第一話 幸せな家庭
何故か私は記憶を持ったまま生まれ変わっていて、そして今日、六歳の誕生日を迎えたわ。
屋上から飛び降りた時聞こえた声は、神様の物だったのかしら?
いえ、女性の声だったと思うから、女神様かしらね。
それは些細な事よね。
そのお陰で生まれ変わる事が出来たし、感謝もしているわ。
しかし!しかしよ!
こんなテレビもスマホも電気も自動車も、何もかも無い世界に生まれ変わらせなくても良いんじゃない!
しかも、記憶を持っている状態での赤ちゃんプレイは、今思い出しても恥ずかして死にたくなるわ・・・。
その上、村の外に出ると魔物がいるっていうじゃない・・・こんな楽しみも無く、危険な世界でどうやって生きて行けばいいのよ!
なんだか考えているとムカムカしてきたわね。
「ふざっけんじゃないわよ!」
私はベッドにある枕を、思いっ切り殴りつけたわ。
少しは気が晴れたわね!
私が部屋で大声を出したせいで、フローラ姉さんが心配して駆けつけてくれたわ。
「キアラ、どうしたのかしら?」
「フローラ姉さん、少し嫌な事を思い出しただけなの・・・ごめんなさい」
「そう、それなら嫌な事を忘れる様に、抱きしめてあげるわね」
フローラ姉さんは、私を優しく抱きしめてくれたわ。
フローラ姉さんに抱きしめられていると、とても安心出来て、心が穏やかになって行くわ。
これよね、私が生前に求めていた物は・・・。
「もう大丈夫かしら?」
「はい、フローラ姉さん、ありがとうございます」
「もうそろそろ準備が出来ているころだわ、食堂に行きましょう」
フローラ姉さんに手を握られて、一緒に食堂へと向かって行ったわ。
食堂に入ると、家族全員から温かく迎え入れられたわ。
「「「キアラ、お誕生日おめでとう~」」」
「ありがとうございます」
「キアラ、席に座って」
フローラ姉さんに連れられて、席に座ったわ。
テーブルには、普段より少し豪華な料理が並べられているわ。
普段が質素だから、ちょっと肉が多かったり、果物が添えられたりしているだけなのだけれど、貧乏な家だから仕方が無いわね。
それでも、こうして家族全員で誕生日を祝って貰うのは、生前一度も誕生日を祝って貰えなかった私にとって、とても嬉しい事だわ。
「キアラ、六歳の誕生日おめでとう。
これからは勉強に、そして魔法も頑張って行くのだぞ!」
「はい、お父様」
「うむ、では食事を始める事にしよう」
お父様からのお祝いの言葉で食事が始まったわ。
食事は、私の好みに合わせて甘い味付けにしてあって、とても美味しいわね。
料理長のデュロンが、頑張って作ってくれたのがよく分かるわ。
料理長がいる家で、貧乏なのはおかしいと思うかも知れないけど、それは、お金のかかる貴族だから仕方が無いのよ。
これでも一応、私の家は男爵家で貴族なのよ。
収入が少なくても、それらしい生活を送って行かなくてはならないので、普段の食費等は削られて行くわ。
私は貧乏に慣れているから、全く気にはならないけどね。
さて、私の家族を紹介しておきましょうか。
私のお父様は、ベントラン・テレーズ・フォン・ブランタジネット男爵。
名前が長すぎて、覚えるのに苦労したわ・・・。
父の年齢は三十歳、金髪頭で少し彫りの深い顔つきで、渋めな感じね
妻は二人いて。
正妻がクリスティーヌ。
年齢は二十九歳、金髪のロングヘアに整った顔立ちの美しい女性だわ。
妾がマリエール、こちらが私のお母様ね。
年齢は二十七歳、銀色の髪と赤い瞳が特徴的で、可愛らしい感じの女性ね。
正妻の子供は、長男フレデリック、十二歳。
三男リュファス、十歳。
次女ナディーヌ、八歳の三人。
三人とも両親譲りの金髪で、男の二人は渋く、ナディーヌは美しくなると思うわ。
妾の子供は、次男カルロス、十一歳。
長女フローラ、九歳。
三女キアラ、六歳が私ね。
フローラ姉さんと私は、母親譲りの可愛らしい顔つきをしているわ。
そして、先程お父様が魔法も頑張るように言ってたけど、マリエールお母様と、フローラ姉さんは魔法使いで、私にも魔法使いの素質があると言われているわ。
