3.SIDE-A_6 違和感の正体
殺風景な廊下を進んでいく。打ちっぱなしの壁、明るすぎる白の照明。
地下なので窓もない。
なんとなく息苦しくなって、リノリウムの床を見ると、なんだか動き出したように見えたので、すぐに目をそらした。
「今日はサークルの人たち、ここに来てないんですか?」
「来ないで、ってみんなには言ってあるの。何かあると思ってね」
師匠の問いに碓井先生が答える。
碓井先生が主催する総合音楽サークル・
もともと碓井先生を含めた人工知能やロボティクスの研究者たちが共同で借りていた土蔵つきの町屋に、彼の音楽仲間が入り浸り始めたのがきっかけだったらしい。その後碓井先生が引っ越すたびにサークルの拠点もそこに移されるようになり、今ではこの旧地下鉄街の一角に落ち着いている。サークルの活動歴は、すでに三十年以上になるという。
ここでの活動は、音楽にかかわるものであればなんでもいい。作品を作っても、プログラムを組んでも、ハードを作っても、偉い人から活動資金を引っ張ってくる方法について研究したってかまわない。基本的に自由だ。そして碓井先生は、自分の研究の傍ら、サークル員の活動を支援したり、始動したり、ときにその成果を自分の研究にも活用したりしてきた。
そんな自由な空間から、たくさんの活動家が巣立っていった。
でもその筆頭といえば、みな同じ名前を口にする。
まず、桐澤由宇理。次点で、沙原奇信だ。
桐澤さんのインタビューや著作によると、二人は本当に碓井先生を尊敬しており、碓井先生もまた、この二人をよく指導したらしい。
だから師匠もてっきり、碓井先生にとっての一番弟子も、この二人のうちのどちらかだと思っていたのだろう。さっきの憮然とした態度の原因は、きっとそれだ。
一番弟子って、いったい誰なんだ。
僕(と、おそらく師匠の)疑念をよそに、碓井先生はすたすた進む。
鍾さんと伯牙はその横に並び、雑談している。
僕らは後ろを行く。
師匠は息を止め、碓井先生の背中を睨んでいる。
僕は咳払いをこらえ、喉の奥、何度も掠れた音を鳴らし続ける。
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