#286:清廉で候(あるいは、獣字/兇/回収するときそれは今)
場は混戦/混沌模様を呈して来ていた。彼我入り乱れての接近戦。単純な戦力比較をすれば「六騎」同士の互角ではあるが否、彼の方の手にした「得物」により、形勢は一挙に傾きつつある。我々にとって不利なる方へ。
「……ちょっ、動くな、って、言……言ってんでしょ……っ!!」
図らずも落下を免れるため「肩車」の態勢へとなってしまった姫様と私であったが、その叱咤の声はもっともではあるものの、迫りくる「棒」から逃れるためには致し方ないことであり。いやそれより何より徐々に私の首まわりを囲むその御太腿が、くっと締まり、私の頸の動脈を容赦なく、その熱を内包したる柔らかき感触を与えながらも圧迫していくのであって。
立ち込める甘きかぐわしき芳香と共に、耳朶を打つ子猫が
限界が近い……それはこの戦局ののっぴきならなさと、我が身に起こりたるこの甘露的揺さぶりの双方に言えることなのであるが。
薄れていく意識に鞭打って渾身の力にて身体を捻り、折り曲げ、跳躍し、急転しつつ敵の棒撃を躱していく。らめぇ……との姫様の弱々しくなってきた頭上からの声が気がかりでならぬが、今はそれよりも。
「……!!」
この瞬間も、味方の騎馬が、目の前でひとつまたひとつと、斃されていくのを、何も出来ずに見送るしかない自分が不甲斐ない。<ハカゼイン>騎、および<シマタイサ>騎が、騎馬がほどけるようにして地面へと崩れていく……
我々を入れて、こちらは残り四騎。こうなってしまうともう陣形も戦略戦術もほぼ意味を為さぬ……くっ……ここで力尽きるわけにはいかぬと言うのに……
おばば様の飄々としたる笑顔が我が脳裡に甦る。
かなる御仁を、喪うわけにはならぬ。姫様の熱にうかされし頭の、底が急速に冷えてきた。
―ジロー。
モクの柔らかなる声が甦る。
彼女の悲しみたる姿も、また、見たくはない。そう、薄れかける意識の中で思い出したることがあった。懐に手をやる。そこに収まれしは、四本の「棒」。そうであった。
……私も丸腰では無かった。そう認識した途端、我に強撃の神が舞い降りる。
「ッん、KYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOMッッ」
次の瞬間、放たれしは、「獣」のごたる、我が丹田からの、気合いの雄叫びであったわけで。凶なる……兇なる、我が心の奥底に住まいし「獣」……それを今、解放させる。
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