第二話 ブランタジネット男爵領

あれから一年が経ち、私の部下達もかなり増えたわ。

部下と言うのは、勿論契約した動物や魔物の事ね。

黒猫のおはぎには、子分が四匹。

青い鳥のラムネには、お友達の小鳥が三羽。

ネズミのチョコと、その家族が五匹。

レッドファルコンのイチゴ。

シルバーウルフのジェラートと、その家族が八匹。

ホーンホースのエクレア。

魔力が増えた際に、おはぎとラムネに捕まえて来なさいと言ったら、この様な結果になってしまったわ・・・。

ネズミやファルコンは分かるとしても、シルバーウルフを捕まえて来た時には驚いたわね。

だって魔物なのよ!

捕まえて来たというより、ラムネがシルバーウルフの背中に乗って連れて来たと言った方が正確かしらね。

契約してから話を聞いて見ると、寿命で命が尽きかけているところを、ラムネが来て誘われたそうよ。

それで次いでに、家族まで着いて来たって訳よ。

魔物が部下になったから、野生の馬を捕まえるのも簡単だったわ。

と言うか、私は庭にいれば勝手に連れて来てくれるから便利よね。

ネズミも、おはぎが咥えて来た時にはちょっと嫌だったけど、部下にしてみれば可愛い物よね。

こんなに部下を増やして何をするのかと言われれば、今のところ何もする事が無いわ。

精々私の魔力を消費して、日々増やしてくれるだけだわね。

後はたまに、部下と五感を共有して楽しむくらいよね。

イチゴと共有した時は、空からの景色がとても綺麗だったわね。

チョコとやった時は恐怖を覚えたわ・・・。

何もかも巨大で、猫が現れた時には、食べられるかと思ったわ。

特別な理由が無い限り、チョコと共有するのはやめる事にしたわ。

部下の事はこれくらいにして、家の事を話すわね。

今日、フローラ姉さんは貴族のパーティに出席するために、お父様と一緒に出掛けて行ったわ。

パーティに出席したのは、十歳となったフローラ姉さんの婚約者を決めるためね。

お父様の話によれば、子爵家か、上手く行けば伯爵家に嫁ぐ事が出来るそうよ。

フローラ姉さんは可愛らしく、とても優しいから、誰にでも好かれる事でしょうね。

それに魔法使いでもあるから、大勢の男性に言い寄られるのは目に見えているわ。

願わくば、優しい男性の所に嫁いでほしいわね。

私も三年後には、同じように婚約者を決められるのでしょうね。

私は男爵家の妾の三女ですが、魔法使いですから嫁ぎ先はあるぞと、お父様が言ってたわ。

しかし、男で嫌な思いをしている私は、結婚なんてしたくないわね。

あ~嫌な事を思い出してしまったわ・・・。

私はベッドの枕を、力一杯殴ったわ。

・・・。

駄目ね、声に出さないとスッキリしないわね。

再び力を込めて、枕を殴ったわ。

「ふざっけんじゃないわよ!」

スッキリしたわ!

