第26話 教会の話
ダビィは襲撃が成功した夜、自室にいた。
ダビィのベッドには一人の女性がその美しい裸体を晒し、足を大きく広げダビィを迎え入れている。
一心不乱に腰を動かすダビィは額から汗が流れるのも気にせずその動きを止めようとはしない。
「ねぇ、何時トゥユを殺してくれるの?」
女性が艶めかしい声でダビィに語り掛けると、ダビィは集中力を乱されたとばかりに顔を歪める。
「またその話か。そんな話よりロロットももっと楽しんだらどうだ」
ダビィの腰が動く度に豊満な胸を揺らすロロットはダビィを抱き寄せ耳元に熱い息を吹きかける。
「私は十分に楽しんでるわ。でも、教会の方から催促が激しいのよ、貴方の動きと同じようにね」
抱きかかえられてしまったダビィだが、腰の動きは更に速く激しくなっていく。
「大丈夫だ。今日、私が行動を起こさなかった事でトゥユは次の時も安心するだろう。だが、それが奴の最後だ」
昼間の事を思い出すと腰の動きが鈍くなるが、すぐにダビィは快楽に負け元の速さに戻してしまう。
ダビィは疲れたのか態勢を変え、ベッドに寝ころぶとロロットを上に乗せる。
「あの子強いって噂だけど、本当に大丈夫なの?」
上下に動く乳房は寝ていた時より激しく動き、その動きに耐えられずダビィは猛禽類のように乳房を鷲掴みにする。
「あぁ、堪らん。もっとだもっと激しく動いてくれ」
ロロットは自分の話が無視されたのが気に入らず、動きを止めてダビィを睨みつける。
「私と貴方はお互いの利害関係によって結ばれているの。 ちゃんとした返事がないなら今日はこれで終わりよ」
急に動きを止めたロロットにダビィは絶頂の寸前でお預けをされてしまい、慌ててロロットの質問に答える。
「大丈夫だ。いくら強いと言っても味方と思っていた者から急に襲われて対応できるわけがない。それに次はトゥユと部隊を切り離しトゥユを孤立させるからな」
質問に答えている間も寝ている状態で腰を動かしていたダビィは早くロロットから動くように催促する。
一応の回答を貰ったロロットは再び腰を上下に動かすとダビィは絶頂を迎え疲れ果てて寝てしまった。
ベッドで死んだように眠っているダビィを一瞥するとロロットはダビィによって脱ぎ散らされた服を集め素早く身に着けていく。
ロロットは月星教の教徒だ。
月星教は元は知る人ぞ知ると言うぐらい小さな宗教であったが、帝国が国教に指定をしてからその教徒は爆発的に増えて行き、教義は帝国全土ばかりか王都にまで広がっていた。
その教義は月に居る神の声を巫女と呼ばれる女性が聞き、その言葉に従う事で死んだ後は星となって幸せな死後を送れるというものだった。
ロロットは小さい頃大病を患い、母親が月星教に救いを求めた事から月星教の教徒になった。ちなみに父親はロロットが生まれた頃にはどこかに行ってしまっていた。
ロロットの病気は教会の治療により、無事に完治したのだが、ロロットの家は大変貧しかったので治療費を払う事ができず、治療費の代わりに教徒となって教会で働く事を幹部から強要された。
その幹部はルトラースと言って長い髭を蓄えた母親よりも一回りほど年上の男性だった。
母親は教会の掃除からルトラースの食事の用意と多忙を極め、目に隈を作り、日に日に体がやせ細っていくのが分かった。
そんな母親をロロットは心配したが、何処か嬉しそうな顔をしていた。
ある日の夜、ロロットはトイレに行こうと部屋を出ると、ルトラースの部屋から明かりが漏れているのに気付いた。
そこから部屋を覗くとそこには恍惚の表情を浮かべた母親が、天井から垂らされた縄に縛られている。母親は涎を垂らし早く男性の物が欲しいと懇願している。
