2.SIDE-A_14 顔ぶれ
鍾さんは共有視界上に、五人の写真とプロフィールを展開した。
「まず、一人目はアゼリア・ブラック」
そう言って、鍾さんはブラウンの髪をした白人女性の写真を指さした。
「アメリカ人の女性共創家で、知ってるかもしれないけど、僕や伯牙、由宇理からすれば、ライバルのような存在だ。パフォーマンス向上のため、身体の一部を義体化してる――電子副脳を積んで、共創時の処理能力を高めてるんだ。それが最初に明るみになったときは、ルール的にどうなんだとめちゃくちゃ揉めたよ。由宇理が別にいいじゃんとか言って、そのまま認められちゃったけど」
鍾さんは次に、黒々としたドレッドヘアーで強面の、老人の写真を指さした。胸から上だけの写真だったが、鍛え上げられた身体なのがよく伝わってきた。
「二人目は、
この人は厳密には音楽家じゃない。
三番目に指さしたプロフィール画像は、人間のものじゃなかった。精巧にできているが、3Dのアバターだ。灰色と紫の水晶がまだらにまじったような、半透明の髪が、中性的な、青白い顔の上に乗っている。
「次は
鍾さんは口をひねった。
「そして、この人も捕まえにくいかもしれない。ジャプニート・マサキ。インド系の日本人で、絶滅寸前の伝統音楽や希少言語の研究家なんだ。研究取材と成果発表とパフォーマンスで、世界中を飛び回っている」
褐色の肌に豊かな黒髪、そして瞳は澄みきり、顔かたちは小さくまとまっている。なかなかの男前だった。
「そして、最後――この人はもう、捕まえようがない。
鍾さんの語気が、初めて濁った。
「くそったれな排外主義・レイシストの美学を、これでもかと芸術へと昇華してみせる、もったいないくらい優秀な国粋主義音楽家だった」
軍服を着た、目鼻立ちのはっきりした優男が、優雅にフレームの向こうで微笑んでいた。
「まあ、二年前に暗殺されたけど。せめてご家族と接触して、断片だけでも受け取れたらいいんだけどね。
と、こんなところだね」
鍾さんの発表を受けて、僕は、訊かずにはいられなかった。
「あの、鍾さんは、フレーズを受け継いだ全員のことを知ってるんですか?」
「いいや、ひとりだけ知らなかった。由宇理が死ぬ前に、七人分だけ教えてくれたんだけど。まさか、翔君みたいな若い子だったとはね」
「身に覚えがないんですよ、それ……」
「まあまあ」
鍾さんは僕の肩を叩いた。僕はもう一つ質問をした。
「なんで、お二人は、僕にティティナを演奏させたんですか?」
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