今日はフローラ姉さんがいないから大丈夫だと思っていたけど、私の声を聞いて、隣に部屋にいるナディーヌ姉さんが尋ねて来たわ。

「キアラ、どうしたの?」

「ナディーヌ姉さん、ちょっと虫がいただけなの、ごめんなさい」

「そっかー、今日はフローラ姉さんがいないからね、それなら私が一緒に寝てあげるよ!」

ナディーヌ姉さんは、私の頭を撫でて、一緒にベッドに入ってくれたわ。

私はそのまま、ナディーヌ姉さんにに抱きしめられて、幸せを感じながら眠ったわ。


数日後、お父様とフローラ姉さんが帰宅して来たわ。

皆で迎えた後、食堂で報告が行われたわ。

「皆喜んでくれ、フローラの婚約者はアシュタンス伯爵のご長男に決まった!」

「「「フローラ、おめでとう」」」

「「「フローラ姉さん、おめでとうございます」」」

「皆さん、ありがとうございます」

家族皆から祝福を受けて、フローラ姉さんはとても嬉しそうにしていたわ。

「結婚までは五年間ある、伯爵家を支えて行けるように、しっかり勉強するのだぞ!」

「はい、お父様」

家族への報告が終わり、私とフローラ姉さんとナディーヌ姉さんの三人は、部屋に戻って来たわ。

「フローラ姉さん、ねっ、どんな人だったのか教えて!」

ナディーヌ姉さんが、興味津々といった感じで聞いていたわ。

勿論私もすごく興味があるわね。

「そうねぇ、しっかりしていて、優しい方でした」

「そう、それは良かったね!」

「フローラ姉さんは正妻なのでしょうか?」

「いいえ、妾よ、流石に男爵家から伯爵家の正妻にはなれませんからね」

「そうですか・・・」

「キアラ、心配してくれてありがとう、でもね、私達のお母様も妾なのよ、上手くやって行けると思います」

「そうだよ、これで貧乏から抜け出せるね!私も伯爵家に嫁ぎたいなぁ!」

「ナディーヌも魔法使いに成れましたからね、きっといい所に嫁げますよ」

ナディーヌ姉さんは、フローラ姉さんにそう言われて、喜んでいたわ。

「キアラも心配する事はありませんからね」

私が少し考え事をしていると、心配したフローラ姉さんに声を掛けられたわ。

「フローラ姉さん、私はこの家にいる男の人以外は怖いの、だから結婚なんてしたく無いのです」

私がそう言うと、フローラ姉さんは少し考えて。私を優しく抱きしめてくれたわ。

「キアラはまだ子供だから、そう思っても仕方が無いわね、でもいつかは結婚しなくてはならない時が来ます。

その時までに、男の人が怖くならない様にして行きましょうね」

フローラ姉さんは、私が子供だからそう思っているのだと、勘違いしてしまったわ。

でも、そう思っても仕方のない事かも知れないわね、私はまだ七歳なのだから・・・。

その後は三人でゆっくり過ごしたわ。


翌日、朝食を終えた後、私はお父様の書斎を訪ねて行ったわ。

「キアラ、どうかしたのだろうか?」

書斎にはお父様しかいないわ、兄さん達は午前中剣の稽古をしてるのは分かっているから、お父様一人の時を狙って来たのよ。

「お父様にお願いがあって来ました」

「そうか、そうか、私に出来る事なら何でもしてやるから、言って見なさい」

お父様は娘たちに甘いわ、撃甘よ!