何故なら、三人共銀色の髪に赤い瞳を持っていて、魔法使いに成れる女性が多いのよ。
残念な事に、次男のカルロスは父親譲りの金髪で、魔法の才能は受け継がなかったようね。
まだ、私が魔法使いに成れるかどうかは分からないんだけど、それは明日試してみる事になっているわ。
その他の家族は、魔法を使う事が出来ないわ。
魔法が使える人が、一割程度しかいないらしいから、二人の魔法使いがいる我が家は恵まれているのよ。
後は使用人かしらね。
執事は、ジョセフとその息子のリック。
メイドはジョセフの妻のマリデとクラル、グレースの三人ね。
コックは料理長のデュロンとその妻リド、メイドのクラルとグレースは二人の娘ね。
皆仲が良くて、この家には笑顔が絶える事は無いわ。
男の兄弟達は、よく喧嘩しているけど、仲のいい証拠よね。
食事が終わると、フローラ姉さんとナディーヌ姉さんの三人でお風呂に入るわ。
三人で体を洗いあって、一緒に湯船につかって温まるの・・・。
とても幸せな時間だわ。
お風呂から上がって、部屋に戻って髪を乾かして、フローラ姉さんにブラッシングして貰ってから、フローラ姉さんと一緒に寝るわ。
「キアラ、起きて頂戴」
毎朝フローラ姉さんに、優しく起こされて目を覚ますわ。
「フローラ姉さん、おはようございます」
「キアラ、おはよう。
今日から魔法を一緒に頑張りましょうね!」
「はい、頑張ります」
ベッドから起きて着替えた私は、フローラ姉さんに髪をセットして貰って、朝食を皆と食べたわ。
午前中はお勉強の時間だけど、既にこの世界の読み書きは完璧に覚えたし、計算は元々出来るから問題は無いわ。
という事で私の午前中は主に、礼儀作法の時間に当てられているわ・・・。
これがとても大変で、生前礼儀作法とか関係ない家庭だったから、どうしても馴染めないわね。
それでも、メイドのクラルが必死に教えてくれるので、手を抜く事は出来ないわ。
私が覚えないと、クラルが怒られる事になってしまうのよ。
昼食の後は、庭でいよいよ魔法を初めて使って見る事になったわ。
「キアラ、今日は無属性魔法を唱えて貰うわよ」
「はい、マリエールお母様」
魔法を教えてくれるのはマリエールお母様で、隣にフローラ姉さんも一緒にいるわ。
「お手本を見せるわね」
マリエールお母様はそう言って、両手を突き出し、呪文を唱えたわ。
「我が魔力を力に変えて、敵を打倒せ、インパクト」
マリエールお母様の手から青白い光が出て、飛んで行ったわ。
「これが一番初歩の魔法ね、これに当たった物を吹き飛ばす事が出来るわよ。
キアラ、やって見なさい」
「分かりました」
私は、マリエールお母様と同じように両手を突き出し、呪文を唱えたわ。
「我が魔力を力に変えて、敵を打倒せ、インパクト」
私の手からも、青白い光が飛んで行ったわ。
「キアラ、よく出来たわ!」
「キアラ、おめでとう!」
マリエールお母様とフローラ姉さんは、とても喜んで私を抱きしめて来たわ。
私も魔法が使えた事が、非常に嬉しかったわね。
こんな危険な世界で、魔法も使えなかったら、本格的に生きるのが厳しくなりそうで助かったわ。
どれだけ嬉しかったかというと、二人に抱きしめられながら、泣いてしまうくらい嬉しかったわ。
「キアラ、後はお部屋で話しましょう」
私が泣き止むのを待ってから、マリエールお母様はそう言ってくれたわ。
私達は庭から、マリエールお母様の部屋に行き、テーブルの席に座ったわ。
テーブルの上には、既に魔法書がいくつも積み上げられているわね。
「魔法の属性の事を話すわね。
私達が使える魔法の属性は、無属性を除いて二つだけよ。
そしてその属性は七種類、火属性魔法、水属性魔法、風属性魔法、地属性魔法、神聖魔法、召喚魔法、死霊術魔法。
後、光属性魔法と闇属性魔法がありますが、この二つは魔法書がありません。
そして、その七種類の中から、キアラには二種類選んでもらう訳ですが、一種類は神聖魔法を選んで欲しいわ。
理由は、自分の身を守る為と、いずれ出来る家族を守る為よ。
賢いキアラなら、分かるわよね?」