ロロットはそんな母親が怖ろしく思い、音を立てないようにルトラースの部屋を離れると頭から布団を被り震えて夜を過ごした。
母親は教団の作成した薬に犯されていた。
部屋に戻って来る度にロロットは薬をせがまれ、暴れる母親をなだめるのが大変だった。
その内に母親は部屋にすら戻ってこず、ルトラースの部屋に入り浸るようになってしまった。
数年後、ロロットが部屋で寛いでいると久しぶりに母親が戻って来た。
その姿はロロットが知っている母親の姿ではなかった。優しく綺麗な顔は痩せこけ、ちゃんと見ないと母親かどうかも分からいぐらいだった。
そんな状態でも母親は薬をロロットにせがんで来る。薬が欲しくて暴れる母親を教会の空いている部屋に隔離してロロットはルトラースの元に向かった。
ロロットが薬が欲しいとルトラースにお願いすると、ルトラースは下卑た笑みを浮かべ条件を提示して来る。
その条件とは母親の代わりに体を差し出せという物だった。
ロロットは悩んだ末、母親のためならと思いルトラースに体を差し出すことにした。
犯されている最中、ルトラースはロロットに対し、薬を使おうとしたがその薬は全て母親に持って帰ることにした。
ロロットにとっては地獄ともいえる状況が一年ぐらい続いた時、ルトラースは突如ロロットに王国の偵察を命じてきた。
帝国と王国の戦いは避けられない物となっていたので、教会はロロットを……、いや、ロロットの体を使い王国の仕官から情報を得、仕官を意のままに操る事にしたのだ。
ロロットは最初拒否をしたのだが、言う事を聞けばこれまで通り母親に薬を渡す、言い換えれば言う事を聞かなければ薬は渡さないと言う脅しに負け、渋々王国に行く事を決断する。
後で分かった事だが、その頃新しく若い女性が教会に保護され、ルトラースはその女性をロロットの代わりとしたのだ。
そんな事を知らないロロットは教会にいる時に覚えた治癒魔法を利用し、王国内部に潜入し、その体を使って情報を集め、教会に報告していた。
そして少し前に送った書簡でトゥユの事を記載すると、教会はトゥユの暗殺を何度も催促してきた。
ロロットとしては少々強い、変な仮面を持った少女としか思えなかったのだが、教会の指示には逆らえないのでダビィを篭絡したのだ。
服を着終わったロロットは建物を出るとゆっくりと歩き出し空を見上げる。
「誰か助けて……」
月星教の教徒であるが、ロロットは月に居る神と言われる者から一度も奇跡を起こしてもらった事はない。
だからロロットは今の状況を脱するために神に祈る事はなかった。夜風がロロットの火照った体を冷やし、流した涙を攫って行く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
トゥユがウルルルさんに乗って今日向かうグロック村に向けて出発を待っていると、ダビィから今日は徒歩で行くと命令があった。
トゥユは渋々命令に従いウルルルさんを厩舎に戻すと小走りで集合場所に戻って来た。
ダビィが今日の作戦を説明するが、昨日の作戦と同じで、トゥユ隊が革命軍がグロック村から出て来た所を襲撃し、ダビィ隊が挟撃を仕掛けるという物だった。
ただ、一点だけ昨日と違うのはトゥユがダビィの隊に配属された事だった。
トゥユは自分の部隊の指揮をソフィアに任せ、ダビィの隊の一員として現地に向かう。
その道中、トゥユはダビィの隊の中央に配置され、周りには兵が何食わぬ顔で逃げられないような配置を取っていた。
『トゥユよ、これは明らかに何かあるな』
──こんなあからさまに行動してバレないと思っているのかな?