それに付け込んで、私はこうして頼みごとに来たのだけれどね。

「お父様、私は結婚したく無いの」

「そうか、キアラの気のすむまでここにいていいからな!いや、一生私が面倒見てやろう!」

お父様は真剣な表情をしているわ、あれは、子供に冗談を言っている訳では無いわね。

「お父様、ありがとう、でも、私はこの家を出て商売を始めたいの、いけませんでしょうか?」

「商売か・・・」

流石のお父様も、考え込んでしまったわ。

「商売をするのはとても難しい事だぞ!その為には勉強や礼儀作法を習得してからだ、その後また商売が出来るか話をしよう!」

「あら、お父様は聞いていないのでしょうか?私は勉強も礼儀作法も完璧に習得しました」

「むむむっ、そう言えばグレースがキアラに教える事は無くなりましたと、報告して来ていたな・・・」

「そうでしょう」

「だが、キアラが商売を始めるにはまだ早すぎる!」

「はい、私もそう思います、ですので、午後、兄さん達と一緒にここで勉強させて貰えないでしょうか?」

「むぅ~、分かった、ここで勉強して、私がキアラに商売が出来ると判断出来た時に、許可を出す事にしよう!」

「お父様、ありがとうございます」

私はお父様に抱き付いて感謝すると、お父様は私の頭を優しく撫でてくれていたわ。

その日の午後から、兄さん達と一緒に領地経営について学ぶ事になったわ。

「フレデリック兄さん、カルロス兄さん、リュファス兄さん、これから一緒に学ばせて貰いますので、よろしくお願いします」

「キアラがなぜ?」

三人の兄さんは疑問を浮かべて、お父様を見ていたわ。

「うむ、キアラは将来商売をしたいそうだ、その為一緒にここで勉強する事になった」

「そうなのか、キアラは魔法使いだから、貴族の所に嫁ぐものだと思っていた」

「普通そう思うよね」

「うん、商売するより、そっちの方が安全だし、平和に暮らせるだろう?」

「兄さん達、私は男の人が怖いのです、勿論家族は別です、ですので、結婚などしたく無いのです」

「なるほど、キアラはフローラとナディーヌに可愛がられていたから仕方が無いか」

「俺達は大丈夫なんだろ、そのうち慣れると思うんだけどな」

「でも父さんが許可したからここにいるんだろ、それならいいんじゃないのか?」

「そうだ、これは私が許可した事だ、ここで勉強してキアラが本当に商売が出来るか見届けるから、お前達もそのつもりでいてくれ」

「「「はい」」」

お父様の言葉で、兄さん達も納得してくれて、一緒に勉強できるようになったわ。

「これは今月の領内での収入だ」

お父様が収入の書かれた紙を皆に見せてくれたわ。

しかし、大雑把過ぎて、全部を把握するのが大変ね。

「お父様、今月使った分のお金をまとめたのはありますか?」

「ある、ちょっと待て・・・これだ」

お父様は机の引き出しから探し出して、私達に見せてくれたわ。

こちらも纏められていなくて、把握しにくいわね。

「お父様、紙とペンを貸してくれませんか?」

「これを使いたまえ」

私はお父様から紙とペンを受け取り、日付順に仕分けして行ったわ。

・・・・・・。

「こうすると見やすく無いでしょうか?」

私は書き上げた紙をお父様に見せたわ。

「・・・おぉ、これはとても見やすくて、お金の移動が分かりやすいな!」

「これに、実際にあるお金を付け加えると、更に分かりやすくなると思います」

「なるほど、キアラ、これが実際のお金を記した物だ、すまないが書き加えて見てくれるか?」

「分かりました」

先程の紙に、お金の動きも書き加えたわ。

「素晴らしい、キアラ、とても分かりやすくなった、ありがとう」

「大したことではありません」

私は単に、現金出納帳を作っただけで、本当に大した事では無いわ。

「キアラ、凄いじゃないか!」

「本当に凄いよ、今まで見るのだけで苦労していたけど、これならすぐに分かる」

「キアラは、どこでこんなことを覚えたんだ?」

リュファス兄さんが疑問に思った様だわ、それも当然よね、七歳の子供が一目見てまとめてしまったのだから・・・。

しかし、やってしまった物は取り返しがつかないわ、どうにか誤魔化さないといけないわね。

「えーっと、お父様に見せて貰った紙が読みにくかったので、日付順に並べただけです」

「確かに日付順に並んでいるだけだな、でもそれだけでこんなに変わるとは驚きだ!」

「そうだな、これからはキアラが書いた物を手本にして、同じように書いて行く事にしよう」

何とか誤魔化せたかしら、でも、仕分けをやって行けば無駄遣いも分かるでしょうし、もしかしたら貧乏を抜け出せるかもしれないわ。

「さて、今月の収入を見て、何か思う事はあるか?」

お父様は、先程私が仕訳けた紙を皆に見せて、感想を聞いて来たわ。

「収入が少ないです」

「そうだ、そこで収入を増やすためには、どうしたらいいと思う?」

「村の入村料を増やすのはどうでしょうか?」

「冒険者にもっと来て貰えばいいんだよ」

「畑をもっと増やせばいいんじゃないかな?」

兄さん達はそれぞれ意見を述べた。

「キアラはどう思う?」

お父様が私に聞いて来たけど、これだけを見て判断するには情報が少なすぎるわね。

「お父様、ごめんなさい、私はまだ領内の事を殆ど知りませんので、判断出来ません」

「ふむ、ではキアラには先に領内の事を勉強して貰う事にしよう」

それから、お父様に領内の地図を見せて貰いながら、色々説明をして貰ったわ。

ブランタジネット男爵領は、フレイカウニ王国の南西に在り、海に面しているわ。

フレイカウニ王都までは馬車で十五日程度、一番近い大きな街は、フローラ姉さんの嫁ぎ先であるアシュタンス伯爵領に在って馬車で二日かかるわ。

いわゆる田舎と言う所ね。

