(3)9月18日
水害1週間目の朝、いつものように泥を落とした自転車で市役所に行こうとした。
雨が降っている。仕方なしに、たった一本残ったビニール傘をさして、長靴、リュック、タオルを首にかけたいつもの格好で歩き出した。
おにぎり1個、水2本、菓子パン1つをいただいた。市役所の柱に
”顔晴ろう! 顔晴ろう! J市!!” の張り紙を見つけた。声に出して読んでみた。涙が溢れて止まらない。初めて出た涙だった。
帰り道、各家々の前には 山と積まれた混材の袋、冷蔵庫、テレビ、たんす、衣類、布団。まさに昨日までそれらのもので、穏やかな生活をしていたであろう形跡が感じられる。しかし今、見る影もなく雨に打たれ、泥にまみれ、ゴミ袋に詰め込まれている。
そのゴミ袋を誰もが”ガレキ”と言う。決してそう言ってほしくない。 そこには、穏やかな生活があり、暖かな愛があった。
泥にまみれてしまった生活、財産、思い出。そして、それを見ながら辛うじて家の形を保っている”すみか”に帰ろうとしている私は難民コスチュウム。
もう笑うしかなかった。市役所からの帰り道300メートル。もう笑うしかなかった。無意識に涙がこぼれてきた。
捨てるほどあった雨傘。少しやせればはけそうな気がして捨てられずにいたGパン。セーター、コート、キャンプ用品、お正月の羽子板飾り、等々全部泥にまみれた。たった1本残った傘を大切に使おう。なんだか、普通に似合っている長靴が嬉しいような悲しいような。
今日も、お気に入りの長靴で顔晴ろう!!
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