第10話 BRAVE X SHARK 1/2
「なるほどー面白い。これはおもしろい。思ってたよりもさらにおもしろい」
勇者は昼寝をしていたと思ったら、突然カッと目を開きこんなことを呟いた。
「なにがおもしろいんですか……?」
地味顔爆乳の少女が尋ねる。
「それはアレだよ」勇者がニヤつきながら逆に質問を返した。
「キミはさサメ映画って知ってる?」
「さ、サメ映画? えーっとジョーズとかのことですか」
「うん。僕がヒューマンリージョンにいた頃にさ、静かな、しかし熱いブームがあったんだよ!」
勇者は思い切り息を吸い込むと一気にまくしたてた。
「まずすべてのサメ映画の原点は一九七五年、スティーブン・スピルバーグ監督が作った『JAWS』だね! これはまさに名作で切迫した恐怖感という点において、未だにこれを超えるサメ映画はないと言えるね! それからこの大ヒット作を模す形でいろんな作品が作られたんだけどね、時を経るごとにとんでもなく荒唐無稽な――要するにめちゃくちゃ面白い設定の映画が増えてきてさ。これに魅せられた僕みたいなサメ映画オタクがたくさんいるんだよ。
代表的な作品はやっぱり『シャークネード』だね! これはトルネードに巻きこまれた大量のサメが降ってきて街を襲うという設定なんだけど、そのサメたちへの人間たちの対抗手段がどんどんエスカレートしていくのがとても面白い。とくに主人公のチェンソーさばきのエスカレートっぷりは最高さ。有名なのは丸のみにされたのにチェンソーでお腹切って生還するシーン。アレは衝撃だったよ。続編が第六弾まで作られているけど、出色なのはやっぱり三作品目だね! ラストの妊娠したヒロインがサメに丸のみにされたことにより、サメから人間の赤ちゃんが産まれてくるシーンは間違いなくサメ映画史上最強のシーンだ。
他にも例を挙げるとキリがないけど、有名所といえばあとは『ダブルヘッドジョーズ』シリーズかなあ? これは文字通り頭が二つあるサメが襲ってくる作品でね。なかなか人気があったらしくてどんどん続編が作られてるんだけど、そのたびに首の数が増えていくんだ。スリーヘッド、ファイブヘッド、シックスヘッドといった具合に。その発想の単純さというか小学生っぽさがとにかく愛おしいよね! 諸事情によりフォーだけ飛ばしちゃったけどこの際自分が死ぬまでに何本になっているか見届けたいものだ。
あと僕が個人的に推したいのは『ロボシャークVSネイビーシールズ』という作品だね。これは宇宙人が送り込んできた機械生命体みたいなものがサメの体に乗り移って人間たちを襲ういう荒唐無稽というかまあ『寄生獣』みたいな話なんだけど、そのロボシャークがやたらと俗っぽくてインターネットを有効活用してるのが面白くてね。ヒロインが『あっサメにツイッターフォローされた』っていうシーンは何度見ても笑ってしまうよ。ちなみにヒロインがすごくカワイイんだよ。吹き替えのCVも内田真礼さんだしね。
あとサメ映画を語る上で避けては通れないのが『Z級サメ映画』という存在だよ。これは端的に言ってとてつもなくクオリティーの低いサメ映画のことで、サメ映画の実に九十五パーセントがこれに該当すると言われるんだ。中でも有名なのは『ジュラシック・シャーク』という作品だね。まあタイトルからしてみじんもオリジナリティが感じられないんだけど、もうなにせ支離滅裂なストーリー、とてつもなくだらだらした展開、あまりにおそまつなCGのサメなどある意味で一見の価値があるよ。でも恐ろしいのはそんな作品に続編というか同じ監督がさらにもう二作品サメ映画を作ってしまったことだよね。僕は勝手に『三部作』と崇め奉っているよ。直接の続編の『ロスト・ジョーズ』はまあ前作よりはいくらかマシな作品だったんだけどその次の作品『デビル・シャーク』は僕はサメ映画史上最低の作品だと思っているよ。まあジョーズと『エクソシスト』をミックスさせたような作品でその発想だけは面白いんだけど、ストーリーはめちゃくちゃで常人にはとても理解できるようなモノではないし、そのクセやたらにキモチ悪い演出が多いんだ。それも捕食シーンがグロいとかサメに関係あるキモチの悪さならいいんだけど、ぜんぜん関係のないキモチの悪さだからねえ。あとエンディングの後に流れるヒロイン? が水族館の売店でサメのぬいぐるみを延々と物色するシーンは必見だよ。人生で一番ムダな時間になりうるから。
おっと。サメ映画の悪口を言い過ぎちゃったけど最近ではちゃんとお金をかけて作った面白い作品も増えている。例えば二〇一六年の『ロスト・バケーション』なんかは名作と言われているね。あとジェイソン・ステイサムが超巨大サメと闘う『MEG ザ・モンスター』も面白かったなあ。あと個人的に一番オススメしたいのは『海底47m』という作品だね。これは檻に入って海に潜ってサメウォッチングをする『ケージダイブ』の最中にケージが海底に落ちてしまうという話。徐々になくなっていく酸素と人食いザメの両方の恐怖に襲われる姉妹の様子には背筋が凍ったよ。ラストのオチも賛否両論あるみただけど僕は斬新で好きだな。これは是非自分の目で確かめて欲しい」
