♮272:烏合ですけど(あるいは、終着するには度し難き執着)


 さらには。


「……」


 集った面々の壁の間から、冷気を励起したかのような、そんなオーラみたいなものが漏れ流れてくるのが確かに感じられたわけで。


「……」


 人の壁が割れる。そこから現れたのは結構小さな人影。深緑の、どこのかは分からないけれど軍服みたいなのをきっちりと着こなしている。そしてどこのかは分からないけれど、えらい前方に張り出す感じのごっつい軍帽を被っている……


 大抵の外観ではもう驚きが脊髄くらいまで留まって動じないレベルにまで至っている僕だけれど、そのけったいな服装をしているのが、僕とさほど年の頃が違わないだろう若い女性であり、さらに張り出したその帽子のひさしの下から覗くきりとした顔は、凛々しさとかわいらしさを相持った、とても僕の琴線を震わせてくる外観であったわけで。ゆるやかでふんわりとした質感の金髪がその小顔をやさしく包んでいる……


「!!」


 そこまで舐めるようにして観察していた僕は、足の甲に重量を伴った何かが突き刺さったのを感知して絶叫しかける。隣からは瘴気のような紫色の氣(錯覚)を噴出させているサエさんのとんでもない笑顔が……あかんあかん。


 それにしても今までと比較しての、ここまでの沈黙・無言空間よ。逆に恐ろしい気もしないでもないけど。とか思っていたら。


「やっほー、ムロトっちおひさー」


 やけに軽い声が、僕に向けて掛けられる。これまた妙齢の女性の声。僕は思わず自分の足をもう片方の足でガードしようとするけどうまくいかない。


 ちっちゃいショートカットのその子は、いまどき流行らないだろう全力のウインクでこちらに迫ってくるようにポーズをキメてきているよ……ああそう言えば、「元老院」の。これまた前戦ったなぁ……「名前」は確か「メゴ=マコちゃん」。相変わらず女子高のかわいい系っぽい臙脂色の制服ジャケット+紺色のスカートと身に着けているけど、あれから5年がとこ経っているはずだからそろそろ危険な空気を孕み始めるよね大丈夫かな……


 詮無い心配は、またかき消されるがこの世界のお約束なのだけれど。


「……あ、この『元元老』チマチ=カオとぉ~」


「リポ=ッニもいますからね!! 頑張りましょう!!」


 相変わらずの(というほど何回も面識あるわけじゃなかったけど)、ひとりは歌舞伎調の出、と変幻自在な顔。もうひとりはおとなしげな正統派アイドル感。おそろいの制服姿が目に眩しい。


 「元元老」……字にすると逆によく分からなくなるけど、あの没落した「チャイドル=ブランド」の!! こんなところで再登場するなんて!!


 これでもかの過去登場人物らの総ざらえに、説明できないほどの大丈夫かな感はある。けど、またまた心強い助っ人、それはありがたい、と思うに留める僕がいる。


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