#175:混在で候(あるいは、フォールダウン/ホールド/流転)


 諸々あったように思われるが、件の「ファイナル予選」を、我が陣営4組8人が全て、何とか突破することが出来たようであり。


<……ここまで来れたこと、それを皆に感謝する>


 20分の休憩が挟まれ、先ほどの「大部屋」に戻ってきてそれぞれくつろいだり、次戦の準備を始めた面々に向けて、姫様はそのような御言葉を投げかけられたのであった。相変らずの「翻訳音声」は、機械じみた、素っ気なきものであったのだが。姫様の御尊顔に浮かぶ表情も、真顔と無表情の中間くらいの微細なものであったのだが。


「……」


 そのような素直な謝辞の言葉を掛けられるとはついぞ思って無かったのだろう、振り向いた面々の顔は一様にちょっとした驚きを含んでいるように私には見えた。そして多分の恐怖いや、畏怖をも。


<……しかして。これより先の『決勝戦』は、『ひと組VSひと組』がサシで戦い雌雄を決する、『勝ち抜きトーナメント方式』であるという旨を聞いた。すなわち、ここにいる我々同士が、ぶつかり合うという可能性もあるということだ>


 姫様が無表情に言葉を紡いでいく。試合形式については先ほど詳細な説明があり、残った「20組」が2つの「ブロック」に分かれたトーナメントに割り振られ、姫様がおっしゃられる通り、「一対一」の勝負を順次行っていくとのことであった。無論……我々が対決する可能性もあるであろう。姫様がおっしゃりたい真意が、私にも何となく読めてきた。


<提案だが、ここにいる者同士がかち合った場合、どちらかを故意に勝たせるといったような戦略は……取らないで欲しい>


 !! ……何と。真逆のことを考えていた私は、姫様のその「提案」に思わず目を合わせてしまうのだが。てっきり、不要なる戦いは避け、DEPを温存した上で、上へと押し上げる……さなる考えであろうと思っていたが。


<……勝ち上がること、それが至上であるとは無論考えてはいる……そして『優勝賞金』を得るということが最も優先されるべき命題であることも……頭では分かってはいる>


 姫様はどこか遠くを御覧になられるような目つきで、他の7人に向けて喋られているように見えた。姫様の眼には……いったい何が映っておられるのであろう。


<勝ちも負けも、自らの内に飲み込まなくては……『ダメ人間コンテスト』とは思えなくなってしまった私がいるのだ。そこを履き違えたままでは、勝っても負けても、おばば様に合わせる顔が無いように……思えるのだ>


 姫様の言葉に、唖然としたまま沈黙する面々。まあ、先ほどかなりの威力を以てして、大量殲滅を行った方の言葉とは思えぬと、私でもそう思ってしまうのだが。


<……ギナオアが精製せし『DEP』も残りはわずか『3』。これからの『1対局』に『1DEP』使用すると仮定しても、『決勝』までには枯れるが必定。そのため『八百長対局』は有り難いと思えなくもないのだが……思えなくなっている自分がいるのだ>


 姫様……私もおりますぞっ、との言葉を何とか呑み込むと、真摯な表情へと変わられたその御顔を、私はただ見やるばかりである。


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