ブランタジネット男爵領自体は結構広いけど、殆どが山と森ね。

村は四つほどあるわ。

それぞれの村には百人程度住んでいて、この家がある村には二百人程度住んでいるそうよ。

主な産業は、農業、漁業、塩で、その中でも塩が一番の稼ぎだそうよ。

冒険者ギルドは領内には無く、魔物の襲撃に備えて、私兵を各村に十名ずつ計四十名配置されているわ。

「お父様、現在領内では何か行っているのでしょうか?」

「うむ、各村に住む人が増えて来た事から、農地の開墾に力を入れている」

「その農地で作られる作物は、領内で消費されるものですよね?」

「そうだが?」

「提案ですが、その開墾作業をするより、アシュタンス伯爵領まで直線で繋ぐ道を作った方がよろしいのではないでしょうか?」

「ふむ・・・」

お父様は地図に目を落とし、アシュタンス伯爵領までの道を見ていたわ。

道は曲がりくねっている上に、何故だか遠回りをするように作られていたわ。

直線で繋げば、二日かかっていた所を一日で行けるようになるのではないかしらね。

そうすれば、商人や冒険者も来やすくなるでしょうし、塩を売ったお金で、足りない分の食料を買えるわ。

「キアラの提案通り、直線で道を作れば便利になるだろう、しかし、道を作るのには大きなお金が必要となる・・・」

「お金なら、アシュタンス伯爵に借りてはいかがでしょう?道さえ出来れば塩をより多く売ることが出来て、すぐに返却できると思うのですが?」

再びお父様は腕を組んで考え始めたわ。

・・・。

「・・・分かった、アシュタンス伯爵に話を持って行ってみよう、しかし、伯爵が受けてくれなかった場合、自力で道を作るのは無理だ。

その際の事も考えて見てくれ」

「お父様、分かりました」

お父様は翌日、アシュタンス伯爵様の所に出かけて行ったわ。

私は部下たちに、初めてまともな命令を下したわ。

『チョコとその部下たちは、エクレアの背中に乗って、アシュタンス伯爵領の街へ行き、物の値段を調べてきなさい!』

『主様、承知しました』

『エクレア、チョコ達を運んで頂戴!』

『マスター、了解しました!』

『ラムネとその部下たちは、スミュース侯爵の街まで飛んで、物の値段を調べてきなさい!』

『分かったピヨ』

『イチゴは、フレイカウニ王都まで飛んで、物の値段を調べてきなさい!』

『分かりました~』

『ジェラートは、村に魔物が入ってこないか、周囲の警備してて頂戴!』

『了解じゃ~』

『以上よ!皆頼んだわよ!』

『ボス、ちょっと待つニャ!俺達には何もないニャ?』

『あ~おはぎ達には、村の警備をお願いね』

『何か、取って付けたような任務だニャ・・・』

『うるさいわね、村に犯罪者がいないか見張りつつ、村人に可愛がってもらう重要な役割よ!これはおはぎ達にしか出来ない事なのよ!』

『そう言われると重要だニャ!しっかり任務をこなすニャン!』

おはぎ達に頼む事が無かったのだけど、何とか誤魔化せたわね。

私は領内で、他に出来る事が無いか考えなければならないわね。

道を作る事になったとしても、数年はかかるでしょうからね。

道が出来る事を前提に考えると、塩の生産量を上げておく必要がありそうね。

それと何か特産品なんかあればいいんだけど・・・。

考えても分かるはずも無いわね、何があるのか調べるのが先ね。

私は部屋を出て、厨房へと向かったわ。

「デュロン、リド、お仕事中お邪魔します」

「これは、キアラお嬢様、何か御用ですか?」

「お腹が空いたのかしらね?」

デュロンとリドは、食事の下準備をしている所だったわ。

「お腹は空いていません、今領内の事を勉強していて、どんな野菜や調味料や果物があるのか知りたいのです」

「そんな事ならお安い御用だ、リド、キアラお嬢様に説明してやってくれ」

「はい、キアラお嬢様、こちらにいらしてください」

リドに案内されて、厨房の地下にある貯蔵庫へと案内されたわ。

「こんな場所があったのですね」

「ここには使用人しか入りませんからね、キアラお嬢様が知らなくて当然です」

貯蔵庫には食材が保存されていたわ。

「説明して行きますね、ここにあるのが長く保存できる芋類、こちらは長持ちしない葉物野菜、これがパンの材料の小麦粉です。

ここにあるのが干し肉と、魚の干物です。

後はお酒と、香草です」

リドは貯蔵庫を周りながら、丁寧に教えてくれたわ。

「これは全部領内で採れる物ですか?」

「全部ではないですね、お酒と香草の一部は、商人から買っています」

「お酒は造っていないのですね」

「もう少し土地があれば、お酒用の作物も作れるのでしょうけど、残念ながら・・・」

「果物は置いて無いのですね」

「果物は厨房にありますよ、長く持たないので、すぐ使う分しか買っていませんからね」

「そう、説明ありがとうございます」

「いえいえ、でも、キアラお嬢様は領内の事を勉強して、どうなさるおつもりなのですか?」

「私は商売を始めたいのです、その為の勉強をしている所なのです」

「キアラお嬢様は魔法使いですよね、その様な事をしなくても、いい所に嫁げるのでは無いのですか?」

「リド、私は男の人が嫌いで結婚したく無いのです、でも、ここの家にいる人は別なので、デュロンの事を嫌いなわけでは無いのです」

「そうでしたか、また何か知りたい事がありましたら、何時でも聞きに来てくださいね」

「リド、ありがとうございます」

私は厨房を出て、メイドのマリデを探したわ。

マリデは村に買い物をしに行っているから、何か良い物を知ってるかもしれないわ。

マリデは、クリスティーヌお母様の部屋にいる様ね。

「クリスティーヌお母様、キアラです、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「キアラ、お入りなさい」