「はい、分かります」
医療が進んでいないこの世界に置いて、病気や怪我は途轍もなく恐ろしい物よ。
しかし、神聖魔法は、その医療さえ超えて、病気や怪我お治せるわ。
これを選ばない理由は無いでしょうね。
私も小さい頃高熱を出した際、マリエールお母様の魔法で治して貰った事があるわ。
高熱でぼーっとしていた頭も、一瞬でスッキリ元通りになったのは、今でも不思議な感じがするわ。
「もう一つは、どれを選んでも構いませんが、死霊術魔法は貴族から好まれませんので、選ぶ場合は私に相談してくださいね」
「分かりました」
私もスケルトンとかゾンビは使いたくないから、絶対に選ばないわ。
元々ホラー系の映画も嫌いだったのよね。
それを自分が使うとか、想像するだけでも寒気がしてくるわ。
「こうして口で言っても分からないでしょうから、今日はここにある魔法書を読んでよく考えてくださいね」
「はい、分かりました」
私は、テーブルの上に置いてある魔法書を一つずつ手に取って、読み始めたわ。
私は男爵家の三女で魔法が使える事がわかったから、結婚先には困らないのでしょう。
魔法使いは、どこの貴族の家も欲しがるものですからね。
しかし、私は結婚なんてしたくないわ!
お父様も私が嫌だと言えば、無理に結婚させようとはしないはずだわ。
となると、私が進む先は、この家を出て独り立ちをする事ね・・・。
冒険者は・・・無理!
魔物と戦うとか、ごめんだわ。
運動が苦手な訳では無いけれども、運動と戦闘は違うわよね。
魔法使いだから、直接戦う訳では無いでしょうけれども、それでも森の中に入って行って野宿とかもしなくてはならないんでしょ。
どう考えても、サバイバル生活とか無理よね・・・。
やはり商売を始めるのが良さそうね。
商売に向いてそうな魔法は・・・水属性魔法と風属性魔法かしら。
水属性魔法だと、氷を出して食べ物を保存しておく事が出来るわね、それと飲み水にも困らないわ。
風属性魔法だと、移動が楽になるわね。
フローラ姉さんが、風属性魔法を覚えていて、少し抱いて空に浮かばせて貰った事があるわ。
あれはとても楽しかったわね。
マリエールお母様は、水属性魔法を覚えていて、毎日使う飲み水や、お風呂に水を貯めているわ。
魔法を使わなかった場合、井戸から水を汲んで、お風呂に入れると言う重労働になるわ。
お金を出せば、お湯が出る魔導具があるらしいけど、貧乏なうちには無いわね・・・。
所でこの召喚魔法と言うのは、どんなものなのかしら・・・。
ゴーレムとかを召喚出来れば、荷物を運ぶのに便利よね。
「マリエールお母様、この召喚魔法と言うのは、どのような物なのでしょうか?」
「召喚魔法ですね、それは、動物や魔物を使役して、自分の思う通りに使う事が出来る魔法よ。
ただし、使役した動物や魔物を出している間、ずっと魔力が使われて行くの。
それによってほかの魔法が使えなくなったりするから、ほとんどの人が使わない魔法ね。
それと、使役する動物や魔物は、自分ひとりで戦って弱らせないと駄目なのよ」
「そうですか」
私の思っていたのと少し違うわね・・・。
しかし、商売に魔物は使えないとしても、動物は使えるわよね。
馬を使役出来れば移動は楽になるし、犬を使役すれば番犬として使えるわね。
でも、魔力の制限があるのかしら・・・。
「マリエールお母様、私の魔力は多いのでしょうか?」
「それはまだ分からないわね、どれだけ魔法が使えるか試してみない事には何とも言えないわ。
それと、魔力は毎日使って行けば増えて行きますので、少なくても心配する事はありませんよ」
「分かりました、それと使う属性は、すぐ決めないといけないのでしょうか?」
「そんな事は無いわよ、ゆっくり考えてから決めなさい」
「はい」
取り合えず神聖魔法を覚えて、もう一つは良く考えてから決める事にしたわ。
その後再び庭に出て、私の魔力量を測って貰ったわ。
どうやら私は、六歳にしては多い魔力を持っているそうよ。
ただ、普通の魔法使いよりは少ないから、訓練をさぼっていい訳では無いわね。
