第11話 BRAVE X SHARK 2/2
勇者は心の底から楽しそうに笑いながらゆっくりと降下してきた。
サメたちはそれを見てたじろぐ。
「さすが変異種人鮫のエリート、マグマシャーク。さっきまでのザコとは違うことを察したかな」
数十匹のサメたちは一瞬顔を見合わせると同時に地面に潜伏。
勇者に背(背ビレ)を向けて同じ方向に泳ぎ去っていく。
「逃げた? いや違うよ。逃げるんだったら散る。同じ方向には逃げない。それにしても統率のとれた動きだなァ」
などとつぶやいているうちに――地震が発生した。
足もとがグラリと横方法に揺れる。震源は海中に埋まるプレートなんかではない。火山だ。
「元々日本人だから地震は慣れっこだけどねー。火山の噴火っていうのは初めて見た。さて準備をしないとね」
勇者の右手が金色に光ると、その手には剣が握られる。
やけに無骨で出刃包丁のような形をした剣だった。
「ウエポン召喚・フィッシュスラッシャー。さっきあの子が闘っていたときこれで武器出してあげれば良かったかな。めんどくさいし忘れてたから仕方ないけど」
やがて。地表が大きく揺れると、火山の頂上から大量のマグマと火山灰が吹き出した。
マグマが地表を赤く染め、火山灰が太陽を覆い隠す。
それと同時に。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」
甲高い雄たけびと共に、全身を炎に包んだサメが流星のごとく降り注ぐ。
「こりゃすごい。逃げ場はまったくないな」
自分にまっすぐ向かってくるサメに対して、勇者は右手の剣を突き刺した。
サメはギャア! という悲鳴を上げる。勇者はその突き刺したサメを口元に持っていき、かぶりつき、そのまま飲みこんだ。要するに。食った。
「うん! 美味しい! さすがに最も美味しいと言われるアブラツノザメの変異種だね。火加減もバッチリ」
勇者は飛んでくるサメを刺しては食い刺しては食い。
やがて地面に転がっているサメにまで手を出し始めたところで援軍が来た。
海のほうからだ。
「泳いでくるかと思ったら飛んでくるとはね」
空にはエイに似た体型のカスザメがその翼をはためかせて飛んでいた。
その数およそ百。空を埋め尽くさんばかりだ。
海を泳いでいるエイと同じように翼の裏には大量のコバンザメをつけている。
「ファントムシャークだね。戦闘機の名前からその名がつけられた。確か彼らの得意技はまさしくその戦闘機の――」
ファントムたちは勇者を射程にとらえるや、コバンザメを雨あられのごとく発射した。
「おっとおっと!」
勇者は剣を振り回しミサイルの軌道を変えた。
ミサイルは勇者の背後の岩に着弾して爆発。
しかしすぐに第二陣が発射される。
「さすがに反撃に出ないとますいか」
勇者は親指とひとさし指で右目をかっぴらいた。そして。
「メーサー殺鮫光線砲」
目から紫色の破壊光線がジグザグに放射される。
戦闘機は次々と墜落した。
「目からこの色のビームって悪役っぽいかな。こんなに善人なのに」
ビーチ全体にマグマシャーク、ファントムシャーク、コバンザメたちの死体が転がる。
「コバンザメはサメじゃないけどね。ちなみに全然近い種族でもないよ」
などとひとりごちる勇者をよそにサメたちはずりずりと這いずって一ヶ所に集まる。
「お?」
山のように折り重なったサメはやがて一つの生命体と化した。
「まるで国語の教科書に出てたスイミーだね」
小さな(でかいが)サメが大量に寄り集まって一つの巨大な魚を形作る。
「五十メートルってところか。サイズ感はゴジラ、または進撃の巨人だね」
巨大魚はずりずりと砂浜を這って勇者に迫る。
「うーんこれに対抗するには身もふたもないけどこの技かなぁ」
勇者の体全体が七色に輝いた。そしてその光がアメーバのようにぬるぬると蠢き、縦方向に拡大する。
「これはある意味ヒーローの王道ワザだよね『タイタンスタンピート』」
身長およそ二〇〇メートルにも拡大した勇者はサメの集合体を一足にて踏みつぶした。
――全数が即死。
さきほどまでギャギャギャとやかましかったビーチが静まり返り、心地のよい波の音が聞こえる。
勇者はすこしづづカラダを元に戻しながら目をつむり耳をすました。
すると。こんな声が聞こえてくる。
『きいやあああああ! 勇者ファック! マグマシャークも! ファントムシャークwithコバンザメミサイルも、さらにはゴジラシャークまでやられてしまいました! こうなったら! パシリザメくん! 『本体』をキラウェイに向かわせなさい!』
勇者は穏やかに口元を緩めた。
「真打登場……かな」
空を見上げれば、火山灰で薄暗くなった空に巨大なジンベイザメが浮かんでいた。
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