♭307:光を、かーい(あるいは、ダメ息の/花だけ束ねた/風景)
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カワミナミくんとの鮮やかアンド艶やかな饗宴は、倒れ伏した黒服たちの背中が、フィールドに緑と黒の市松模様を描き出したところでフィナーレとなっていた。いや、あの執事くんも流石の体裁きだったわ。棒術……それにもはっと見惚れさせられたけど。
そんな中、
会場を、埋め尽くすのは沈黙。それに縒り合されるようにして、大勢の人間の息遣い。そんな中で少年くんの、ただ声帯が震えて出されたかのような音声は、言葉は、
「……」
ずわと広がり沁み込んで。私ら「ダメ人間」の、心的な部分に否応なくえぐり込まれてきて。その上で内部までごっつり嵌まって鍵穴を捻じり込むようにして周りを大概にひしゃげさせながらも。ぴっちりと同化するように自然に融合されてった、気がした。
あたかも、閉じ切って鈍くなった心を、無理やりに噴射させられるような、そんな
「自分」と「自分以外」。結局はそんな風な物差ししか、私ら業の深い生命体は持ち合わせてはいないんだろう。そこんとこの境界は、愛やら思いやりやらで滲ませぼかすことは出来るのだろうけれど、決して無くすことは出来ない。私らは今日も「自分以外」を喰らって「自分」を永らえさせている。それでも。
自分でありたいのだろう……世界の中での自分、望む自分……「世界」には愛すべき対象もいて。それが例え遺伝子にプログラムされた本能が為すものだとしても、果敢ない電気信号の繰り出す指令なのだとしても。
自分の、模糊モコしたこの大脳で考えている考えさせられている諸々よしなし事の全ては、自分の意識が生み出したものと信じたい。自分の意思で動いていると信じて、
自分の全部を呑み込んで、自分を発散していきたい。自分以外、「世界」へ。
ミズ「またほら!! 達観決め込んでるけど、その実それ曇りのない前振りだよねってことがさぁ、全っ然、消臭しきれていないのだよ!? ダメだよ、君らはもうほんとダメだ!! もうどうせ結末は知れ切ってるから言うよ言っちゃうよ、少しはボクのような『華麗なる構成』を見習ってだね、何かもう収束してく先が透けちゃうようなのはやめなよぁぅッ!! こ、こんな、こんなん誰が期待してるというんだねッ!? 馬鹿かもうバカァッ!!」
ワカ「……今までいろいろな
ミズ「ど、どう考えても強引に過ぎる説明を、ま、まるでこちらに非があるかのように厳然と突きつけられているよどういうことなんだろう……凄えよ、凄えがぶり寄り方だよ……なまじのサイコを軽く
ワカ「世界は流れる。その流れを浴びながら翻弄されながら、腰を落としてそこから何かを漉しとるが『自分』よぉぉぉ……自分の人生よぉぉぉぉおおおおおッ!!」
ミズ「来たきたぁッ!! 決してこちらの言い分は聞いてない、その上で来てはいけない波濤が、ボクをカッ攫いにやって来たよう!! 逆に問うッ!! 僕の人権って、なにッ!!」
あれ。様式に限りなく忠実にそれを遂行しようとしていた私の肩に、少し湿ったような感触が。振り向くと姫様。顔色尋常じゃないくらい悪いけどだいじょうぶ?
<……あくまで、ルールには沿いたい。その上での勝利、その上での賞金>
翻訳音声が告げて来たのは、嗚呼、忘れてたごめんね。おばば様を助けるための資金繰りだったよね、そうだよ、そこまでの大義があったじゃあないの。なら。
「ハツマと少年くん、とりあえずの決着は、頼まぁ」
割と私も力が抜けてきたな。でもそんな私の言葉を食い気味で、馬上の二人は同じような薄ら笑いを浮かべて重々しく頷いてくれる。
「カネなら進呈するッ!! 『十億』ッ!! キミらにとっては途方もない額ではないカネッ!? さあそしてもう私はこの物騒な騎馬から降りてしまおうッ、そうすれば一切この不毛な仕置きを受ける正当な理由は無いはずだぁ……あれ? お前ら私を降ろしなされ?」
謎のマンが必死でその騎馬からむずがるように降りようとしてるけど。それを無言のまましかしうまく力をいなしつつ、哀れな壮年を馬上に留まらせておる下の四人……うん、もう買収とかも終了しているんだね……
まあ、私はおこぼれに預かれれば今回は良しとすんべぇかねぇ~と、ぐる、と凝り固まった首を回しながらひとまずの静観の構えに入るけど。
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