♮187:反骨ですけど(あるいは、闘いのベルを/打ち鳴らせ諮問機関)


「ミサキ……つまりはこれ、どうしたらええのん?」


 僕の左側、上家かみちゃから、そんな今更な言葉が力無く流れて来るけど。先ほどからどうにも静かだったけど、翼ェ……やっぱりこの対局のルールを理解していなかったと見える。まあ僕もこの真意についてはまだ全容をつかんだわけではないし、そもそも全容が存在するのかも不明であるわけで。


 とにかくいちばん大きな数字を場に出して、DEPを撃てばいいんじゃないかな、とその耳元に小声で囁いておく。対局……<第一局>と、着座した「アーム付き椅子」の肘掛け辺りに設置されていた小型ディスプレイにはそう表示されていた。あまり盛り上がりは未だ見せないままに、粛々と今、対局が始まったようなのだが。


「……」


 しかし僕の右手、オレンジと白、黒の発色が非常に鮮やかなプロレスラー風のマスクを被ったマルオさん、いやガンフさんは、親番であるがゆえの手牌「3枚」の中から、どれを切り出そうかと初手から長考気味だ。そのマスクの上から掛けられた、今時の技術力ではかえって作製しづらいのではと思わせるほどの瓶底眼鏡の奥の歪んで見えるその小さな瞳はしかし、真摯に卓上を見据えている。そして、


「……!!」


 そのちょっとした野球グローブのような手指が、自牌3つの中から右端の牌を選び取り、静かに場に放った。【3】。様子見ということだろうか。それともそれしか無いのか、その辺の駆け引きは掴めないまま、ただ僕は自分の手持ちが【4】【6】であることに少しの安堵を抱いている……それほどのことも無いか。でも自分にとって不利ではないと思うわけで。


 しかし。


「……おっとぉ~こいつは初っ端からぬるりと来たぜ……『ゴゾロの丁』」


 続くアオナギは山から自摸ツモってきた牌をいったん自分の手牌(3枚しか無いけど)の右端にくっつけると、その隣の牌も含めて二枚を、ぱたりといきなり倒したのであった。何だ? 晒された牌はふたつとも【5】。


「ゾロ目は『役』。【5】+【5】はしたがって【10】、『10倍』となる……」


 珍しく余裕たっぷりで無駄なダンディさをその言葉に込めているアオナギだけど、「役」だとぉ~? そんなん聞いてない!! ……いや言ってたか……その詳細は伏せられたまま……「2枚3枚の組み合わせでの『牌役』」とか言ってたか……しまった、そこ流してたよ。多分、この手元の端末でそれは調べられたはずだ。以前の対局ではあんまりルールとかがないがしろにされていたから、今回も重視することなく流し気味でいたのだけれど……それははっきり迂闊だった。くっ……アオナギのあの余裕……「10倍」でカマされたら、現状「6倍」しか撃てない僕に、対抗しきれるのだろうか……ッ!?


「ククク……心配めされるない、ミサキうじ


 いや、こいつがおった……!! いや、おったが、大丈夫かな……その自信あふれる、またしてもキャラ立ちが不安定になった物言いに、一抹の不安感を禁じ得ないんだが。


「フハハハハ、そっちが二枚役ならばッ!! こちらは『三枚』ッ!! 三枚の役で蹴散らしてやるぜぇぁぁぁぁッ!!」


 定まらないけど、迫力だけはあるその胴間声と共に、翼は引っ掴んだツモ牌を自牌に引き込むとその3枚全てを一気に倒す。場に晒された、その数字は【1】【2】【3】。数の並び……綺麗な数の並びだが……何か非常にいやな予感がする。


<【123ヒフミ】は「倍払い」!! 自分以外の3人の「倍率」が二倍されるという、極めて使いどころが難しい、切り札的な役だぁぁぁっ!! まさか初っ端からこれが出されるとはッ!! どんな作戦を有しているというのかっ!? 非常に興味深いですっ!!>


 実況少女の興奮とは裏腹に、嗚呼……みたいなやっちまった感を呈する似たような金色/銀色の顔を並べる翼と僕。やっぱりな。やっぱりこんな感じで滑り出すことは分かってたよ。ぐううう、でもやるしかないッ!!


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