模擬戦 Ⅱ

「私がお前より弱いのは事実だろう。魔力量に任せて全力で挑まれたら恐らく封殺される。だがお前は初手で保険もかけずに様子見をしたね? 私だって表層世界で遊んできたわけじゃない。弱い私はそういう相手に全力を見舞ってきた。今の一手、そのままやっていたら確実に抜いていたよ」


 ああ、確かに指摘の通りだ。

 歴代最高だのと周囲の称賛や送り人の称号を受け継いだ事実。そしてずっと負け知らずでいた戦歴のために慢心した。


 自分は小手調べをできる身分なのだと傲慢になっていた事実にぞっとする。


「す、すみません! とんだ失礼を……!?」

「仕切り直しだ。あと、条件を少し変える。やはり手を抜くのはマズい。骨折はさせない程度に全力を出していこう」


 彼女は謝罪を受け取らずに距離を取り直すと、厳しい表情のままに構え直す。

 失礼に対して怒りを見せているのか、そういう振りなのかはわからない。はっきりとしているのはベネッタからは本気の圧を感じることだ。


 きっとこの仕切り直しはこちらのためを思ってだろう。


「いいか、ミコト。私は多少怒っている。今は謝罪に耳を貸す気もない。そういう相手はどうすればいいかは教えたね?」

「はっ、はいっ! 全力で叩き潰して、まずは話の席に着かせます」

「そういうことだ。手を抜かず、私を止めてみせろ」


 無駄遣いをしないように適宜魔力を放出、移動させて結界にするのではない。常に全力で魔力を放出し、命令を与えれば即座に高質化する運用でなければついていくのは不可能だ。

 こちらもバックステップで距離を取る。


 二度はない。

 汚名返上するならばベネッタに見せるべきは本気だ。


 竜の大地は自分に任された。

 それと並び立ち、家族のために働こうとベネッタは努力しているのだ。

 こちらも対等であろうとしなければ意味がない。


二十柱、投擲メテオ!」

 

 間合いを簡単に許すこと自体、甘く見る行為だ。

 消耗は大きくなるが、短文詠唱で空中に結界を形成し、ベネッタに向かって射出する。


 見えない砲弾が次々と地面に突き刺さる状況ながらも彼女は拳で反らし、あるいは左右に回避して間合いを詰めてきた。


「はぁっ!」


 迎撃を掻い潜ってきたのは見事である。

 ベネッタは先程と同じ構図で右拳を突き出してきた。

 けれども問題ない。距離が近ければ近いほど、結界を張るのも容易となる。瞬間的に高密度の結界を生成することも可能だ。


 ガキッ! と先程とは明らかに異なる激突音。

 ベネッタの拳は障壁によって受け止められていた。今度は及第点。そういう意味の表れか、彼女の口元は小さく緩んでいる。


 しかし、これで終わりではない。

 間合いに踏み込まれたのではなく、誘い込んだという証明くらいはするつもりだ。


前面、拘束ブロック!」


 上腕と胸を巻き込む形で障壁を発生させ、自由を奪おうと力を発現させる。

 少しでも居ついていれば、十分に拘束できた間だっただろう。けれどもベネッタは残心を怠っていなかった。

 伏せて躱した彼女は回し蹴りによって追撃をしてくる。


(もう受け止める必要はない。わざと受けて距離を取る!)


 結界は単に強固な壁を作り出すだけでなく、その座標に固定して受け止めることと単に壁として出現させるだけで固定しない場合もある。

 ミコトは受け止めた衝撃をバックステップ代わりに利用し、杖を上空に掲げた。


「前方四十柱、投擲!」


 先程より魔力操作に余裕が出た分、数と投擲速度を増して攻撃を放つ。

 それでもなおベネッタは捌いており――より白熱した戦いを交わすのだった。

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