次の日から、フローラ姉さんと二人で魔法の訓練をするようになったわ。
まだ最後の一種類は決めていないけど、目の前でフローラ姉さんが使う風属性魔法はやはり良い物だわ。
攻撃、防御、移動、全ての事が出来るのは、かなり魅力的よね。
でも私が攻撃魔法を使う事は無いのかしらね。
そう言う危険な所には行かないし、行きたくも無いわ。
防御は神聖魔法や無属性魔法にもあるから、空の移動だけになるわね。
「お嬢様方、ご休憩なさいませんか?」
メイドのグレースが声を掛けてくれて、少し休憩する事にしたわ。
テラスにあるテーブルの席には、ナディーヌ姉さんも座っていて、紅茶とお菓子を食べていたわ。
私とフローラ姉さんも席に着いて、グレースが入れてくれた紅茶を飲みながらお菓子を食べる事にしたわ。
このように午後、庭でゆっくりとお茶を楽しめるのは、貴族に生れて来て一番いい事だわ。
「二人共、魔法が使えて羨ましい!」
ナディーヌ姉さんが、少し寂しそうにそう言ったわ。
私も魔法が使えなかったら残念に思うだろうし、ナディーヌ姉さんが可哀そうだわ。
しかし、どうして魔法が使える人と使えない人がいるのでしょう。
生まれ持っての才能と言われれば、その通りなのでしょうけど、何か納得いかないわね。
「ごめんなさい、ナディーヌにも魔法が使える様に教えられたらいいのだけど・・・」
「フローラ姉さんが謝る事は無いの!ただ私に才能が無いだけなのだから・・・」
フローラ姉さんが謝ると。ナディーヌ姉さんは慌てて訂正していたわ。
「あの、どうして魔法が使える人と、使えない人がいるのでしょうか?」
私は疑問に思った事を聞いて見たわ。
「それは・・・」
「それはね!私の魔力が足りないからだよ!」
フローラ姉さんが返答に困っていると、ナディーヌ姉さんが答えてくれたわ。
「でも、魔力を使えば増えると教えられたわよ」
「どうやって魔法が使えない私が、魔力を使うのよ!」
ナディーヌ姉さんが、少し怒ったような感じで私に言って来たわ。
確かに魔法が使えないと、魔力を訓練する事は出来ないのかしら・・・?
でも魔法を使わなくても、魔力を使う方法があるじゃない!
「フローラ姉さんは、毎日各部屋の明かりをつける魔導具に魔力を補充してますよね?」
「私が魔法を使えるようになってからずっとやってるわよ、それがどうかしたのかしら?」
「それを、ナディーヌ姉さんが少しでもやれば、魔力を使う事にはならないでしょうか?」
「それだわ!」
ナディーヌ姉さんは手をポンと叩いて喜んでいた。
「でも、危険では無いかしら?魔力が少ない人が魔道具に補充すると、気絶をしてしまうわよ」
「そこは、誰かと一緒にやればいいよ!ねっ、今からやって見てもいいかな!」
「・・・そうですわね、やってみるのも悪くないかも知れません、しかし、私が危険だと判断したら、すぐやめて貰いますからね」
「やったぁ!」
ナディーヌ姉さんは喜んで席を立ち、自分の部屋へとむかい、私達も着いて行ったわ。
「この魔石に触ればいいんだよね!」
「そうよ、気分が悪くなったりしたら、すぐ手を放すのよ!」
「分かったよ!」
ナディーヌ姉さんは魔石に触れ、暫くして手を放したわ。
「眠くなってきたぁ~」
「それは魔力が無くなっているからよ、ベッドで眠りなさい」
「は~い」
ナディーヌ姉さんはフラフラとしながらベッドに行き、倒れ込むように眠ったわ。
フローラ姉さんは、ナディーヌ姉さんに優しく布団をかけ、心配そうな目で見ていたわ。
ナディーヌ姉さんの事を思って、思った事を言ったのだけれども、悪い事をしてしまったようね・・・。
「私が余計な事を言ったから・・・ごめんなさい」
「いえ、もしかすると、本当にナディーヌが魔法を使えるようになるかもしれないわ。
ナディーヌが起きた時に問題無かったら、毎日続けて見る事にしましょう」
そう言って、フローラ姉さんは私の頭を優しく撫でてくれたわ。
それから十日後、毎日魔石に魔力を補充し続けたナディーヌ姉さんは、ついに魔法を使う事が出来たわ。
「やったぁ!これで私も魔法使いね!」
「ええそうよ、よく頑張ったわね」
