第5話 DECLATION OF WAR 2/2
「どだった?」
ヒカリはアレクとメグに感想を求める。
「いるかこれ? 長いし」
とアレク。だが。
「す、すごく良かった」
「ええ……?」
メグは顔を紅潮させて拳を握りしめている。なにか琴線に触れるものがあったようだ。
「良かったー! そんじゃあ生中継のほうに切りかえますかー」
ヒカリがパチンと指を弾くと映像がヒカリのバストアップ映像に切り替わる。
それとともに
『うおおおおおお!』
『ヒカリちゃああああああああああんんんん!』
『キタワァ!』
『おっぱいでけええええええ!』
という歓声――と言っても音声ではない、書き文字によるいわゆる『コメント』が画面全体を埋め尽くした。
「俺も一応コメントしておくか。えーっと。『おっぱいでけえ』と」
「ん? それどうやってやるんだ?」
「念じるだけだが――ヒューマンには難しいのかな?」
「えーっと。『巨乳は全員バカ』。……ムリなようだ」
「まあ普通はこのシャークチューブの配信はヒューマンには見えないからな。ヒカリの電波が強すぎて人間にも届いちゃってるだけで」
ヒカリはあざといスマイルを浮かべながら手を振ったり谷間を強調したり充分に視聴者に媚びを売ってからようやく本題に入った。
「ビリビリー! ハローシャークチューブ! 六兆ボルトのハンマーロリ巨乳! ヒカリ・アローナ―でーす!」
さらにすさまじい数の歓声が画面を埋め尽くす。
アレクも『おっぱいでかすぎ』とコメントを残した。
「さあ今日の告知内容はもちろんみなさんわかってますね! いよいよ一週間後! 『オフ会』を開催致します!」
『行くぞ!』『当然行く!』『おっぱいでかい』というコメントが画面を埋め尽くす。用事があって行けないというようなコメントはひとつもない。
「場所は先日告知した通り! ハウラニー島!」
ヒカリはブルーリージョンの地図を取り出し『ここ』と指さした。
「オフ会でやることは二つ! ひとつはもちろんオフパコ! それからもうひとつ!」
ヒカリは両手の拳を握りしめると――
「ナマイキにバカの癖にそんなところを貸りきってバカンスなんか楽しんでいやがる『五芒星軍』を完膚なきまで痛みつけ! 男も女も関係なく犯し尽くし! そして全員! まずいもうめーも関係なく喰らい尽くして腹ん中でクソにしてやることだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
あまりの物量の歓声により画面がスローモーションになってしまった。
「やれやれまた発作が出てやがら」
「アレク。素朴な疑問なのだが」
「なんだ」
「これって人間にみられちゃうことはないのか。わたしが見られるわけだから」
「……絶対ないとは言えんが、間違って見ちゃってもびっくりしてすぐ目え開くだけじゃねーか?」
ヒカリはさらにヒートアップ。服を破り捨てて下着姿になった。
「殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉人肉うううううううううううううううううう!!!!!」
オーディエンスたちそれに呼応する。画面はもうめちゃめちゃだ。
――たっぷり五分もトリップした後、なにきっかけか不明だが急激にクールダウンしてヒカリは必要な情報を提示する。
「集合時間は明日の午後一時! それぞれの持ち場は参加者のみなさんにダイレクトメールを送ってあるのでちゃんとカクニンしてね♪」
画面には送信元のメールアドレスやメールタイトルの詳細が表示される。わりとニョサイのないことである。
「それじゃあ一週間後、みなさんに会えることを楽しみにしてるね♪ 以上! 六兆ボルトのハンマーロリ巨乳! ヒカリ・アローナでした! チャンネル登録よろしくね! 登録しないと食べちゃうぞ! しゃくしゃく!」
いつものあざとい挨拶で配信は終了した。
ヒカリは『ふぅ♪』などと楽し気に溜息をついたのちアレクに尋ねる。
「ふー。おつかれしたー。どうだった?」
「まあムダに長くてうるさかったけど、要点は伝えてくれたし、一応ナカマのテンションも上がったようでよかったよ」
「メグたんは?」
「きわめて良かった」
「ええっ?」
自分のおでことメグのおでこに同時に手を当てた。
「メグたんが私にデレるなんて! 熱でもあるんじゃないかしら?」
「性格はあれだが、おまえの実力は元々認めている」
「へへ。やったー。そんじゃあよろしく」
そういってアレクに対して両手を差し出す。
アレクは首をかしげながらその手に自分のヒレを重ねた。
「違うよ『お手』じゃないってば」
「じゃあなんだ」
