#229:断崖で候(あるいは、フレアトライバー/時空のびしろ)


 「何とかレンジャー」と名乗った、顔も体もすっぽりと「スーツ」に覆われたふたりの少女(おそらく)の朗々たる名乗りに、少し呑まれてしまったのは確かであったが。


 このほうらが次の相手となるなれば、気迫で負けること相成らん……とばかりに、私は殊更に背筋を伸ばし、その小さなる者たちへ向き合う。覆面マスクに隠されたその奥には、どのような修羅が宿っているのか、それは知る由も無かったが、この「決勝」まで、例え運営の意思であるにしろ勝ち上がり、出張っているのであるならば、相当な手練れと見た。


 見かけの幼さから、推しはかろうとするのは間違いである。そのくらいは私であれど学習はしてきた。何より15の我が姫君が空前絶後ト=ンディモゥ=ナスなDEPを振り回す現況を鑑みれば。


 ……はっきり、油断は出来ぬ状況である。いや、もとより私に気の緩みなど、あろうはずはないが。


「……考えすぎるのは、ジローネット、お前の良きところでも悪きところでもあるが……今は『平常心』。ニュートラルな心で相手とも、自分とも向き合うのだ……私はそのことを、あの『少年』や、『ワカクサ』から学んだ気がする。勝敗云々よりも……そのような境地に至るこそそれこそが……この『ダメ』の本質ではないかとも、思っているのだ……」


 傍らの姫様は、そのような達観した凪いだ目つきで、軽く微笑をも浮かばせながら、そのようにおっしゃられるのだが。いやはや、随分とこの短期間で成長召されたような気がしてならぬ。やはりこの「旅」は……陛下の慧眼通り、この先どう転ぼうとも、有意義なるものに他ならなかったと、私はことここに至り、ようやく得心するほどのザマではあるものの。


 結構な広さを持つ「9×9」の盤面フィールドが、何故かとても狭いものに感じられている……その四隅に配されている、四人の距離も間近に感じられる。


 なぜか私は胸の中を清浄な風が吹き通っているかのような、爽やかなる気分でいる。いま正に、のっぴきならぬ対局たたかいが始まろうとしているのは自覚しているが、それをも内包するかのように、全てが透き通って見えて仕方がないのだ。これは何だ? いったい何なのだろう……


「……ヘイヘイヘイヘイッ!! 何だその腑抜けたツラはぁぁっぁあッ!! 今からがっつん修羅場ガ原へ誘おうって時によぅ……余裕か? 余裕ガ原かッ?」


「どの道おまはんらが、『最要注意』であることは上から申し使っているわけだえ……最強の我らが当てられているんだえ……? そのことをこれからとくと思い知らせてやるんだえッ!!」


 突っかかってくる赤色と橙色の言葉にも、何故かの清涼感を感じてしまい、顔の筋肉が自然に緩んでしまうのを、慌てて堪える自分を察知しているばかりであるが。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る