♬305:必備で候かーいですけど(あるいは、業が輝く/GoToファイナルカオス)
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混沌が、始まった。否、かくも激しき「戦闘」が。
もはや「騎馬戦」の体などはほぼ保っておらず、めいめいがよく分からぬ狂騒感のようなものに操られるようにして、そこかしこでくんずほずれつの格闘……というのもおこがましいほどの熱にうかされたような揉み合いの如きものが繰り広げられていた。
「……!!」
しかして私は、その彼我入り乱れての、何と言うかの集団肉弾戦に加わること出来ずに、長方形のフィールドの自陣後方外側へと退いている。
他ならぬ姫様が、おそらくは今日いちにちの疲労の蓄積であろう、蒼白なる御顔にてその華奢なる御身を先ほどより震わせていたからであり。
涼やかにお立ちになっていた御姿がしかし、先ほどより断続的に右へ左へ傾いでいたのを私は視認していた。慌てて駆け寄った私の腕が、すんでで倒れ込もうとしていたその御身体を何とか抱き留めることが出来たのは僥倖と言えるが。しかし。
「……ジロー、お前も加勢せよ……わらわは此処に捨て置きて、行け」
触って分かるほどの熱の持ちようだ。消耗した御身に何がしかの異状が起こらん事、さなるは当然なりし事であろう……それを予期せずに諸々を強いてきた、私は愚昧に過ぎる。
「……おばば様を救うがため、救うがために為せ、ジローネット」
そして聡明なるこの御方は、大勢を見誤ってはおらぬ。これが器というものであろう。急速に肚の底から熱を持った力が湧き流れる感覚を受け取る。
「……」
懐に収めていた我が「得物」を再び取り出す。我は手駒、我は道具。
▲
へいへいへいへい……混沌やーん。
……御得意様やーん。
青息吐息の主任のひび割れてさらに何か所かがぱっくり切れていて喋るだけで見た目相当痛そうな(下手人が言うのもなんだけど)唇から、「爆弾は仕掛けられていない」との旨を小声にて受け取った私。
やっぱり……という安堵感と、そこまでも逡巡に捉われていた主任の思いとかを考えちゃうと、どうともなんとも、いろいろ吹き出してきそうな予感がしたので最後に、うん、もうこれで最後だろうとの諸々の残滓にも決別るためにも、ぐにゃりとしてきたその細い体躯にしがみつくようにして抱擁をカマし、のち吹っ切るように勢いよく突き放すけど、思てたより消耗していたその痩せた身体は受け身も何もなく、すどんと人工芝に後頭部から落ちていくのであり。
「……」
とどめを刺してしまった感否めない状況であったけど、先ほどよりのこの混乱に乗じ、私の「騎馬」を形成してくれていた御三方……三者三様に私を怖れの表情で見やってくるカワミナミくん、オーリューさん、ユズランにオラ、とその痩体を手渡し、フィールド中ほどへと向き直る。「爆弾」のことはまだ私の胸の内にしまっておこう……決着は絶対、つけてくれると信じているから。
視界に入ったのは、少年くんの騎馬とハツマの騎馬。ふたつとも不気味なほど凪いだ歩様にて、一直線に「謎のマン」騎へと向かっておる……
一応、ルールには則ろうっていうんだね……それで「十億」をもかっさらおうって魂胆なんだね……凄いよね、やっぱりアンタらがたは凄いよ、どえらい「ダメ」だよ……
とは言え。
私も負けてはいられない。随分とよぉぉぉぉ、振り回してく れ た よ な ……?
何もしていないはずの私の周囲のモブい黒服たちが、一様に一歩下がり人波が割れていく。雑魚は任せてもらおうか……と、
「……多勢を前にしての共闘。水窪、それは一度やってみたかった」
隣に気配が並ぶ。見なくても分かる、カワミナミ師匠……そうだね、最初出逢って、いきなりキックの撃ち方とか叩き込まれたりしたよね……なつかしいわ。なつかしい。
衰えたかも知れないけど、今のテンションはなまなかじゃあない。ええのん見せられると思うけ↑ど→。
ぼぼぼ、と私の周囲に
「……」
一瞬だけ、右隣の何ともワルそうな表情を形づくった美麗な顔に、こちらもひねくりまくった顔面を突き合わせて、
「……!!」
一気に磁力で反発するかのように、左右に分かれていく。
●
ムロ「……『ダメ人間ノ……ダメ人間ニヨル……ダメ人間ノタメノ祭典……』」
ハツ「『ソレガ……ソレコソガ……』」
ムロハツ「らーらーらー、あー↑あー↓♪ ソーレコーソガー♪ (一拍) ダーメーにーんげーへぇーんー♪ こーんてーすとぉぁー♪」
ミズ「あるぇえええええええッ!? 何か左右から静謐さをも伴ってがらんどうの無表情ですすと接近してくるのも相当にアレだけど、さらに何か讃美歌調に歌い出しそしてハモり始めたッ!! 一点ものの根源恐怖が……私の脊髄を先ほどから貫かんばかりに発散されていてそしてその終点を狙とることも既に把握を終えている極大混沌状態……」
ムロ「ダメは……
ハツ「また、皆と共に」
ミズ「唱和
ハツ「ムロトによる福音」
ムロ「……ダメに、栄光あれ」
終末の、幕が上がる。
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