「お・か・ね。決まってるでしょ」
「金取るのか!?」
「あったりまえ」
アレクを壁際に追い込む。いわゆる逆壁ドンである。
「契約金は払っただろう」
「今のは別料金にきまってるでしょ?」
「なにが決まってるんだゼニゲバ!」
「だってお金好きなんだもん。すべての概念よりもお金が好きなんだもん」
「なんだもんじゃねえ!」
メグは呆れ果てた表情を浮かべながらもアレクに進言する。
「アレク。そいつは金払わないと。一生そのまま動かないぞ」
「しょうがねえなあ……」
「おっかね♪ おっかね♪ おっかね♪ おっかね♪ おっかね♪ いくらくれるの?」
「いまは持ち合わせがねえ。前金ってことで『モノ』で勘弁しろや」
「えー? まあいいけどサ」
アレクは壁ドンから解放されると、さきほどのパーティールームに戻りなにかを取ってきた。
「ホレ。こんなこともあろうかと貰い物を取っておいた。貴重なもんらしいぞ」
手にしているのは茶色い紙袋だった。
「あーコレは」
メグが中身を取り出す。どうやらそれがなにか知っているようだ。
「ヒューマンリージョンの若い女の間で流行っているらしいタピオカミルクティーじゃない。しかも有名店『GANTZTEA』の」
ヒカリの手の中にあるのはプラスチックの容器。薄茶色の液体と底に沈んだ黒い球が見える。
「らしいよ」
「ちょっと飲んでみたかったんだー頂きまーす」
ヒカリは太いストローに口をつける。
「……………………………………………………」
なぜか。その様子をメグがじいっと見つめている。
ヒカリはストローから口を離して尋ねる。
「もしかしてメグたん。飲みたいの?」
「……いやそんなことは」
「そっか」
「……でもどうしても飲みきれないならちょっとだけ飲んでやってもいいぞ」
ヒカリはニヤりと笑みを浮かべた。
「うん。そうだねー。じゃあさきに飲んじゃっていいよー」
メグが無表情のまま、しかし目をキラキラ輝かせながら容器を受け取ろうとした瞬間。
「――――――アッ!」
ヒカリは容器のフタを外して中身を一気に飲みこんだ。
「そ、そんなぁ」
メグががっくりと床にヒザをついた。完全に目が死んでいる。
「あれーごめん。ちょっとからかっただけなんだけど。もしかしてすっごく飲みたかった?」
「ば、バカを言うな。むしろせいせいしてるぐらいだ」
「底に残った汁吸う?」
「……吸わん」
「フタペロペロする?」
「……せん」
「そうだまだ口の中に残ってるからべろちゅーしてあげようか」
「やめんか!」
ヒカリがメグに強引にキスを迫る。
メグがそれを両手をついたてにして防ぐ。
「……あのさ。貴様らふたりもうほっといていいかい?」
アレクは大きな溜め息を吐きながら操縦桿の前の椅子に座り直す。
「俺は俺で動かなきゃいけなねーのにさ。まったく無駄な時間を――」
ぶつくさいいながら操縦桿のオブジェクトのひとつである、電話のようなものを耳に当てた。
そして。
「もしもし? よぉ久しぶり。一週間後の約束覚えてる? あっ忘れてたでしょー。頼むぜー自慢のトゲでさ。えっ? 終わったら姉ちゃんの店? あんたも好きだねー。わかったわかった。例の高級金魚キャバクラでいいんだな?」
機械はやはり電話であったらしい。
ひとしきり会話が終わるとまた次の人に電話をかける。
「よおマダム。来週はよろしく頼みますよ。マダムの毒を頼りにしてるからよ。うんうん終わったら飲みにいこうぜ。どこってそりゃあイケメンがいる店に決まってんだろ。いいハンサム有頭エビがいる店知ってるからよ」
「ういっすー。来週は頼むぜー。終わったらクラゲおっぱいパブでも行こうぜ。ん? 行ったことないのか? いいか。クラゲが二つあってだな――」
「もしもし。よおジョーくんよろしく頼むぜ。なにせキミが最後の切り札だからな。得意のアゴでたのんまっせ。ん? ……イカスミソープランド? 愚問愚問。行くにきまってるだろ」
ヒカリはその様を興味深げに見ていた。
「すごいコミュ力だね」
「やつは友達の多さだけで生きてるようなもんだからな」
悪しざまに言いながらも腰に両手を当てて若干のドヤ顔である。
「うらやましいなー。わたし信者はいても友達はひとりもいないから」
「だろうなその性格じゃ」
「そういうメグちゃんは?」
「……いない」
「ケラケラ」
「笑うなバカザメ」
「まあいいじゃん。メグちゃんにはAJくんがいるから」
「うん。まあ」
「おいおーい! 素直かよ!」
ヒカリは頭をぺちーんと叩きキツめのツッコミを入れた。
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