#227:官立で候(あるいは、鞄に詰め込む/DANAフォートレシス)


いよいよである。姫様と私の、決勝初戦と相成るわけである。が、


「……」


 ここに至るまでが、だいぶ、の長丁場だったような気がする……それはあの「若草」殿のこの場の時空間をも巻き込まんばかりの壮絶なる戦いによるものと思わざるを得ないのではあるが。何という……いや、何というとしか表現する術を持たぬ。だがともかく、落ちるべきところに「玉」の如きものが落ちた、とそう認識することは出来た。あとは本人たち次第なのであろう。部外者たる我々はうまくいくようにと祈ることしかもう出来ない。


 さて。


 ともかく我ら陣営の者たちは、直接対決の敗者であるところのギナオア殿+ガンフ殿を除く二組が、次戦(あるいはそれ以上)に駒を進めることが出来ている。


 その二組はこのトーナメントの「左側」に属しているからして、このまま勝ち進めば準決勝で当たることは必定なのであるが、その場合どちらかが決勝に勝ち上がるも必定。であれば……我々が、こちらの「右側」で勝ち進んでいけば……決勝での決着をつける必要もなく、我々の勝利ということに……なる。いや、そこまでうまくいくことは無い、と思われるか。


 「運営」のやり方、それはもう分かり過ぎるほどに分かってきている。このまま穏便にまともに進行されるとは端から思ってなどいない。だが、であればなおさら……今、目の前の戦いに集中するほかはない。明確な「勝敗」を覆すことは、流石の運営やからにも、出来ぬことと思われるからである。と、


―ジローネットよ。気負い意気込むでない……そして怖れ躊躇うでない……


 インカムを通して、姫様の御小声がいきなり飛び込んでくる。私の右斜め先を静かに、しかし堂々とお歩きになられている姫様は決して私の方など、振り向かれるはずはなかったものの、その背中は、その御言葉よりも何事かを語られているように思えてしょうがない。


 「平常心」。要はそれに尽きるのであろう……ならば我は常に平常心を持って、持ちうる「DEP」を撃ち放つだけである。もうその覚悟は出来ている。そしてそれにより……


 おばば様を救うのである。そのことだけを肝に銘ずるのだ、ジローネットよ。


 改めて自分に言い聞かせると、ふ、と得も言われぬほどの、脱力して爽快な、何事にもとらわれていない自分を感じることが出来る気がしている。これがギナオア殿の言われていた、「ニュートラルな自分」、というものであるのであろうか。


「……」


 わからぬが、わからぬなりにただ進むのみであり、べきであろう。


 はっきりの前戦の余韻を残しながら、ざわめきどよめく会場スタジアムのただなかに、姫様と、それに付き従う私は、ずいずいと歩み出て行く。


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