♭277:甚句かーい(あるいは、ビザーリング/インフェルノイド)


 泣いてる場合じゃあない。


 カワミナミくんと言う、ダメ界においては砂の中のダイヤモンドほどに希少価値の高い、超絶・心強い面子のぶれない表情と相対したら、今までの理不尽な混沌に鼻下くらいまで漬けられていた寄る辺無き身に、その「まとも感」とでも言うべき清流がどばと鼻腔から体内に入って呑みくだせなかった分が、滂沱が如くに漏れ出てしまっていた。


 でも、ひとしきり吐き出して、収まったあとはいやになるくらいにクリアだ。


 家族を守るために、私は戦う。


 それだけの、シンプルなことだけを大脳の中心に柱のように据えておこう。カネとか姫様のおばあさまの事とか、そういったのは、敢えて自分の中ではシャットしておく。ブレない私を、ブレないまま、ただぶつけるだけだ。


 呼吸も平常時に戻って来ていた。もう一度大きく深呼吸をかますと、私は改めて横10m、縦20mくらいの、フィールドに目をやる。25mプールをひと回りくらい狭めたくらいの広さだろうか、そこに70人弱くらいの人間が騎馬を組んでお互いを落とし合うと。VRVRテーブルゲーム(みたいなの)で来ていた昨今の流れとは異なり、ガチの肉体での戦いとなるわけ……望むところだけど。でも、


 「騎馬戦」……とか言いつつ、本質はそこでは無さそうな感じ……主任……「サイノ」が目論んでいるのは、ハツマアヤとの、何だろう「落とし前」? であるのならば、とか思ってたら、やっぱり「DEP着手ボタン」なんてのが出て来たよやっぱりかよ……


 そして体に装着させられたる既視感のあるプロテクターと左目に付けられたゴーグル状のものを確認するに至り、これは至って普通(?)の「ダメ」であることを悟る。どうせこの両肘両膝に、DEP勝負で負けたら電流が流されると、そういうことなんだろう。もうそろそろこちとらにはお見通しだよ。


 騎馬数で劣る我々が勝利するには……? とにかく電撃戦だ。「相手陣に居座った時間だけ、DEP着手時間が与えられる」と言うのなら……まずは突っ込む。単騎ででも。10秒、いや5秒でいい。着手時間を得たのならば、自陣にとって返してDEP着手。その間、もし、自軍の他の騎馬たちが相手方の騎馬を自陣内に侵入させていなかったら……?


 ノーガードでこっちのDEPをぶち込むことが出来る。狙うは大将であるところのサイノか。彼さえ屠ることが出来たのなら、この一連のことに決着がつくかも知れないし。


 いや、そういった楽観視ができる場でもないか。逆に逆上してのっぴきならない事態にならないとも限らない。であれば残す? 周りを固める手ごわそうな奴から先にツブしていって追い込む……そう例えばリア騎? 例えばインナミ騎? あ、いや……周りって改めて見回すとザルい面子しかおらん……


 え? 楽観は禁物だけれども、ええ? これ一方的にぶん殴れるやーつだったりしないかな……


 何度見直しをしてもそれ以外の解答はあり得ない気がして、ええ? と私は逆に硬直してしまわざるを得ないェ……


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