#276:閾値で候(あるいは、羅列シークエンス/誰そ彼)


<『着手ボタン』は各陣地中央にひとつずつ、そしてフィールドの中央部にひとつの計三つ設置されている。繰り返すが、それを『押し込んでいる間だけ、DEPが放てる』。ただし各々最初の『持ち時間』はゼロだ。この時点ではDEPを放つことは出来ない。それを増やすためには……>


 長々とサイノの「細則」とやらは続いている。単純に馬上の者を地上へと落とせば良いと認識していた私だが……何かがまだありそうである。


<……中央を割る白線センターラインが確認できるな? 『相手陣地内に自分の騎馬が侵入している時間』分、『持ち時間』が加算されていく。そしてそれは今各自に装着してもらっている『威力鏡スカウトォアー』に随時情報として表示されていく>


 なるほど、というほど納得なるほど感はそもそもの根源からして無いのだが、それでも言われるがままに場に引かれた彼我を分かつラインを視認し、いま白服の手により自らの左の耳輪に掛けられし、片眼鏡モノクルらしき装置を指で触って確認する。瞬間、キュィイというような微かな音と共に、それは直角に自動で曲がると、私の左目の前に緑色のレンズのようなものを差し向けてくるのだが。


 明らかに遠近感の狂うそのようなモノの装着強要も、何らかの思惑によるものなのか……あるいは私も徐々に把握してきているこの「ダメ」という磁場における様式美的なものなのかも知れぬ……だが。


「……」


 片側:緑の視界には、さらに様々な情報がこの瞬間からも、もたらされて来ている……試みに姫様の後ろ姿に焦点を合わせてみると、その華奢でありながら完璧なラインを描くその輪郭に速やかに「光の輪郭」のようなものが外側から嵌まるかのように現れ、即座に状態ステータス開示オープンされてくる。流石は日本ジャポネスの科学力……


<No.7-1:アロナコ:161cm/48kg:B89(G)W57H84:アイカラー;ヘイズル:スキンカラー;アンバー:ヘアカラー;レイヴン:Uヘアカラー;ビスタ:エリオラカラー;ペールクリーム:ニポォカラー(ノーマル);パウダーピンク:ニポォカラー(エキサイト);フィエスタローズ:レビアマ……>


 数値の羅列は上から下へと流れるように消えていくので全てを読み取ることは出来なかったが、何か非常に重大なる情報が含まれていた気がして気が気でならぬ……しかして、


<シシザノキョウノウンセイハチュウキチ/ラッキーカラーハアオミガカッタヴァンダイクブラウン/オープンテラスノアルカフェデステキナデアイガアリソウ……>


 速すぎて読めぬ。そしてなぜ片仮名クワタカンナなのであろう……だが感覚でどうとでも良き情報へ移ったと感知した私は、その眩暈がするほどにせわしない情報から一旦視線を切るものの。


DEPデプ氣力ギリョク:12,398>


 最後に示されたその数値は、何故か気になり頭の中に貼り付くのであった。己のも確かめようと自分に焦点を合わせてみる。


<No.7-4:ジローネット:189cm/81kg:サイズ(平常時);12.2cm;サイズ(臨戦時);21.2cm:(太さ);スゴイ:(硬さ);超スゴイ:(瞬発力);半端ナイ:(持続力);鬼……>


 しかし何故か私のあまり読めぬ漢字クワンジーが混ざってきて分からぬ。言語を英語にでも切り替えることは出来ぬのかといろいろとその左耳の装置をいじくってみていると、唐突に<English>と表示が浮かび、アルファベットに文字が落ち着く。これならば私も姫様も分かるであろう。と、


「……」


 後ろを振り向いたその姫様と目が合う。と同時に、見るな、と冷たきも熱を孕んだ押し殺し声でそう制される。と思うや焦点が合ったのか、私の顔と股間あたりに交互に視線を走らせながら驚愕の面持ちになられると、21えぇ……鬼えぇ……のような掠れ声で呟くと、その御尊顔を火照らせるのであるが。いったい。


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