「キアラ、ありがとう」
ナディーヌ姉さんに力一杯抱きしめられたわ、少し苦しかったけど、泣いて喜ぶナディーヌ姉さんを見ていたら、こっちまで嬉しくなってきたわ。
思い付きで言った事だったけど、本当に魔法が使えるようになるとは思ってもいなかったわ。
「この事は、誰にも言っては駄目よ!」
「分かってるよ!」
「はい、分かっています」
こんな事で、誰もが魔法使いに成れるのだと知れ渡ったら、大変な事になるのは目に見えているわね。
「それとナディーヌは、私達の訓練の真似したら出来る様になった事にしなさい」
「は~い」
「では、お父様に報告に行きましょう!」
私達はお父様の書斎に向かったわ。
部屋の中にはお父様とお兄様達が、領地経営について勉強している所だったわ。
「お父様、お勉強中すみません」
「うむ、どうしたのだ?」
「今日、ナディーヌが魔法使いに成りましたので、そのご報告に参りました」
「それは本当か!」
「本当だよ、さっき魔法を使う事が出来たんだよ!」
「それは素晴らしい、ナディーヌ、よくやった!」
「「「ナディーヌ、おめでとう」」」
お父様はとても喜び、お兄様達もナディーヌを祝福してくれたわ。
「夕食の時に、改めて皆に報告しよう、しかし、我が家の娘達は全員魔法使いになった事で、婿探しに困る事は無いな!」
お父様はとても喜んでいるけど、私は結婚するつもりは無いわ、機会を見て話さないといけないわね。
翌日から三人で魔法の訓練をする事となり、ナディーヌは直ぐに神聖魔法と火属性魔法に決めたわ。
「ナディーヌ姉さん、どうして火属性魔法に決めたのでしょうか?」
「強いからに決まってるよ!それに、マリエールお母様は水で、フローラ姉さんは風でしょ、残ってるのは火か地だから、火を選んだだけだよ!」
「そうなのですね・・・」
確かに、火属性魔法は攻撃という面においては最強でしょうね。
でも、ナディーヌ姉さんが火属性魔法を使って何かを攻撃する場面は、出て来ないと思うのだけれども・・・。
でも、本人は喜んでいるから良いのでしょうね。
「キアラはまだ決めて無いの?」
「はい・・・」
「じゃぁ、地属性魔法で決まりだね!」
うっ、私が一番使えないと思っている属性を勧められたわ・・・。
道を作ったりするのには便利そうだけど、私がやりたいのは土木作業では無くて、商売なのよ・・・。
なんだか今決めないと、ナディーヌ姉さんに無理やり地属性魔法を押し付けられそうだわ。
「私も決めました、召喚魔法にします」
「え~、それ一番使えない魔法じゃないの?」
「魔力が少ない人には使い辛い魔法であることには間違いないわね、でも、キアラだと上手く使いこなせると思うわよ」
ナディーヌ姉さんは召喚魔法に疑問を持ったようだが、フローラ姉さんが説明してくれた事で納得してくれた様だわ。
勢いで召喚魔法に決めたけど、良かったのかしら・・・。
まだ呪文を使って無いから、変更は可能だけども・・・まぁいいか、悩んでいても始まらないし、どんな魔法でも使い方次第でしょうからね。
とは言え、近くに動物はいないわね・・・。
厩舎にいる、角の生えた馬を使役する訳には行かないでしょうし・・・。
私が悩んでいると、いつもリドが余った食べ物を食べさせている黒猫が通りかかったわ。
私は、怖がらせないように近づいてしゃがむと、黒猫が喉をゴロゴロ言わせながらすり寄って来たわ。
この機会を逃す訳には行かないわね。
「力ある者よ、我の魔力に呼応し契約を交わせ、エンゲージ」
私が黒猫を撫でながら呪文を唱えると、黒猫が一瞬輝き、すぐに元に戻ったわ。
しかし、私と繋がっているのが良く分かるわ。
『いきなり契約とか、酷いニャ!』
私の頭の中に、黒猫の声が聞こえて来たわ。
『ごめんなさい、でも、貴方と話す事が出来るのね』
『そう言う契約ニャ!』
『そう、ところで名前はあるのかしら?』
『いつもご飯をくれる人には、黒と呼ばれているニャン!』
リドさん、もう少しいい名前で呼んであげましょうよ・・・。
何かいい名前はあるかしら・・・黒猫と言えばジ〇だけど、色々と不味いわよね。
