#275:破題で候(あるいは、ダウンビート/センシングいろは)
出場者がようやく出揃ったところで、我々は向こうの手の者たち……「白服」に両肘と両膝に軽く硬い樹脂で出来ていると思われる
<さて、さて、さて……これにて出馬者は締め切らせてもらおう……それでは細則を提示する>
サイノ、と申したこの一連の「首謀者」たる男が、不自然に思えるほどの凪いだ微笑みをもってそう告げて来る。会場に響き渡るは落ち着いた低音。肚の底を見せぬようこれまで振る舞ってきただろうこの飄々とした感じの男であるが……
何か、その底知れぬ奥底にて、何枚か「皮」のようなものを纏っているかのような、そのような印象を受ける……
この会場を「爆弾」とやらで爆破するだの、この珍妙なる「騎馬戦」にてそれを決定づけるなどと。どうにも浮世らしきものから離れたかのような感じである。
「……」
ともあれ、屈するわけにはいかぬ「戦い」……「騎馬戦」とやらは実は初めての私ではあるが、その組み方の基本的な説明は丁寧に画像として電光掲示板に映し出されている。
三位一体となり騎馬を為す。「前」の者は両腕を後ろに回し、「左」の者がその左手を自らの手指を絡ませ組み、「右」の者はその逆と。そして「前」の左肩に「左」の右手をかけ、「右」はその逆。「上」の者は、「左」の右腕と「右」の左腕を鞍の如きに跨ぎ、足を、組んだ手に鐙が如く掛ける。
なるほど、理にかなったような、そうでもないような、絶妙なる組み方である。下の者たちは両手を塞がれた状態であり、まさに「馬」。馬上の者も両脚と内股……不安定なる四点にて、己の身体を支えなければ、両の手は自由にならない。馬の三人ならず、馬上の者も、他と息をうまく合わせる必要があるのではないか……そう思わせられる。
<……騎馬の組み方はまあ普通と変わらないが、『勝敗』の付け方は少しひねらせてもらった。あくまで『ダメ』の一環で、ハツマ、お前を倒す必要が、私にはあるからだ>
サイノの説明らしき口上は続くが、やはりどこか芝居がかった様相……確執、なのか何だと言うのであろうか。見えない、この男は。
<……『上』に乗った者の身体のどこかが、この
随分ともったいぶった言いざまではあるが、従わぬわけにはいかぬ。私は改めて「場」を見渡す。そこには、
<……『DEP着手ボタン』だ。かなりの大ぶりだが、『馬』の者が足で押すのにはちょうどいいだろう……? それを押している間、DEPを放つことが出来るという寸法>
サイノがのたまう通り、長方形の短辺に彼我それぞれの騎馬が現在一列に並んでいるが、その真正面あたりにひとつ、確かに頭にかぶる
いまだその全容を見せぬこの「騎馬戦」……私としてはどこかに彼の者の企みし怪しき事がないかを見極めることしか出来ぬが。
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