第59話 お風呂の話
トゥユはお風呂場に着くとすぐに服を脱ぎだし湯船に飛び込んだ。
「トゥユ、はしたないですよ。それに湯船に飛び込んではいけません」
レリアの注意に「はぁい」とトゥユは素直に謝ると、他の面々もトゥユに続いてお風呂に入ってきた。全員がお湯に浸かると浴槽からお湯が溢れ、室内が一気に水蒸気によって曇る。
ロロットは周りを見渡すと溜息を吐いた。今回初めて見た二人がロロットと同じ位、いや、それ以上の胸の大きさをしていたからだ。
「何でトゥユは胸の大きい人ばっかり連れてくるの?」
ロロットがトゥユを恨めしそうに見つめながら再び溜息を吐く。ロロットは胸の大きさに自信があるのだが、前回レリアと一緒にお風呂に入った時にショックを受けたのだ。しかも、今回はそれに負けず劣らずの女性が二人もいるのだ。
リラは初めてのお風呂というのもあるのだろうか大人しくお湯に浸かっているのだが、その胸の大きさはレリアと良い勝負をしており、形の良さはこの中で一番と言って良いかもしれない。
ナルヤはトゥユの傍に居るせいもあるだろうがその胸の大きさが余計に際立っていた。しかもナルヤがお風呂に入るときにロロットは後ろの居たのだが、お尻の美しさにびっくりした。女性らしい丸くて男性受けする綺麗なお尻だったからだ。
「私だって好きで胸の大きい人だけを連れて来てる訳じゃないよ。ソフィアが良い証拠でしょ」
完全にとばっちりである。ソフィアとて決して胸が小さい訳ではないが、トゥユを除く他の女性陣に比べれば小さいだけだ。
「トゥ、トゥユ、な、何を言うんだ。私だって決して小さい……訳じゃ……」
ソフィアはレリアたちの胸を見ると、段々恥ずかしくなって来て、口の所までお湯に浸かりブクブクと泡を上げながら何かを言っている。
トゥユとソフィアの会話にリラが注意を向けている隙を見て、ロロットは誰にも気づかれずリラの後ろに回り込み、両手でリラの胸を掴んだ。「あんっ」っと艶めかしい声をリラが上げると全員の視線がそちらに向けられた。
リラは胸を掴まれているのと、全員の視線が自分に注がれているのを受け、顔を真っ赤にしてしまった。
「ロロット、お客さんに失礼ですよ」
レリアの制止にもロロットは怯まない。こういう時のロロットは強いのだ。
「お風呂では無礼講のはずよ。ここではそういう決まりでしょ」
ロロットはリラの胸を揉みながらレリアに答えた。確かにレリアはお風呂場でリラックスするため、イーノ村では無礼講としていたのだ。
「凄いわ。国のトップになる人って皆こんなに胸が柔らかいの?」
レリアの胸も大きくて柔らかかったのだが、リラの胸もレリアに負けず劣らず凄い柔らかさでロロットの指を捕まえている。
女性に胸を揉まれるなんて今まで経験もした事がないリラは上気した顔になり、体の力も入らずロロットに成すがままにされてしまう。
一頻りリラの胸を堪能したロロットは次の目標をナルヤに定める。ロロットの視線を感じ、トゥユの後ろに隠れたナルヤだがその時は既に遅かった。
「あん。止めてください。ご主人様! 助けて!」
ナルヤの声がお風呂場に響き、艶かしい声は聞いている者たちの耳を擽った。
ナルヤの胸はレリアたち同様に大きいのだが、レリアたちの胸と違い指が胸に入って事はなく、弾かれてしまうような弾力があった。それは決して硬いと言うわけではなく、張りが凄かったのだ。
「ナルヤの胸も凄いわね。服の上からでも大きいのは分かっていたけど、実際に触ってみるとまた違った印象を受けるわ」
ロロットの胸診断に体を捩って逃げようとするナルヤだが、それは逆効果だった。何故ならロロットの手がさらに胸に食い込んでしまいロロットを喜ばせるだけだったからだ。
「ロロットもうそれ位で良いでしょ。止めてあげなさい」
レリアに窘められたロロットはナルヤから名残惜しそうに手を離すと、隣に居た本日の
襲われる気配があるのにそのまま掴まるようなトゥユではなく、ロロットの手を掻い潜り、湯船に潜り込むと潜水したままロロットの後ろを取った。
「ロロットやりすぎよ。お仕置きをしなくちゃいけないね」