私は部屋に入ってお辞儀をしたわ。

「キアラ、私に何か用なのかしら?」

「いえ、クリスティーヌお母様に用があった訳では無いのです、マリデに少し聞きたい事がありして、探していたらこの部屋だと教えられてきました」

「そうなのね、私は聞かない方が良いのかしら?」

「いえ、すぐにお終わりますので、今聞いてもよろしいですか?」

「えぇ、構いませんよ、マリデ、キアラの話を聞いてあげて頂戴」

「はい、奥様」

クリスティーヌお母様の傍に控えていたマリデは、私の前まで来てくれたわ。

「キアラお嬢様、私に御用とは?」

「大したことでは無いのです、マリデは村に買い物に行きますよね、その際この村で特に美味しい物や、素晴らしいと思った物があれば教えて欲しいのです」

「そうですね・・・美味しい物と言えば蜂蜜ですね、海岸沿いに咲く花の蜜が他の地方のより美味しいと商人が言って、多く買い求めていました。

素晴らしい物と言えば、皆様のお部屋で使われている絨毯ですね、冬の間に作られている物で数は多くありませんが、こちらも商人が高く買い取っている様子でした」

「そう、マリデ、教えてくれてありがとうございます」

「いえ、キアラお嬢様のお役に立てるのであれば、いくらでもお話致します」

マリデは再び、クリスティーヌお母様の元へ戻って行ったわ。

「キアラは商人に成りたいのでしたね」

「はい、いけなかったでしょうか?」

「そんな事はありません、ただ、魔法も使えて、こんなに可愛らしいのに勿体ないと思っただけですよ。

フローラの様に、いい所に嫁げたでしょうにね」

「お父様から聞かれたと思いますが、私は男の人が怖く、結婚などしたく無いのです、ごめんなさい」

「キアラが謝る事はありませんよ、男の人が怖いと言うのは私にも分かります。

全ての男性が、ベントランの様に優しい訳ではありませんからね。

外に出て、色んな人と触れ合う中で、良い人が見つかる事を願っていますよ」

「クリスティーヌお母様、ありがとうございます」

私はクリスティーヌお母様の部屋を出て、自室に戻ったわ。

これね、いつも床に敷いてあったから特に気に留める事は無かったけど、こうして見ると確かに美しい模様をしているわね。

作るのにも相当時間が掛りそうな細やかな作りだわ。

量産するのは難しいでしょうね、となると、開墾する必要もなく量産出来そうな蜂蜜ね。

どうやって蜂を増やすのかは知らないけど、そこは採ってる人がいるのだから、その人達に任せればいい事よね。

紙にまとめて置いて、お父様が戻って来てから報告しなくてはね。

私は机に座り、紙とペンを用意した所で、ラムネから連絡があったわ。

『到着したピヨ』

『早かったわね、では共有するわね』

私はラムネと感覚を共有し、ラムネ視点で街の風景を見たわ。

『市場に飛んで頂戴』

『了解ピヨ』

部下達に人の文字が読める訳では無いから、この様にしなくてならないわ。

ラムネの目と耳から、ある程度の売っている物の値段が分かったわ。

『ラムネは暫く街の周辺にいて頂戴、数日間様子を見るわ』

忘れないうちに、今調べた値段を書き留めておかないとね。

そして、数日間で物の値段に変化があるのかも確かめないといけないわね。

馬車で物を運んでいる以上、遅れたり、魔物や盗賊に襲われたりすると、物資が少なくなって値段が上がるかも知れないわ。

その後、チョコとイチゴからも連絡があり、その都度感覚を共有して、値段を調べて行ったわ。

思ってた通り、王都に近づくにつれ、物の値段は上がって行くわね。

危険な道を何日もかけて運んで行くのだから、値段が上がるのは当然よね。

私も商売を始めるとなれば、物資をいかに確実に速く運ぶかが鍵となるわ。

馬はエクレアがいるからいいとしても、馬車は必要よね。

しかし、それだと他の商人と変わらないわ、何か他にいい輸送手段は無い物かしらね・・・。

そう言えば、明かりを灯す魔道具があったわね。

物を入れて置けるような魔導具は無いのかしら、そう言うのがあれば便利だけど、それがあるなら商人が使っているわね。

