会を認めてあげて!」

この状況で領主も、私に商売をするなとは言えなかったわ。

ざまぁ!

「わ、分かった、キアラ商会が村の外で商売する事を認める・・・。

ただし、きちんと手数料を払うのだぞ!」

「どうしてでしょう?ここは村の外ですので、その必要は無いと思いますが?」

「ぐっ、それならば、商売するのは認め・・・」

領主は認めないと言いかけたが、周囲の人達からの冷たい眼差しを受け、言い留まったわ。

「お優しい領主様、認めて頂けるのですね!」

「う、うむ、も、勿論だ!

では、これで失礼する!」

領主は足早に去って行ったわ。

そして集まっていた人達から歓声が巻き起こったわ。

「皆さん、ありがとうございます。

これでまた商売を続ける事が出来ました。

これからもよろしくお願いします」

その後の商売は問題無く上手く行ったわ。

そして、領主への手数料は、勿論払わなかったわ。

今後の事を思えば払った方が良かったのでしょうけれど、払ったら負けた様な気になるから払わなかったわ。

その後訪れた街でも、同じようなやり取りを繰り返したわ。

中には情報を事前に仕入れたのか、街の中にも入れてくれない場所もあったけれど、門の前から叫んで買いに来て貰ったわ。

こうして私は、妨害を受けても問題無く商売を続けて行ったわ。

そうなれば、次の妨害が来る事は予想出来るわね。

『イチゴ、ジェラート、ティラミス、私の所に来て頂戴!』

『ご主人様~、分かりました~』

『主殿、すぐ向かいますじゃ』

『ボス、分かったわよ~』

私は戦える部下達を集めたわ。

『イチゴは、幌馬車が進む先の偵察をお願い!』

『分かりました~』

『ジェラートとティラミスは、イチゴが発見した敵の排除ね!』

『承知したのじゃ』

『承知したわよ~』

『人に見つからない様、気を付けなさいよ!』

街中で襲って来る事は無いと思うけど、もしそうなっても、わたがしとクッキーがいるから大丈夫よね?

それに一応おはぎもいるし、何とかなると思うわ。

そして、私の予想通り、街道を移動中に襲われたわ。

いえ、襲われてはいないわね・・・イチゴが発見して、ジェラートとティラミスが事前に排除したのだから。

勿論全滅させたわよ。

何も知らない雑魚だろうし、雇われたとはいえ、人を暗殺するような人が善人の訳無いわよ!

まぁ、私が直接手を下したわけでも、死体を見た訳でも無いのだけれどね・・・。

そんなクズが死んだところで、私の心が痛む事は全く無かったわ。

その後も何度か襲撃はあったけれども、ジェラートとティラミスに勝てるような相手は来なかったわね。

少女一人の暗殺くらい、雑魚でも倒せると思ったのか。

それともそいつらも証拠隠滅に消す予定の者達だったので、強くない者達を寄こしたのかは分からないわね。

一段落ついたら、また強い魔物を確保しておく必要がありそうね・・・。


そんな事があった後、アシュタンス伯爵の街に入る所で、門番に手紙を渡されたわ。

手紙の内容は、私のせいで他の行商を行っている商人が困っている。

なので、一度話し合いの場を設けたい。

話し合いに応じてくれれば、この街での商売を認めてやる。

と言う舐めた物だったわ・・・。

差出人の名前は記されていないわね。

「ふぅ~」

落ち着け~、まだ怒りを表情に出しては駄目よ!

ここまで散々妨害されて来て、私の怒りは最高潮に高まっているわ!

でもまだよ、いつもの様に笑顔を振りまくのよ!

私は自分に言い聞かせ、何とか平静を保つことが出来たわ。

手紙には話し合いをする場所も記されているわ。

この街の奥まった所で怪しげで危険な場所だわ。

スラム街と言う訳では無いけれど、無法者達がたむろしている所ね。

恐らく、私が話し合いにその場所に行ったら、捕まっていたぶられるか、殺されるわね。

でも、行かないという選択肢は無いわね。

せっかく向こうから会ってくれると言うのですもの、顔を拝みに行ってやろうじゃない!

