老婆心
当代の送り人と竜が飛び立つ姿を見送ったアルヴィンはベネッタに目を向ける。
隠居じみている自分はともかく、彼女としては非常に複雑な心境で見つめていたことだろう。固い言葉遣いの通り、彼女は非常に不器用なのだ。
「ベネちゃん、張り合う気持ちを持つと辛いですよ」
「いえ、これは……。その……」
繰り返すが、彼女は不器用だ。
口下手なだけではない。楽になれる気の持ちようもあるだろうに、それを自分で用意できないのだ。
辛いことを身に抱えてもなお突き進もうとする――そんな気性は細かな傷をこさえているその身にも表れている。
そんなところを見ると先達としてはどうしても老婆心が芽生えてしまう。
「ミコっちゃんは古今東西の送り人と比しても最強格ですよ。個人の素質も高ければ、縁者も神代の〈貴種〉。おまけにそれぞれの技能も噛み合っている。比肩できるものではありません」
「……」
ベネッタは何かを言おうとして押し黙る。
これで終わらせては余計な痛みを抱えさせただけだというのは経験でよくわかっている。相棒のコーティが太い木の枝を拾い、手の平でべしべしとやっていることからも次の一言は重要だ。
「先ほどと同じ話をあなたにも尋ねしょう。たとえ弱いとして、竜と心を通わそうとする里人のような存在は無用だと思いますか?」
「いえ、そうは思いません。助けにはなります」
個人では及ばないとしても手助けはできる。それこそよく慕われているベネッタであればミコトにとっては大きな拠り所にもなるのだ。
そういった重要性については彼女も理解している様子ではある。
けれども言葉に出来ない何かがまだ心に引っかかっているようだ。
アルヴィンは口元を引きつらせてコーティに目をやる。
すでに棒をたしたしするのをやめていた。こちらが抱える竜の卵をそっと受け取ると、木の棒でごすりと一撃。はたき倒されてしまった。
するとグウィバーが大きく息を吐く。
「アルヴィンよ。ベネッタは我が御子故な、あとは引き継ごう」
「それは助かります。おっと。ベネちゃん、僕から最後に少々」
地面に転がったまま平然と話していると呆れじみた空気さえ漂ってくるのだが、それくらいの方が空気の入れ替えとなってちょうどいいだろう。
悩み多そうなベネッタの顔を見上げる。
「あなたはミコっちゃんと一度盛大に喧嘩した方が息をしやすくなると思います」
「……! 意味ありげに呟きますね。何か他意があるんですか?」
「ふふ。僕は隠居の身なので手出しは――あたた。まだお話の途中ですがー」
会話の途中ではあるが、コーティは足を掴むとずりずり引きずって藪の中に進んでいく。何かを気取った様子のベネッタとも引き剥がされてしまった。
「言い過ぎ。あの子たちの問題はあの子たちで解決すべき」
「そうですね。僕としても心配ですが、少なくとも彼女らが自分たちで解決したと思えるように立ち回らないとなりませんか。しばし静観するしかないですね」
当面はできることもないだろう。そう思って呟き、不愛想なコーティの顔を見つめる。
「睦言でも交わして待つとしましょう。いいですか?」
「たくさん囁いて」
二人で密かに言葉を交わしながら森に消えるのだった。
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