1.SIDE-A_13 地獄の入り口、一大告白

 僕たちは、エリーゼのガラスケースの前に立っていた。

 現実に帰ってきたのだ。

 そして僕の隣には、世界一優秀な相棒ロボットと。


 世界一美しい人が立っていた。


 師匠は、そっと僕らをまとめて抱きしめた。



 *



 あばばば。

 あっばばばばばばばば。

 ばららぶばでららばばばあっばば。

 すかっばだばだばどぅびりばべどぅびどぅば!


「素敵な演奏をありがとう――エリーゼと、ええと、きみ、名前は?」


 ヴィオラのような声でそう問われた。僕は非常に動転した。


「あっあぅあ」


 だから、素で、意味のわからないことを言ってしまった。


「好きです!」


 それに対して彼女は、


「知ってる」

 と微笑んだ。


 *


 このとき、僕も師匠もまだ気づいていなかった。

 通知をオフにしたニュースアプリやネットワーキングサービスから、速報の通知が山のように来ていたことに。

 稜華芸大を取り囲む、京都の街が、いつもより少しだけ静かなことに。


 そのころ、世界中の感情インフラシステムが障害を起こしていた。


 突如、世界中の音楽生成・配信サービスからユーザーがロックアウトされ、倫理保全用プログラムがあらゆるデバイス上の音楽を破壊し、PAシステムはすべての音を強制的にミュートした。音楽を取り込んだあらゆるエンタテイメントは、供給を停止するか、トラックをオフにするかを余儀なくされた。


 オンラインに流通する音たちは、さながら皆、牢獄の奥に追いやられたかのように、居場所を失うか、あるいは破壊された。


 それらのニュースを聞き、僕らはようやく思い出す。彼の残した言葉。

「『究極のサウンド』は放たれた。『八弦はちげん』を集め、これを捕らえ、音楽を解放せよ」

 音楽を、解放する?

 どうやって?

 『究極のサウンド』?

 『八弦はちげん』?


 まだ僕らは、何もわかっちゃいなかった。

 地獄が始まっていることも、まだ入り口に立ったばかりだということも。

 そしてその地獄から生まれるとてつもない音楽たちのありさまも。

 世界を恐慌させた、本当の沈黙も。

 まだ何も知らずにいたのだ。


 というわけで、第二章に入る前に、改めて。


 You ain’t楽し heardみは nothingこれから yet!だ!

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