♮271:哀哭ですけど(あるいは、振り惑い/メランコリニスティ)


 なんだかんだでこちらも「五騎」が出そろったわけで、ようやく彼我の戦力差は「5対10」にはなった。でも欲を言えばあと一、二騎は欲しいよね……そう言えば、若草さんがなんだかんだであぶれてる。とか思ってたら、なんと間のいいことに。


「……近場にいて良かった。この二人も偶然会場に居合わせたので同意の上、出張ってもらった……水窪、事情は聞いた。その上で力になれることと言えば、情けないことにこのくらいのことしか出来ないが……私らが『馬』となる」


 うおっと~、これまたこれまたお久しゅう……ワイルドな無造作ヘアはいつぞやよりもうねりを増しているようだったけど、その下のシャープなクールフェイスは歳を重ねてさらに鋭さを増しましたなあ……というような、落ち着いていながらも周囲を圧倒せしめん迫力は健在、というかえらいアレですな……


 河南カワミナミ ジュンさん。僕をこの世界に誘ったうちのひとり。そして実際に相まみえもしましたよね……相変わらずの「美青年」な佇まい。今日はまた緋色のスーツ上下をラフに着こなしてますけれど、これ似合うのってアジア圏ではこのヒトくらいと思われますなぁ……


「……」

「……」


 畏怖に近い感嘆の吐息を思わず漏らしちゃったよ。と、その後ろに控えていたのは、つい最近お邪魔した東北のペンションのオーナー夫妻、オーリューさんとユズランさんだった。うぅん偶然。ふとその姿が強烈に目に留まったのだけれど。


 うん……まあ目に留まるは留まるよね……二人揃ってのチロリアンペアルックであることがまず根本にあるのだけれど、プラス男女の服装が逆っていうのが拍車をかけてるよね……何かの。


 特に筋肉質のガタイのいい山男風貌の中年男性が、革紐らしきものが交差する胸元ざっくりの、これでもかのメイド服調のミニスカを装着しているとね……カジノこの場であってもギリギリ許されるか許されないかの瀬戸際外観だょ……大丈夫かな……


 いや、ほんとに俺らはお台場観光の一環でこのカジノにちょっと寄っただけなんだけどね……みたいに力無くオーリューさんが言うけど。どの辺りからこのような衣装であったかは聞くに聞けないのだけれど。でも、カワミナミさんの何らかの有無を言わさない感があったことは窺いしれようもので。傍らのユズランさんに至ってはこれでもかの真顔が先ほどからぴくりとも動いていない。


 しかして。


「……!!」


 いきなり堰を切ったように、若草さんが、ふええええ、と力無く泣き声を発したのにはびっくりしてしまったわけで。そしてその様子を見ても眉ひとつ動かさないカワミナミさんが、無言でその胸元に抱き寄せるのを見て、おおぅ……と不謹慎にも鼻息が荒くなってしまうものの。


 心強い援軍がまた一騎……いささか大集合に過ぎなくもないこの力場に、変な感じにどぎまぎしてしまう僕もいるのだけれど、いや、いい流れ、と呑み込んで前を見据えることとする。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る