#284:捨身で候(あるいは、バルハーラ/トップ耐インシデント)
状況は、二転三転している。
「……」
つい先ほどまでは我が方に優位と、そこまで思わせるほどの戦局であったはず。しかして。
「……」
臆面も無く「武器」なるものを取りい出したる敵方……無法極まりないことこの上ないが、そう恨み言を連ねていても状況は改善はしない。把握し、それに対処するのみだ。
「スタンガン」。聞いたことはある。銃器の類いの規制が厳しいここ
火を見るよりも明らかであろう。目測でのその棒状のモノはおよそ指先から肘のあたりまでの長さはある。絡め取り流しいなせるのであればそれほどの脅威とはならないはずだが、問題は帯びた「電気」であろう。あの大柄なセンテンザン殿が一撃で身体の自由を奪われたように、遠目には認められた。すなわちアレに触れたが最後、問答無用で
基本接近戦の肉弾戦たるこの「騎馬戦」において、絶対的なアドバンテージ。これがあるからこそ、サイノはあのような余裕を保っていたということか……冷徹さは仲間を装いし時より感じていたが、敵に回すと厄介なことこの上ない。
などと、詮無い思いを巡らせている場合では無かった。
「はははははッ、いつぞやは世話になったッ!! 奇遇だねえ四人とも……さなればこの私がッ!! まとめて葬り去ってやることにしよう……」
この芝居がかった言葉遣い。お互い因縁はあるゆえに、こうして相まみえるということになったのであろうか……日本に向けて旅立った川越えののち、祖国の大動脈と言われし国道「エヅラナァ=ヘィロ」にて、姫様をかどわかそうとした、あの細身の長髪の青年……「シンクダン」が、手に携えた「棒」を上段に構えつつ、こちらの騎馬へと向かってくるのが確認できた。
「ガンフ殿、真っ向はまずい。向かって右側、奴の右手の『棒』よりなるべく距離を取って応対する」
私の、最善策というよりは苦肉としか思えぬ指示に、その巨体を軋ませながら、素早く迫るシンクダン騎の右側へと回り込むガンフ殿。奴の左側からぶちかましを掛けることが出来たのなら、彼の方の騎馬を形成する黒服共はそこまで体躯に恵まれていなさそうだ。蹴散らせるはず。
しかし、であった。
「安易だねえ、まったく。別にそれほど精密に扱わなくてもいいんだぁ、こんなものどちらの手でも振るえる」
シンクダンのねっとりとした言葉よりも速く、その右手から左手へと持ち変えられし「棒」が、無造作に振り下ろされてくる。
「ぐ、ふぬ……」
その切っ先は、我が騎の先頭を張っていたガンフ殿の顔面を掠めるようにして接触してくる。途端に起こる激しい衝撃。まずい……ッ!! 騎馬全体が、大きく揺れ、かしぐ。
「!!」
次の瞬間、返す刀が今度は私の鼻先へと迫って来ていた。ダメだ、避け切れぬ……ッ
「あぶねえッ」
その瞬間、私の左にいたアオナギ殿の濁った声が響いた。そしてその骨ばった身体が私の前に立ちはだかるようにして投げ出され、その長い顎が下からの「棒」に跳ね上げられる様を、私は固まった思考のまま、ただただ視認していたわけであって。
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