今すぐ商売を始める訳では無いから、輸送手段を考えておかないといけないわね。


それから五日後、お父様が帰って来た事で、私は書斎に呼び出されたわ。

「お父様、お帰りなさいませ」

「キアラ、ただいま、道の件だがな、アシュタンス伯爵が全面的に支援してくれる事となった!」

「お父様、おめでとうございます」

「うむ、これもキアラとフローラのおかげだな、最初はアシュタンス伯爵は渋っていたのだが、フローラの婚約者であるアシュベル様が説得して下さったのだ。

道を作る職人もあちらで手配してくれて、アシュタンス伯爵領側から、新しい道を作ってくれる事となった。

しかし、その分うちの領内の収入を上げなくてはならぬ。

何かいい手立ては無い物だろうか?」

「お父様、この紙をご覧ください」

私はこれまで考えた事をまとめた紙を、お父様に手渡したわ。

「塩と、蜂蜜の量産か・・・」

「はい、ある程度お金を掛けないといけませんが、道が出来た後の重要な収入源となります。

そのお金で足りない食料を買ったとしても、十分な儲けとなります」

「ふむ、畑の開墾を今まで進めている所で止めて、塩田を増やせばいい訳だな」

「はい、それともう一つ、冬場に作られている絨毯ですが、今後全部お父様が買い上げてください」

「何故だ?あの絨毯は冬の時期の大事な収入源だぞ!」

「はい、こちらの紙をご覧ください」

私は、王都で調べた絨毯の値段をお父様に見せたわ。

「百万ユピスだと!」

お父様はとても驚いていたわ。

それもそのはずよね、私も知った時はとても驚いて、そして怒りを覚えたわ。

まぁ、その怒りは、枕が受け止めてくれたのだけども・・・。

ユピスとはこの世界の通貨単位の事ね、一ユピスが大体十円位かしら。

百万ユピス、つまり一千万円よ。

ちなみに、ここでの商人の買い取り価格が四千~五千ユピス程度だわ。

それでもこの田舎では大金よ。

塩が小さな壺で五ユピス、小麦が大きな袋で二十ユピス、葉物野菜が一~三ユピスで買えるわ。

四千ユピスあれば、六人家族が四か月は暮らせるわ。

つまり商人は、冬の間の生活費を賄う分しか払って無いのよ。

それでも村人にとっては十分な稼ぎになる物だから、喜んで売っている訳よ。

それを王都で貴族向けに、高級絨毯として高値で売っていたわ。

いくら輸送にお金がかかると言っても、これはひど過ぎよ。

「キアラ、どうやってこれを調べたのだ?」

「お父様は、私が召喚魔法を使える事を知っていますよね?」

「勿論だ、まさかそれで調べたと言うのか!」

「はい、鳥を使役して感覚を共有する事で、この場所から王都の事を見る事が出来ます。

それで店の窓から、絨毯がこの値段で売られているのを見たのです」

「そうか、知らなかったとはいえ、村人に酷い損害を与えていたのだな・・・」

「その他にも、塩や蜂蜜も他の場所の物より割高で売られています、しかし、全部買い取っていては商人が来てくれなくなりますので、取り合えず、絨毯だけお父様に買い取って欲しいのです」

「分かった、その様に手配しよう」

「それと、商人が絨毯を売ってくれるように頼みこんできたら、今までの補填分を先に要求してください、その支払いが済んでから適正な価格で売るようお願いします」

「うむ、そこはきちんと商人に払わせよう、そうしなければ領主として、村人に合わせる顔が無いからな」

お父様との会話を終えて、自室に戻ってベッドに寝ころんだわ。

素直に商人がお金を払ってくれるとは思えないけど、そこはお父様の手腕次第かしらね。

一応は貴族なんだし、商人に負けないと思いたいわ。

お父様がいつ許可をくれるか分からないけど、領内の物を王都に持って行けばかなり儲かる事は分かったわ。

移動手段をどうにかしないといけないわね。

考えがまとまらず、ウトウトと眠ってしまったわ・・・。

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