周りの兵に気付かれないように見渡すが、トゥユを逃がさないと言う雰囲気が
『部隊としては凡そ百人位は居るか。これを一人で相手するとなると結構骨だぞ』
──ソフィアやティートには言ってあるからすぐに駆けつけてくれるとは思うけど、それまでは一人で何とかしないとね。
百対一の状況にもトゥユは全く慌てる様子はない。昨日のダビィの隊の練度を見る限り何とかなると思っているからだ。
実際、緊張しているのはトゥユの方ではなく、ダビィの部隊の兵たちの方だった。
これだけの人数が居ればたった一人を倒すのは問題ないのだが、下手な反撃を食らって怪我をしたくない。その想いが兵たちの体を硬くしている。
グロック村に到着した部隊は予定通り革命軍が来るであろう村の入り口の反対側にある丘に身を隠す。
太陽が沈み始め空が青から赤みがかった色に変わる頃、革命軍がグロック村に現れる。
革命軍がグロック村から出た所でソフィアが合図をし、隊旗が掲げられトゥユ隊が一斉に革命軍に向かって攻撃を仕掛ける。
その動きに呼応し、トゥユが飛び出そうとした所で予想通りダビィの部隊に行動を阻まれる。
トゥユを中心に二重に人の輪が形成された中ダビィが姿を現す。
「いきなりの事で驚いているようだが、君にはここで死んでもらおうと思ってね」
トゥユが気付いていないと思っているダビィが嘲笑する。
余りの滑稽さにトゥユは何と言って良いのか分からない。トゥユは既に仮面を着けているので言葉だけで驚いているのを表現する。
「わー。驚いたわ。どうしましょう困ったわ」
ダビィはトゥユが驚いて棒読みのようになったのだと思い、満足そうに頷く。
「そうだろう、そうだろう。驚くのも無理はない。だが、君はここで死ぬのだ」
演技をするのも馬鹿らしくなったトゥユは普通の口調に戻す。
「そう、私はここで死ぬのね。じゃあ最後にどうして私を殺そうとしたのか教えてくれるかしら?」
「ハハハッ、私は口が堅いのでね、誰から依頼があったかは言わないよ」
自分がヒントを言ってしまっている事にさえ気づいていないダビィを見て、トゥユは仮面の中で溜息を吐く。
「私はとても優秀な上官の元に付いてしまったらしいわね。貴方にはまだ聞きたい事が有るけど、まずは周りにいる邪魔者を何とかしましょうか」
「この人数に勝てるつもりでも? まあ、良い、お前たち! 奴の首を上げた者は褒賞を出す! 稼ぎ時だ行け!!」
周りにいた兵は自分が怪我をするのを恐れていたが、賞金が出ると聞いて一気にやる気が出て来る。
「お前等、抜け駆けはなしだぞ、『せーの!』で行くからな」
比較的立場が上の者だろうか、その男の提案に周りの兵が一斉に頷くと合図を待つ。
「せーの!」
その合図に合わせ兵が一気にトゥユに殺到する。
耳掃除をしていたトゥユはやっと来たかと準備を始め、戦斧の刺先を地面に突き刺すと戦斧を利用して上に大きくジャンプする。
トゥユの元に殺到した兵は急にいなくなったトゥユに止まる事ができず、トゥユが元居た場所でおしくらまんじゅう状態で身動きが取れなくなった。
そこを狙いトゥユは戦斧を薙ぐと一気に死体の山を作り出す。
優勢だった戦況が一気に反転し逃げ出す者、まだ向かって来る者と兵の統率が全く取れていない状況になった。
逃げ出す者は取り合えず放置し、向かって来る者だけ相手にするのだが、トゥユに一太刀を浴びせる兵などダビィの部隊には一人も居ない。
『時間の無駄だな。この程度の練度で我らに向かって来るなど、愚の骨頂』
「本当にそうだね。なんでこんな事考えたのか意味が分からないわ」
百名近くいた兵も半分程になり、ティートたちが革命軍を壊滅させた後、こちらに向かってやって来る。
人数的にはこれでやっと同じ位なのだが、部隊の士気が全く違い、ダビィの部隊の兵は蜘蛛の子を散らすように逃げ出し始めた。
逃げ出す兵にぶつかり尻もちをついたダビィの目の前にトゥユが立つ。尻もちをついているためかダビィはトゥユが山のように大きく見えた。
ティートは逃げ出した兵を武装解除して連れてくる。反抗した者はそのまま切り捨てたが、降伏した者は一応味方なので生きたままだ。
「トゥユよ、言われた通り降伏した者は生きたまま連れてきたが、殺してしまっても良かったのではないか?」
捕まった兵たちの肩がピクリと動く。目の前にはさっきまで味方だった者の死体が山を作っているのだから仕方がない。
「一応味方だからね。私の部下には要らないけど、何か役に立つ事が有るんじゃないかな」
自分たちの処遇に緊張していた兵たちは安堵の表情を浮かべる。生殺与奪を持っている者の会話に気が気でないのだ。
そんな中でもダビィだけは緊張が解ける事はなかった。それもそのはず、ダビィの首には戦斧があり、首の皮一枚切ったところで止まった刃から血が流れている。
「だいぶ暗くなって来ちゃったから城塞に戻ってからお話を聞こうかな」
空を見上げると赤みががっていた空がいつの間にか黒に変わっており、一番星が煌めき始めている。
ダビィだけは持っていた縄で後ろ手に縛りその縄をティートが持って帰路に着く。ティートには逃げ出したら自由にして良いと言い含めると犬歯を出して喜んだ。
戻る途中、ティートは態とダビィが逃げ出すように乱暴に扱っていたが、ダビィは逃げ出す気力もなく大人しくダレル城塞に向かって歩いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます