#228:余情で候(あるいは、真冬の連立3元1次不等式)

<試合形式は前戦に引き続き、『DEPデプ着火インフェルノォォォォオオウ』と相成ります……フフフこれは決してネタ切れとか資金切れなどではなく、純粋にこの頭脳戦を楽しんでいただきたいという運営なりの心配りに他ならないわけですフフフフ……>


 会場スタジアムは、地鳴りの如き響きに包まれており、私の簡易的な防具プロテクターに包まれた体にも、それらは伝導してくるかのようであり。「実況」であるところの少女の声は、達観しきったというか、諦観に彩られたというか、そのような投げやりな湿度を滲ませてきているものの。


 いよいよの戦い……それが始まる。「場」であるところは、先ほどの水窪殿らが戦っていた「9×9」の盤面フィールド。自らのDEPを、「行動力」やらに置換して盤面を制した方……すなわち「5五ちゅうしんの枡目にいち早く到達した者が属するチームの勝ちとのことである。いまいちその詳細なルールは分かってはおらぬが。


「揺らぐな、ジローネットよ。『平常心』だ。平常なる心をもって、真なる深き自分を見据え、そしてそれを自分以外の『世界』へと解き放つ。先ほどの対局でそれはいやというほど分かったはず」


 姫様はその華奢でいて豊潤なる曲線カーブを描く御身を、首から下全身を覆う漆黒の薄いスーツと、その上に関節やら体の要所を守るかのように装着された「プロテクター」で固められている。頭には額から顎先までを覆うヘッドギアなる物も被った物々しい出で立ちであるが、不思議とそれがさらに姫様の凛とした御顔御姿をさらに凛々しく見せている。


 しかして「前局」……部外者たる私が述べるのもどうかとは思うが、凄まじいばかりの痴話喧嘩であったな、としかろくな感想を持ちえないのだが。まああそこまで自分をさらけ出せるのであれば、もはや「世界」と「自分」とを隔てる、厄介な「境界」などというものに縛られずに、己が己として生きていくことが出来るのやも知れん……


 私にそこまでの覚悟があるのか、おそらく姫様はそう問うてらっしゃるのだろう……その答えは今はまだ「否」であるものの、自身の底まを踏み込んだ末に、何かがもたらされる、そう姫様はその慧眼をもってしておっしゃられているのかも知れない。


 ならば、やる他は無い。と決意新たに私がその「対局場」へと踏み出した、その瞬間だった……


「フハぁーッ、ハッハッハ!! フハぁーハッハッハッハ!!」


 突然の高笑い。我々のいる「9×9盤面」の右下(姫様)・左下(私)のカドのそれぞれの対角に、


「『マゼンタ麒麟きりん』、参上だこの野郎ッ!! 我らに見せ場ひとつも作らせないで、それでも人間かッ!!」


「この『ダナエ白駒はっく』も随分とご立腹だえ……早くこの『裏×ダイ×ショウギ×レン×ジャー』の汚名を返上せねばならんのだえ……」


 赤色と橙色。派手な色彩のタイツのようなスーツに全身を包まれたふたりが全身に渾身の力が入ったかのような様態ポーズで固まっていた。


 少女然とした叫び声のようなものが響き渡る中、私は早くも「平常心」というものを保つのに、かなりの集中力を消費してしまうのだが。


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