トゥユが湯船から顔を出しロロットの胸を掴むと、ロロットの見よう見まねで胸を揉み始めた。
「えっ、嘘。ちょ、ちょっと待って。トゥユ凄いわ。今までの誰よりも上手い」
要らない才能を発揮したトゥユはロロットがこれ以上自由に動けなくなるまで揉み続けてから手を離すと、槽にもたれ掛かり顔を真っ赤にして動けなくなったロロットが居た。
「凄い……。流石トゥユ。大満足だわ」
ロロットの暴走により落ち着いたお風呂にならなかったが、お風呂に入った半数の三人が赤い顔をして動けなくなった所でレリアの一言で本日の入浴は終了したのだった。
お風呂の後、レリアたちは村人が料理をご馳走してくれるとの事で部屋まで戻ってくるとワレリーとソルは、皆がお風呂に行っている間も話していたのか既に着席していた。
村人たちの料理は豪華な物ではなかったが、心がこもっており王都で食べた事のある宮廷料理より、何倍も美味しかった。
しかも、ロトレフでは見ないような調理法で出された肉料理にはその美味しさに端ないと思いつつも齧り付いてしまったのである。
ちょうどレリアがトゥユたちとの会話に一区切りがついた時、リラはレリアに話しかけた。
「本日はありがとうございました。お風呂は少しびっくりしてしまいましたが、とても有意義な時間が過ごせたと思います。今日来たばかりなのですが、私たちは明日には村を出ようと思います」
何日間かは泊まって行ってくれる物だと思ったレリアは突然の申し出に驚いてしまった。
「もう何日か泊まって行ってはどうでしょう。長旅の疲れも取れていないでしょうし、急がなくても良いのではないでしょうか?」
レリアの説得にもリラは首を振って固辞する。
「私には独立同盟の他の国の説得を行うと言う仕事があります。それに国に残してきた者たちも心配ですし、申し出は嬉しいのですが早く戻ろうと思います」
レリアはリラの目を見ると意思が変わらない事を悟り、「分かりました」と優しく微笑んだ。
それからは明日戻ってしまう友人との別れを惜しむかの如く会話が進み、食事の時間だけでは足りずレリアの自室に移しても終わる事がなく、レリアもリラも一生分話してしまったのではないかと思えるほど会話をし、明け方になって慌てて眠りについたほどだった。
「それでは皆さんお世話になりました。我々はロトレフに戻りミトラクランに対し体勢を整えてきます」
ソルが馬上からレリアたちにお礼を言うと、さっきまでウトウトと舟を漕いでいたリラも意識をはっきりさせ別れの挨拶を述べる。
「この度は我々を受け入れていただきありがとうございました。皆さんの優しさは国に帰っても忘れません。ここからが大変ですが、お互い手を取り合ってミトラクランを倒しましょう」
その言葉に集まった者たちは一斉に歓声を上げ拳を振り上げてリラに応じた。良いタイミングだと思ったレリアは前に進み出ると集まった者たちに向け宣言する。
「今から一カ月後、イーノ村を中心に国を立ち上げます。国の名前はヴィカンデル王国。皆さん協力してミトラクランから奪われた物を取り返しましょう」
正式にレリアの口から一カ月後に国を立ち上げると聞いた村人たちは、先程と比べても負けない位大きな歓声を上げた。
嬉しさのあまり興奮が抑えられない村人たちに見送られ、リラはイーノ村からロトレフに向けて出発して行った。何度も振り返りながら手を振るリラは村が見えなくなるまで繰り返した。
「良い村だったわね。最初は不安だったけど、来て良かった」
「そうですね。非常に良い人たちばかりで離れてしまうのがもったいない位ですが、我々はやらねばいけない事がありますからね」
リラもソルもイーノ村を離れる事に後ろ髪を引かれる思いではあったが、自分たちのなすべき事を忘れる事はなかった。
「そう言えば、会談に出席されてた方と私たちが居なくなった後、どんな話をしていたのですか?」
会談の後、ソルとワレリーが残っていたのが気になったリラは興味深そうに後ろからソルの顔を覗くが、ソルは多くを語らなかった。
それはワレリーと仲が悪くなったとかではなく、昔話をしていただけなので面白くないだろうと言う判断からだった。