『ラムネ、この建物の周囲を外から調べて頂戴!』

『了解ピヨ』

『チョコ、内部に潜り込んで、中の様子を調べて頂戴!』

『主様、承知!』

『わたがしは、少しの間送還するわね、またすぐに出してあげるから我慢してね』

『ほーほっほっほ、気にしなくていいわよ!』

魔物のわたがしを連れて歩く訳にはいかないから、一度送還したわ。

『クッキーは、私の足に捕まってなさい!』

『ご主人様、捕まりました!』

ひんやりとした感触がちょっと嫌だけれども、スカートの中に隠しておけば、いつでもクッキーに噛みつかせる事が出来るわ。

『おはぎは、私が抱いて行くわね』

『了解ニャン!』

おはぎを抱きかかえて、準備完了ね。

『ラムネ、状況はどうかしら?』

『建物の周囲には人はいないピヨ、入り口に一人立っているだけピヨ』

『分かったわ、チョコはうまく中に侵入出来たかしら?』

『主殿、侵入完了しました、内部には武装した男性が五名、太った男性が一名、細長い男性が一名です』

『分かったわ、そのまま監視を続けて、人数に変化があったら知らせなさい』

『承知!』

『行くわよ!』

私は呼び出された建物に向かって行ったわ。

「呼ばれてきました」

私は建物の前に立っている男に、手紙を見せたわ。

「その猫は置いていけ!」

「どうしてでしょう?この猫は私の一番大切なお友達なのです」

私は大事そうにおはぎを抱きしめ、泣き出しそうな表情をしたわ。

「わ、分かった、連れて行って構わない、入れ!」

男は扉の鍵を開け、私と一緒に中に入って鍵を閉めたわ。

ふん、猫くらいでビビってんじゃないわよ!

「着いて来い!」

薄暗い廊下を進み、奥の部屋に案内されたわ。

「連れてきました!」

「入りなさい」

男が扉を開けて私を中に入れ、私が外に出ないよう、扉の前をふさぐように立ったわ。

「これはようこそいらっしゃいました、こちらにお掛けください」

部屋の中にはチョコが報告していた、太った男性がテーブルの席に座り、その後ろに細長い男性が立っていた。

私は太った男性の正面の席に腰かけたわ。

この部屋には窓が無く、扉は二か所あり、光源はランプのみで少し薄暗いわ・・・。

「初めましてお嬢さん、私はベルホルト商会のベルホルトと申します。

それと、この街の商人たちのまとめ役を務めております」

「私はキアラ商会のキアラです」

取り合えず挨拶を交わしたわ。

『主殿、隣の部屋に武装した男が五人潜んでおります』

『分かったわ』

「さて、今回お越し頂いたのは、お嬢さんの商売のやり方について少々思う所がありましてな。

お嬢さんはとてもお若い、商売とはどのような物か分からないのは仕方のない事・・・。

そこで、私がお嬢さんに商売のイロハを教えて差し上げようと思い、ここまで来ていただいたわけです」

「そうでしたか、こんな人気が無く怖い場所に、私のような少女を誘い出す様な方ですから、ろくでも無い方だと思っておりましたが、誤解だったようですね」

私は笑顔でそう答えたわ。

「なっ、いやはや、確かにそう思われても仕方がありませんな。

しかし、表立って商売の事を話すわけにはいきませんからな、このような場所を選んだまでです」

「そうですね、窓もない部屋なので外から見られることも無く、声が漏れ出る事も無いので安心しました」

「その通りです!

そこでですな、今までお嬢さんがやっていた商売の改めていただきたいと思っておりましてな。

具体的には、商品の値段についてですが、こちらの資料を見ていただけませんかな?」

ベルホルトの後ろに立っていた細長い男性が、私に紙を差し出して来たわ。

それには、商品の値段を他の人達と同じにして、更に周る街も限定されていたわ。

「その資料の通りにしていただければ、お嬢さんはさらに儲ける事間違いありません」

「そうですね、ですがお断りいたします。

今までのやり方でも十分儲かっていますし、何より、お客様に喜んでもらっていますからね」

「なんだと!下手に出ていれば調子に乗りおって!」

私は笑顔で答えたのだけれど、ベルホルトは激怒したわ。

まっ、茶番に付き合うのはここまでね。

『クッキー、後ろの扉をふさいでいる男に噛みつきなさい!』

クッキーはスルスルと私の足から離れて行ったわ。

「いてっ!」

扉をふさいでいる男から、小さな声が聞こえたわ。

クッキーは大きくないから、チクッと刺された痛みしかないけど、その毒は強力で即効性があるわ。

バタッ!

大きな音を立てて男が倒れ、痙攣していたわ。

「おい、何が起きている!?

お前たち出て来い!」

ベルホルトが慌てて、隣に潜んでいた男達を呼んだわ。

「ベルホルトの旦那、この少女を好きにしていいんですかい?」

「あぁ、構わない、だが殺すなよ!

