#287:四肢で候(あるいは、御方も濡れそぼる/街角スタイナー)
脊髄の全てから、その「声」は発せられたように感じられた。瞬間、私が私で無くなっていくかのような、何とも頼りなく、反面、ひどく高揚していくような感覚に全身が支配されていく……
「……」
次の瞬間、私は履いていた革靴を双方蹴り飛ばし脱ぐ。無論それを牽制として、しつこく我が騎の周囲を絶妙な距離を保ち廻っていたサイノとシンクダンの顔面向けるのは忘れずに。めんどくさそうに「棒」で払われただけであったが、瞬の時間は稼げた。その隙に私は片方の足指でもう片方の靴下を脱がせる動作を二度行い、裸足となって
人工芝なるもののさらりしゅらりとした感触が足裏に伝わってくる。人工であるものの、自らの身体が地と接し繋がっているような感覚……祖国への郷愁の如き思いも自然沸き上がってはくるものの、今はそのような時では無い。しかし、確実に、息吹のごたる力は我が萎えし全身に清流となって行き渡った。
なにもかんがえるな、ジョシュア=ジローネットよ。
私はただ、姫様の前にはだかる敵を打ち伏せるためのみに存在すると、芯に銘ずるのだ。手駒に過ぎぬ己が何を考えても詮無いこと。私はただ……
ただ王家のために。かけがえなき人たちのために。
森羅よ、我に力を。
「……」
懐から抜き出した四本の「棒」……指の股に収まるほどの太さのカクラマ
両の手にそれぞれ二本ずつ、小指薬指間と、中指人差指間に一本ずつを挟み込む。モクの手によって手入れが為されていたのであろう。しっとりと濡れたようなその表面は、私の肌に馴染みしかと保持される。そのまま私は身体の前面で両腕を交差させる。
「!!」
不穏な空気を感じたのだろうか、もはや手負いの獣を仕留めるような雰囲気を醸し出しながら我が様子を窺っていたサイノ騎とシンクダン騎が二歩三歩と間合いを広げた。構わず私は交差を解くようにして両腕を思い切り振り広げる。
「……!!」
その勢いで「竿」は内部に仕込まれていたその入れ子構造を展開していく。すなわち細く、長く、伸びていく。思わぬその長さに面食らったのであろうか、否、実際にその騎馬下の者の顔面を掠り、切っ先は繊細な
「ふん、随分と長尺のようだが……手指で扱うにはいささか自由の利かなそうな得物だぁ……それに近距離まで接近してしまえば逆にその長さが仇となる……」
シンクダンは余裕の様子でゴザル。しかして今なる動作は単なる準備のためのものでゴザルよ?
「……姫様、手綱はお任せしますぞ」
そう言い置き、私は「戦闘準備」の態勢へと移行し始めるが、我が頭上の姫様は、ふ、ふぇ? きゅ、急制動はもう駄目だかんねっ、なる普段とは異なる感じでの濡れたような御声を発せられるものの、切迫しているゆえ、しばしの無体をお許しになられよでゴザル。
あ何かいやな予感……とのまたしてもらしからぬ言葉が降り落ちて来るものの。私は構わず手にした四本の「竿」のうちそれぞれ両の手から一本ずつ、足へ渡し持ち替える。次の瞬間、
「ふ、ふみゃあああああああああんッ」
姫様の
「これぞ人馬一体ッ!! とくと御覧じろぉぉぉぉぉッ!! でゴザルッ!!」
周りの騎馬を見下ろすほどの高度。仰向けの我が体は、四本の「竿」を手脚のように生やし、ともすれば空中に浮いているように見えるであろう……そう、これこそが我が策。「コムラホパス流棒殺法」の真髄を……その身体に刻み付けてやるでゴザルよ……
摩訶不思議な力と人格が沸き上がってきた……我が首に跨りたる姫様を股下より拝す。その御顔はこの勇猛たる態に高揚に火照っておられるようであり、その身体は小刻みに武者震いされているのを感じている。
「しゃ、喋るなぁッ!! し、震動が直に来ちゃうからぁッ!!」
しかして、姫様の御声は相も変わらず湿ったものを御含みのようでゴザル……な、
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