ソルとワレリーは王国に入った時期も殆ど同じで、年齢も近かった事もあってすぐに打ち解けて仲良くなった。
訓練の時も一緒に居る事も多く、何度も手合わせをした事を覚えている。当時からソルの強さは際立っており、手合わせではソルは一度もワレリーに負けた事はなかった。
「ソル、もう一度だ。次は負けん!」
そんな声が何度も訓練をしている広場から聞こえてくるのは一緒に居た兵の中では有名だった。
ソルはその能力を戦場で遺憾なく発揮し、次々と昇進して行ったが、ワレリーはソルとの手合わせで自分の実力を知り、地道に昇進していく道を選択した。
ワレリーの選択は決して間違いではなく、その選択のお陰で今でも無事に生き残っているのだ。
ある時、ソルが千人長、ワレリーが十人長の地位に着いている時に戦場が一緒になった事があった。その時はまだ王国軍にも勢いがあり、イェニー城から帝国軍の領地に向けて侵攻を行っていた。
ソルは千人長の立場から会議や報告など多忙を極めており、文字通り寝る暇もなかった。ソルの疲労は段々と高まり、その疲労ゆえに危機的状況に陥った事があった。
帝国軍の領地に入っての攻撃で、一つの村を占拠したソルの部隊は村に残っている兵や反抗的な者が居ないかチェックを行っていた。だがそのチェックも及ばず藁の中に隠れていた帝国兵に斬りかかられてしまった。
「死ね! 王国の犬共!」
その言葉に反応し、持っていた槍を構えようとしたのだが、槍が体に当たってしまい落としてしまった。普段なら決して槍を落とす事などないソルだが、生涯を通じて初めて槍を落としてしまったのだ。
急いで槍を拾い帝国兵に視線を向けると護衛の兵は斬られ、帝国兵の目の前にはソルしか居なかった。好機と見た帝国兵がソルに向かって剣を振り下ろす。ソルは槍を拾った姿勢も悪かったため、すぐには反応できず死を覚悟し目を瞑った。
キィィィィン!
死を覚悟したソルの耳に甲高い音が聞こえた。ソルが恐る恐る目を開けるとソルの目の前で帝国兵の剣を受け止めている人物が居た。その人物は剣を弾き上げると無防備になった喉に剣を突き刺し帝国兵を葬ったのだ。
村の各所から物陰に隠れたりしていた帝国兵が見つかり王国軍はその全てを殺していき、村は無事に王国が抑える事ができた。
ソルが立ち上がり助けてくれた男に声を掛けようとした時、
「これは俺の勝ちで良いな」
そう言って振り向いた男はワレリーだった。ワレリーはソルを助けた事に恩を着せる事もなく笑って自分が勝負に勝ったのだと言い放った。
「あぁ、今回は私の負けだ。助かったよ、ワレリー」
勝負などしていなかったのだが、ソルは素直に負けを認めてワレリーに礼を言った。
「しっかりしろよ、ソル千人長殿」
ワレリーに敬称を付けられて呼ばれたソルはどこか体がむず痒い感じがしたが、他の兵も居る手前、ワレリーに呼び捨てにさせる事はできなかった。
ソルはその後も北方に残り今回の失敗を糧に次々と戦果を上げていったが、ワレリーは上長の不興を買ってヴェリン砦の方に左遷されてしまった。なので二人が一緒に戦ったのは後にも先にもこの時だけだった。
そんな二人が会ったのだ。簡単に挨拶だけして終わるような内容ではなかった。お風呂の後、食事の時になると一旦は元に戻った二人だったが、リラとレリアが自室で話し込んでいた時にソルとワレリーも食堂に残り会話の続きをしていた。
「ソル殿とまた一緒に戦えるなんて思ってもみなかったです」
「止めてくれ、ワレリー。先ほども言ったが、私はだたのソルだよ。君の上官ではないのだ呼び捨てにしてくれて良い」
敬称を付けてしまう癖を指摘されたワレリーは「では、ソル」と呼び捨てにすると二人に笑顔が浮かんだ。それから話は終わる事なく夜が明けるまで酒を酌み交わしていたのだ
「さて、ロトレフに急ぎましょう」
ソルは懐かしい思い出話を胸にしまい、これ以上リラに聞かれないようにわざと馬を走らせた。突然のスピードアップにリラは何も言わずソルに抱きつくしかできなかった。
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