♮226:泉山ですけど(あるいは、ゼロサムフラワー/ダメ息の花だけ)
お、終わったようだ……若草さんの対局がついに……
残党狩りとばかりに、さくりと彼女の高々と掲げ上げられた右脚が綺麗な弧を描くと同時に、その踵に刈り取られるようにして後頭部に痛烈と思われる打撃を喰らった丸男が、対局場であるところの「パネル」に突っ伏していくのを見て、僕はそう思うしかない。ていうか丸男……無事だったのは良かったとして、噛ませ犬以下のその扱いにちょっとした憐憫をも感じ得ないのだ↑が→。
最後は何て言うか、何も言えねえくらいの
実時間にしたらそれほどの時間では無かったけど、その濃密たる時空間に飲み込まれるようにされていた僕にとって、それはおよそ二か月にも渡るほどの長さを感じさせてもきていたわけで。「巻く」云々言ってたのは一体何だろうと思わざるを得ないくらいに……いや、そんな事はどうでもいい。ともかく、
若草さん、そして賽野さんペアはそのまま勝ち上がり……イレギュラーなれど「二連勝」をかまされたわけで、シード級の扱いを受けて、もう「準々決勝」、「ベスト8」まで勝ち上がってしまったと。
うん……何というか、アレと戦うということに、今更ながら戦慄を覚えてしまうのだけれど。まあ僕らは一勝はしたもののまだ最底辺。目先の戦いに集中しなくてはならない。そんな中、
会場はいまさっきまでの「死闘」の余韻を残したまま、ざわつきが収まらないままだ。とは言え、運営は粛々と進行していく構えのようで、
<次戦は『一回戦第5局』ッ!! No.11689:ジョシュ&アロナコ VS No.03295:タカウトン&ヤウチュラ の対局となりますッ!!>
おおっとぉ~ついに、あの姫様の
<……『少年』>
そんな思考のさなか、当の御本人から声を掛けられるとは思ってもみなかった僕は、力の入っていない自然な声で姫様から呼びかけられ、はぃいぃ、と強張った返事をするくらいしか出来ない。インカム通して自然に翻訳されてくるのだけれど、何となく、その声は柔らかだ。
<先の対局は……あれがお主の『吐露』なのであろうか……あそこまで吐き出し尽くせば、自分と向き合えると、言うのだろうか……>
姫様の凛とした声は、そんな風に、僕に問いかけているのか、自分の中で反芻しているのか、それは分からなかったものの、
「『オープンユアハート』。僕から今言えるのは、それだけです」
自然と口をついて出ていたのは、そんなありふれた言葉であったのだけれど。
「……」
自然な笑み。そう思った。姫様のお美しいご尊顔にそんな柔和な表情が宿ると、非常に魅力的だなぁ……あ、いかん。その瞬間、脳内に差し込んで来たサエさんの満面の恐ろしい笑みに思わずびくり、と体が硬直してしまう。
と、とにかく頑張ってくださいね、としか言えなかった。でもそんな僕のおざなりな言葉に対し、無論、そして願わくばお主と相まみえたいものよ、との御言葉を残し、ジョシュさんを従え、対局場にその無駄な力の抜けた背中を見せて向かわれる姫様。
この人はこの人で怖ろしいばかりなのですが、勝ち上がって欲しいことに他ならない。僕はその後ろ姿を見送りながら、心の中でささやかなエールを送ってみる。
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