♮189:明鏡ですけど(あるいは、バック/トゥザ世界律/イン覇ー)


<『ドロップ』は場に供託料を、親は『6,000』子は『3,000』払うことで、その『場』から降りることが出来ますッ!!>


 細かい後付けとしか思えないルールがどんどこ付与されていくのはダメ界の常として。


「ろ……『6,000』で済めば御の字なんだな……」


「そ、そうだぜ『60倍』? そんなレベルの電流喰らっちまったら、俺の大切に磨いて残してきた親知らずも全部抜けちまうよぉ……」


 ガンフさんと翼はそれに乗っかって、あっさりと降りてしまったわけだけれど。ということは、残りのアオナギと僕との一対一サシということになる……


 改めて、「DEP倍率」は僕が「60倍」、アオナギが「20倍」。単純に僕の方の評価点に「3倍」がとこ掛けられるということになる。相当なハンデだろう。僕の驕りがあるのかも知れないけど、そこそこな奴を放てる人材ですよ?


「……」


 どよめきのような歓声に包まれながら、サッカーの競技場を模したかのような、この巨大ホールの中、空調だかのうねる風を浴びながら、結構な上空で僕らは対峙している。昔、同じチームだった時には、こんな風に向き合うことは無かったから、何か緊張している自分を自覚する。相対する細長い顔には相変わらず余裕のひしゃげた表情が浮かんでいるのだけれど。


<『1対1』の状況になりましたので!! それぞれ持ち時間『3分』の無制限撃ち合いと相成りますッ!! お手元の『着手ボタン』を押下している間だけ、マイクが音声を拾うといった具合です!!>


 おっと~、そんなルールも……まあもういい、DEPで殴り合うしかないんだったら……そうするまでだっ。


<本局の『評価者』の方々は、この対局を全世界のネット、ないしこの場で観戦中の一般のお客様、はたまた段級位者の方々から無作為に抽出した『10,000名』が、各々の持ち点『100』を、それぞれの対局者にリアルタイムで振り分けていっていただくシステムとなりますッ!! 途中で追加したり変更したりも可能ッ!! 対局者すべての『持ち時間』が使い切られた時点で、評価終了となり、『評価役』が開陳されるといったッ!! そのような感じでありますッ!!>


 名も知らない実況少女のテンションは結構上がり気味だけれど、「10,000人」ってどえらい数だよね……毎度思う事なんだけれど、この「ダメ」の需要がそこまであるということに驚愕を感じる。全部ウソなんじゃないの、とも思ったりするけど。いや、そんなことを考えている場合じゃない。


うーん、評価を受けられれば良しと、そのくらいの理解でも大丈夫だよね? とにもかくにも一発勝負とはならなくて良かった……のだろうか。でも対面の歌舞伎面の余裕もいまだ気になる。


<決勝第一戦、東一局、アオナギ選手、ムロト選手、着手を始めてくださいッ!!>


 とも、かく、だ。自分と向き合う。細かいことは考えるな。自分の奥底に眠る何かを……撃ち放つ……だけだっ。


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