『どんな名前で呼ばれたいか、希望はあるかしら?』
『そうだニャ~、ボスに任せるニャン!』
『そうねぇ、じゃぁ、おはぎに決めたわ!』
『・・・黒の方が良かったニャ・・・』
『うるさい、貴方は今日からおはぎよ!』
黒くて丸まった目の前の猫を見ていたら、おはぎが食べたくなったわ。
生前は買い物の時に見かけても、無駄遣いを禁止されていたから買って食べる事は出来なかったのよね。
自分でも黒の方が良かったかとは思うけど、決めた物は仕方が無いわね。
「キアラ、その猫捕まえたの?」
ナディーヌ姉さんが、私に覆いかぶさるようにして聞いて来たわ。
「ナディーヌ姉さん、この猫、おはぎと言います」
「おはぎかぁ、変な名前だね、触ってもいいかな?」
「どうぞ」
「やったぁ!」
ナディーヌ姉さんは、おはぎを抱きかかえて撫でまわしていたわ。
『気持ちいいニャ~、ところでボス、何をすればいいニャン?』
『そうねぇ、小鳥を生かしたまま捕まえて来て欲しいわね』
『分かったニャン!』
『その後は好きにしていて構わないわよ』
『行って来るニャン!』
ナディーヌ姉さんから解放されたおはぎは、走ってどこかに行ってしまったわ。
「キアラ、もしかしておはぎと話をしていたの?」
「はい、使役した動物とは念話で会話出来る様です」
「いいなぁ、私も動物と話してみたかったよ!」
「でも、いきなり契約したので文句を言われましたよ」
「そっかぁ、私は火属性魔法を使いこなせるよう頑張るしか無いか」
「そうですね、お互い頑張りましょう」
それからしばらく訓練を続けていると、おはぎが青い小鳥を捕まえて来たわ。
『ボス、捕まえて来たニャン!』
『よくやったわ』
私はおはぎが咥えている青い小鳥を触り、契約の呪文を唱えたわ。
『こんな猫に捕まるとは、ついて無かったピヨ』
『それは残念ね、そして更に私に捕まった訳だけれど、貴方に名前はあるのかしら?』
『名前は無いピヨ』
『じゃぁ、貴方の名前はラムネよ』
『ラムネピヨ』
『ボスはネーミングセンスが無いニャン・・・』
『うるさいわね、ではおはぎとラムネに命令します、今まで通り好きに過ごしなさい』
『分かったニャン!』
『ピヨ』
おはぎとラムネは私のもとから離れて行ったわ。
これで、最近訓練で使いこなせなくなった魔力を使う事が出来るわね。
今も少しずつ魔力が無くなっているのが分かるわ。
魔力が切れたら、おはぎとラムネは私のもとに帰って来て、再び召喚すればまた出て来てくれるわ。
当分は大丈夫でしょうけどね。
魔法の訓練を終え、部屋に戻って召喚魔法の魔法書を読みなおす事にしたわ。
召喚魔法とは、動物や魔物と契約し、使役して戦わせる事が出来る。
動物や魔物との契約は、自分より弱い物か、術者一人で弱らせた物に対して行う事が出来る。
一度契約した動物や魔物は、術者が解約しない限り、一生使役する事が出来る。
契約した動物や魔物は、術者より魔力を得る事によって活動し、餌を必要とはしない。
契約した動物や魔物を召喚している間は、常に魔力を一定量供給され続けて行く。
消費される魔力は、契約した動物や魔物の強さに比例して、消費量も上がって行く。
召喚していない状態だと、魔力を消費する事は無い。
召喚した動物や魔物が戦闘不能になった場合、送還した場合と同じ状態になり、再召喚出来る様になるまで一日を要する。
術者は、召喚中の動物や魔物の一体と五感を共有する事が出来る。ただし、その場合術者は行動不能となる。
こんな所かしらね。
契約数に関しての記述が無かったけど、限度は無いのかしら?
数が多すぎて契約出来なくなったら、その時不要なのを解約すればいいでしょうね。
今の所、少量の魔力が一時間毎に消費されている感じだわ。
この程度なら一日中維持する事は余裕だわね。
戦闘に使えない猫と小鳥だからでしょうけどね。
今後、商売に使えそうな動物を捕まえて行く事にしましょう。
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