♫242:発露ですかーい(あるいは、さだめし/乾坤/第一手)

「……ぅ俺のカードはこれだぁッ!!」


 そこまでは不必要と思われるほどの気合い発声を伴いつつ、先鋒を買って出た翼が、自らの目の前の壇上……「カードニック=スペース」って言ってたっけ、要はカードを立てることの出来る治具のあるところに、一枚の「札」を突き立てる。


「……」


 横目でちらと確認した出し手は……【T】。つまりは最も無難で普通なカードだった。あれだけ考えといてそれ……? とか思ってしまったけど、いや待て。


 傲岸不遜がデフォルトであるところの、我が双子兄きょうだいの横顔は今もそのまま。ポリグラフとやらも、翼を示す「赤色」の波形は一定で不自然な揺らぎは見せていない。


 いや、なかなかやるじゃないか……こいつの常に外界に漏れ出ているイキれメンタル、それによる「初っ端に何かやってくるだろう」感は結構なものだろう。【F】【F★】【T☆】……このへんを初手から繰り出してくるって思考、相手側はそうは拭えないんじゃないか? 加えて「常なる意味不明な動じなさ」が、例えば【F】を出していても波形グラフは揺らがないのでは? とか思わせることが出来たのなら。


 もちろん翼も「勝負手」を繰り出す際には、多かれ少なかれ「揺れる」だろうとは思う。だからこその「初手」。こちらの波形のクセみたいなのが相手に分かっていない時点だから、出来る戦略なのかも知れない……


「おう、兄ちゃんが最初の相手かい、存分に、かかって来いやァッ!!」


 あ、いや、まるごとひっくるめて「何も分かってない/考えてない」可能性も十二分にあるか……そもそも【T】と【F】の意味すら理解していない恐れもあるな……


 ま、まあ、それも込みで読みづらいは読みづらい、はず。それより僕の波形も常に表示されているんだ、今は、平静を保っておかないと。


 最初は私が行こう……と主任が凪いでいながらも気合いの乗った表情で言うので。


「……」


 ではでは、と私は「ケン」の立場へ。相手はと見ると、褐色の肌とにやりとした口許の白い歯が眩しい「青年くん」の方だ。先ほどの休憩で着替えたみたいだけど、隣の「金色」のメイド服をかっちりと着て金髪ウィッグにラメを散りばめたメイクでキメている「少年くん」と違って、「銀色」を着てはいるけど、着崩して何かよくわからん感じになってる。メイクもカチューシャも何もしてないので、女装感はハンパない。けど、その風体から醸し出されてくるオーラみたいなのは、確かに感じる。油断とかは、当たり前だけど出来ない。


「……!!」


 そんな観察の間に、主任がすっと力入ってない感じで「札」を目の前に立てる。こちらに向けられたオモテに書かれていたのは【F】。まずは順当妥当な一手。ここは様子見ってわけかしら。でも相手は何かやってきそうな感じもハンパない。なんて、いろいろ思うところはあるが、主任に任せたからには、私は「平常心」を保ったまま対峙しておくまでだ。


<先手:ツバサ:着手>


 実況少女の声が響き渡り、ついに勝負が始まる。


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