(1)2015年9月11日
(1)2015年9月11日
未明4時。愛犬のヨーキーが、玄関に向かってさ
かんに吠えている。
”こんなに朝早く嫌だな、怖いな、誰かいるのかな?”
おそるおそる玄関の方をのぞいた。そういえば、昨日の雨は相当ひどい
振り方だったし、近くのまあまあ大きめの堀の水位もずいぶん上がっていたなと、
頭の片隅で思い出しながらも、それでもまだぼんやりとしていた。
玄関のタイルの上で、水がピチャピチャと音を立てている。
”えー! 何の水? どこから来たの?”
水深は、3cmくらい。どういう事なのか全くと言っていいほど理解ができて
いない。とにかく、家中の電気をつけた。停電はしていなかった。外を見ると、
茶色の濁流。玄関先も、庭も、前面の道路も。 車庫に通じるドアを開
けた。
車庫の中は、もう水が満水状態。スいトックしてあったものが、プカプカういているし、いろいろなものが倒れていて入って行くことが出来ない状態になっていた。近くの友人に携帯電話をかけた。まだ4時だという多少のためらいがあったが、友人はすぐに応答した。
"どうなの、そちらは?” 聞くより早く、
"家はもう、昨夜のうちから2メートル位浸水している。今二階にいるよ。家はもうあきらめた” と言った。
(彼女達夫婦は、翌日自衛隊の船に救助された。)
私は急いで、二匹の犬たちをベランダの上で、おしっこをさせようとした。水が大好きなラブラドールは、いつものように芝の上でしたかったらしく、濁った水の中に飛び込もうとしていた。そんなことをしたら今の彼女の体力では流されてしまう。二匹ともとにかくベランダの上で用をさせた。
運よく、木製ベランダすれすれの水深だった。けれど、後から気ずいたのだが、実は浮いた状態だった。
そして、急いで二階に二匹を持ち上げた。あいにく、同居している家族は遠方に旅行中だった。私一人では、二階に運ぶことが出来るものは限られている。
ストックしておいた水や非常食、犬たちの食べ物、私のとりあえずの着替え。一階にある家具や家財類は少しでも高いところに乗せた。
そんな事をしている間に、外が明るくなってきた。
二階から見える景色は、すべて茶色の濁流と化していた。大雨が降った時はいつも、家の前面の道路は、左から右に川のように流れていた。それが今日は、右か右左に流れている。すごく不思議な感じがした。
昨夜の内に、家族からのアドバイスがあり、停電断水しても良い
ように少しの準備をしておいた。バスタブに水を満水にしておいた。そのバスタブを見て驚いた。すべて泥水になっていた。下水が逆流したのか、よく解らなかった。そうなると、トイレはどうなる、一気に生活の不安が押し寄せてきた。
車は? きずいて外を見た時にはもう、フロントガラスのところまで水没していた。愕然とした。
一階の床の隙間、障子の敷居、サッシのレール、ありとあらゆる所から、水がじわじわと入ってくる。怖さを感じた。
門の外には、何処から流れてきたのか、冷蔵庫が門扉に引っかかっている。このときは、本当に申し訳ないと思いつつひざ上まで泥水に浸かりながら、道路まで押し出した。冷蔵庫も、大きなゴミ箱もプカプカと又流されて行った。
自宅の裏の方に、木工所さんがある。その会社からだと思うが、1メートル位の板が大量に流れてくる。フェンスに引っかかったり流れて行ったり、全部集めたら小さい家一軒位建ちそうな量で、とにかく、あらゆるものが流れてくる。
私の寝室は,一階にあったので、もちろんベッドも、タンスも全部水没した。その時点で床上30センチになっていた。
正直、それからの3~4日間は、あまり覚えていない。片付けに夢中に過ごしていたのだと思う。家の中の泥水を掃出し、水に浸かってしまったものを外に出し、本当にどの様に動いていたのか思い出せない。ただ、何人もの方たちの厚意に感謝したことはよく、覚えてはいるのだが。
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