#285:双信で候(あるいは、消されたるは/ライセンシティー)
ガンフ殿、アオナギ殿、そして私で形作られた「騎馬」は……
「……ぐっ」
「スタンガン」という「棒」の一振り二振りにて、脆くも瓦解していくのであって。双方顔面に着撃されたようだ。その小山のような体躯と、痩せさばらえた枯木のような骨肉とが、ほぼ同時に硬直してのち前のめりに崩れ落ちていく……
申し訳程度に説明が為されていたが、「騎手」の身体のどこかが地面に接してしまえば失格となる……というような事が告げられていた。ルール無用のこの状況下で如何なものかと思えど。いや、「武器の使用は禁じられていない」そうだから、ルールには則っているとでも言うのか……
いや、そのようなことはどうでもいい。いま、ここでツブれるわけにはいかぬ。
「……!!」
足元を掬われるような態勢となった馬上の姫様。その御身体が大きく傾ぎ御左足から着地してしまいそうになっているのを、なぜかゆっくりと時間が進むように思えた視界の中、確認することは出来た。
考えている暇は無かった。私は大きく左足を踏み込みしっかりと地に杭打つようにして踏ん張ると、極限まで平伏したような姿勢より、ぐいと首を伸ばし、落下してくる姫様の御股の間に何とかねじ込んでいく……
「んんんんッー!!」
姫様の何故か切なげなる御声が響き渡る。すんでのところで、その御身体の落下は食い止められた。地面の直上まで迫っていたその御左足を自分の左手で受け止めると、渾身の力で背筋を伸ばしていく。
「ちょっ……!!」
姫様は困惑の声を上げなさるが、緊急事態である。他の二名が倒れた今、私ひとりが「馬」となり、姫様を支えるしかないのであるから……しかし。
「……」
視界は闇に包まれていた。これは不覚。姫様のお召しになられている「メイド服」なるものの長き裾が、私の顔面の前に垂れ下がり、視界を塞いでいるのか……いや、それもあれだが、この立ち込めるかぐわしき……甘いような柑橘のような、こちらの脳髄を揺さぶってくるにおいは何であろう……さらに私の頬を挟むようにして熱く震える、この世のものとは思えぬ柔らかさのしっとりとした質感……さらに首後ろに感じたる、それよりも熱を持って潤むかのような、何かが湧き出てくる泉のような、こちらを呑み込まんばかりの沼のような、そんな不可思議な触感……いかん、このままでは私も倒れてしまう。
「姫様、御無礼ッ!!」
仕方があるまい。不敬なるを承知で、私はその裾をぐいと頭上へとたくし上げる。途端に清浄なる空気が私の鼻腔から脳内へと送り込まれる。と、眼前にまで距離を詰めていたサイノの、ぞんざいに振りかぶった「棒」の一撃が正に頭上まで迫って来ていたことを悟る。
「!!」
咄嗟に後方へと、身を投げ出すようにして躱す。無論、肩に乗せたる姫様の身を最優先に。渾身の背筋にて何とか飛び退った場所で態勢をぐいと整えるものの、
「だ、だめっ……、きゅ、急に動いちゃだめ……なのぉっ」
頭上からは、姫様のそんな、聞いたことも無いような何となくの甘さを含んだかのような嬌声が漏れ降ってきている……そしてそれと共に私のうなじでは、ちゅくというような粘着感のある音が。
あ、
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