収納の魔道具を使える者は貴重だ!

この奴隷の首輪をつけて、こき使わなければいけないからな!」

武装した男達五人はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ、私の事を見ていたわ。

『わたがし、出てきなさい!』

『ほーほっほっほ、やっと私の出番が来たようね!』

『えぇ、あの太った男と細長い男以外は遠慮なくやりなさい!』

「スノウオウル!!」

武装した男達は、わたがしを見て慌てて剣を抜いたけれど、雷の速度に敵う訳は無いわ。

バリバリバリバリ!

わたがしが放った雷は五人の男達を貫き、一瞬のうちに絶命させたわ。

「さて、残りは貴方たちだけよ!」

私は薄ら笑いを浮かべ、逃げ出そうと床を這っている二人に近づいたわ。

「ひぃぃぃぃ、た、助けてくれ!」

「わ、私は主に従っただけです!た、助けてください!」

「あら、私を奴隷にするつもりだった人を助ける必要は無いわね!」

「そ、そ、それは!う、上から言われたことで、わ、私はそれに従っただけだ!」

「上ね・・・それはウォルマン商会か、ウルアノス公爵かしら?」

「し、しらん、それ以上は、は、話せん!」

「ふ~ん、ここまで来て話せないんだ・・・そちらの従者さんはどうなのかしら?」

「は、話します!ベルホルト様に言って来られたのはウォルマン商会で、き、貴族に命令したのはウルアノス公爵様です!」

「まっ、そうよねぇ~、素直に話してくれた貴方は・・・楽に殺してあげるわ!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」

従者は必死に這って逃げ出そうとしていたわ。

『クッキー、噛みつきなさい!』

クッキーが従者に噛みつくと、すぐに痙攣して死んだわ。

その様子を見ていたベルホルトは顔面蒼白となり、ガタガタと震えていたわ。

「あなたは簡単には殺さないわ、どのようにして殺してあげようかしら?」

「た、た、助けてくれ!な、何でも言う事を聞く!か、か、金もいくらでも用意しよう!」

「何でも言う事を聞くね~、私はこの街で商売を出来なくされて、街道で命を狙われ、ここでは奴隷にされようとしたのよ~。

そんな事をした貴方の言う事を、私が信じるとでも~?」

「わ、わ、悪かった!う、上に命令された以上、こ、こ、断れなかった!

も、もし断ると、わ、私も同じ目に合う!

ど、ど、どうか分かってくれ!」

このクズの声を聞いてるのも、嫌になって来たわね。

『わたがし、この男を麻痺させる事は可能かしら?』

『ほーほっほっほ、余裕ですわよ!』

バチッ!

「あっ!がっ!」

いい感じで意識も残っているわね。

私は床に転がっている剣を拾い、ベルホルトの足に突き刺したわ。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「あははははははっ、いい気味ね、まだまだ行くわよ!」

私は何度も何度も剣を突き刺したわ。

「た、た、たすけてくれ・・・、も、もうやめてくれ・・・」

「はぁはぁ、突き刺すだけでも疲れるわね・・・」

床は男の血で真っ赤に染まっていて、このまま放置していても出血多量で死ぬわね。

でも、それでは面白くないわよね!

私は剣を捨て、返り血で汚れた自分に浄化の魔法を掛けて、綺麗に汚れを落としたわ。

毒で死んだ男からこの家の鍵を取り、壁に掛けてあるランプを手に持ったわ。

「さよなら、自分の体が焼けて行くのを、じっくり楽しみなさい」

「やめてくれーーー!!」

私はランプを床に叩きつけると、瞬く間に炎に包まれたわ。

『皆引き上げるわよ!』

わたがしを送還し、部屋を出て行ったわ。

私が遠く離れた所で、火の手が上がっているのが見えたわ。

街の人や警備兵達が駆けつけて、火を消そうとしている様だけども、燃え尽きるまで消えないでしょうね。

久々にスカッっとしたわね!

まだ大本のクズ共は残っているけど、殺すには早すぎるわね。

じっくりといたぶって殺してあげるわ!

「あーはははははははははっ!」

『ボス、人目があるニャ!』

『あっ、思わず笑いが込み上げて来たのよ・・・』

私はいつもの様に心を静めて、笑顔を作ったわ。

『どうかしら?』

『いつものボスニャン!』

私は少し疲れたので、幌馬車に戻って休む事にしたわ・・・。

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