第6話 BRAVE VS KINGSHARK

『ブルーリージョン』はわれわれから見て『異世界』に当たる地域であり、実際に存在する。

 その異世界において『ヒューマン族』が『人鮫族』から覇権を奪い取るきっかけとなったのはブルーリージョン歴一二六七年に開発された『ソウル・サモン』という超技術だった。これはヒューマン・リージョン――われわれが住んでいる世界から人間の体から抜けかけた魂を召喚し『オートマトン』と言われるこれまた超技術で作られた人造人間に宿らせるというもの。

 魂を得たオートマトンたちは元々の強力な力をさらに覚醒させ、おそるべき力を持つ戦士となった。こうして生まれた強力な戦士たちに寄って組織された『勇者五芒星軍』はあっという間に人鮫族の領域を侵食することとなる。


「さあ。あとはアナタだけみたいだね。フカヒレ魔王さん」

 漆黒の闇と濃度九十九%の食塩水で満たされた魔王城にて。

 サラサラのブラウンの髪の毛に白い肌、細い体。まだ十代そこそこの『人間の少年ように見える』男がにっこりと柔和な微笑みを浮かべて拳を構えている。

「貴様……!」

 対するのは。巨大の岩のごとくゴツゴツした体、大きく裂けた口、長く伸びたノコギリ状の鼻、そして鋭く尖った歯。

 彼は人鮫族たちを率いてブルー・リージョンを統治し、自らを『鮫魔王』と称していた。

「おお! すごい迫力。やっぱりかっこいいねえ。実はねえ僕は鮫が大好きなんだ。『勇者』だから仕方なくたくさん殺しちゃ――」

 少年がおしゃべりするウチに魔王は彼の背後に周りこんだ。

「お」

「くたばれ! パペットシャーク・クロー!」

 魔王の左手が小さなサメに変化した。

 そのサメは勇者の体を貫き、心臓を取り出しそいつを喰らった。

 鮮血が迸る。鉄の臭いが充満する。

 だが。

「随分と可愛らしいワザだね」

「なっ!」

 魔王が振り返るとその背後に少年が立っていた。まったく綺麗な体で穏やかに微笑んでいる。

「ごめんね。一応体をふたつ持ってきてたんだ」

 少年は魔王の首根っこを掴むと、

「ねえ。ところでさっきの話の続きなんだけど」

 無造作にほおり投げる。途方もないスピードで水平に飛び壁を破壊した。

「僕がサメを好きになったきっかけってね『サメ映画』なんだ。知ってる?『サメ映画』。今ちょっとしたブームでたくさんの作品がつくられてるんだ。でもね。僕はやっぱり未だに『JAWS』っていう映画が最高のサメ映画だと思うんだよね」

「ぐっ……畜生! 貴様! 一体……!」

 瓦礫の山から立ち上がる魔王に対し少年は、

「だからさ。その映画のパロディをやらせてもらってもいい?」

 手刀で空間を切り裂き、その中から『酸素ボンベ』取り出した。

 そいつを魔王に向かってほおる。

 サメの本能か魔王はそれを口とキバでキャッチした。

「おお。いいね。JAWSのクライマックスシーンと同じだ」

 そういうと少年は今度はライフル銃を空間のはざまから取り出した。

「主人公のマーティン・ブロディはこんなセリフでラストをしめくくるんだ『Smile you son of a bitch!』」

 発射される弾丸。そいつが酸素ボンベに着弾した瞬間。

 ――爆発。

「Oh yeah! やっぱり爆発オチって最高だよね!」

 ボロボロに崩壊し炎上した体。魔王は最後の言葉を発した。

「まさか……死……? アレク……メグ……」

 ばったりと倒れ伏す魔王。

 勇者はそれを踏みつぶしてトドメをさしながらこんな風に呟いた。

「へえ。アナタには死に際に想う人がいるんだ。僕にはそんな人いないな」

 こうして人鮫族たちはブルーリージョンの覇権を勇者たちの手によってあっけなく奪い取られた。


 ――だが。


「くっ! 父上!!!」

「まて! メグ! 出ていっても殺されるだけだ!」

「だが!」

「今は耐えるんだ! 怒りを殺せ! そして生きるんだ!」

「離せ!」

「この手は離さねえぞ! 今はムリだが! 俺は力を蓄え、仲間を集めて復讐に出る! 必ずヤツらを殺す! そしてそれにはおまえの力が絶対に必要だ!」

「アレク……」

「さあ。逃げよう」

「……わかった」

 人鮫族の灯が消えたわけではない。彼らは虎視眈々と反撃の機を伺っていた。

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