――ここまで一分。呼吸回数0回。
四人の少女たちはポカンと口を開いて勇者を仰視していた。
とんでもない空気である。
耐えかねたツンデレ少女が口を開く。
「あ、あ、あんたの言ってることは! 一文字も理解できる部分がないんだからね!」
勇者はハハハと口に手を当てて苦笑した。
「ごめんごめん。ちょっとアツくなり過ぎちゃったかな。でもさ。そんな大好きな『サメ映画』がさ。また『生』で見られそうだから楽しみだよ」
「えっ……」
「ほら。もうすぐそこまで来てる」
そのように呟いた瞬間。
「ギャオオオオオオ!」
凄まじい雄たけびと共に砂浜からロケットのごとく流線型の物体が飛び出してくる。
「――! お兄ちゃん! 助け――」
上空から迫りくるサメにロリ少女はたった一口にて飲みこまれた。足のさきっちょだけが口から飛び出している。
「おお。砂浜を潜行できるタイプのサメか。『サンド・シャーク』という映画でもそういうのがいたなあ」
「ひ、ひいいいぃぃぃ!」
地味巨乳が発狂しながらもロリ少女の足を掴み引っ張り出そうと試みる。が。
「――あ」
足もとに巨大なまん丸い『穴』が現れた。
まるでギャグのように彼女は音もなく落下した。
「せ、先輩! ――はっ!」
今度はツンデレ少女の背後の砂浜からサメが飛び出してくる。だが。
「な、舐めるんじゃないわよ! 龍王激烈掌!」
「おお!」
炎を纏った拳がサメを吹き飛ばす。
「やるじゃない!」
「ふん。不意さえ突かれなければこんな――ってえええええええええ!」
「うわっ。すっごい数だね」
大量の三角形のヒレが砂浜からにゅっと姿を現す。砂浜を埋め尽くさんばかりだ。
やつらがそこにいるという証拠に他ならない。
勇者は風の魔法『スカイウォーク』により自らの体を宙に浮かせた。
彼の腕に抱きついていた幼馴染みの少女の体も同じく舞いあがる。
一人残されるツンデレ少女。
「そんな……! くっそおおおぉぉぉ! 龍王激烈――」
数十匹のサメが同時に襲い掛かる。ツンデレの姿は一瞬にして消え、代わりにサメの団子が形作られた。
「すごい! まるでスズメバチにおそいかかるミツバチみたいだね」
「フィンくん!」
勇者の腕の中で幼馴染みが声を上げる。
「に、逃げよう! 早く!」
全身がガタガタと震えていた。
勇者はそんな彼女を見てにっこりと微笑む。そしてこう告げた。
「なに言ってるのつまらない。闘うんだよ」
「え」
勇者は必死にしがみつく少女の腕を振り払った。
両手で空中を掻きながらゆっくりと落下してゆく。
顔に浮かぶのは絶望。目に光はない。
「さあてどんなバトルが見られるかな」
サメたちがいかにも美味しそうな体型をした少女にじわじわと迫りくる。
「彼女は剣士だからね。まずは武器を確保しないと」
勇者の声が聞こえたわけでもないだろうが、少女は海岸に打ち上げられた長さ一メートルぐらいの流木を手にした。
「いいね。サメ映画でも定番の武器だよ木の棒は。なぜだがライフルや水中銃なんかよりずっと効果があったりして」
「――地すべり雪月花!」
地を這うような剣撃が地面に隠れたサメたちを次々にえぐり出し吹き飛ばす。
「さすが三歳から剣道をやっているだけある。ほれぼれするような剣捌きだ。でも」
少女から距離を取り様子を窺っていたサメたちが同時に顔を出した。
「おっこれはもしかして」
「うっ――!」
サメたちの体が赤く輝く。そしてゴジラが火を噴くときのように大きく開かれた口から、赤い『粘液』が噴射された。少女は剣撃によりそれを辛うじて弾き飛ばす。が。粘液に触れた木の棒は一瞬に燃やし尽くされ、消滅した。
「やっぱりね。あの見た目は『マグマ・シャーク』だと思ったんだよ。近くに火山もあるし。そうなると木の棒じゃあねえ」
「……! フィンくんたすけ――」
勇者は四度、丸のみにされる仲間を冷徹な目で見おろしていた。
「彼女の愛剣『ディープブルーブレード』があれば勝てる相手だったけど。もってないときに襲われちゃったのが運のつき。まあバチが当たったかな? 僕のイジメを見てみぬふりしてたクセに幼馴染みヅラするもんだから。それにしても四人とも無駄にキャラが濃いくせに一瞬でやられてバカみたい。ホントおかしいや。アハハハハハハハハハハハハ!」
『おやおや。あっというまに、あと一匹になってしまいましたねえ。こりゃあわたしたちの出番はないかな?』
ヒカリはにっこりと微笑んでゴキゲンそうに前髪ををくるくるとひねっている。
アレクとメグは驚愕にポカンと口。
「ヒカリの仲間、『変異種』ってのはおっそろしく強い……メグ。どう見る?」
「まだわからない。なぜなら。わたしたちはまだ勇者のヤツの『底』を全く知らない」
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