♮174:再燃ですけど(あるいは、スパーキング/胸パチ/スパンキング)


 青白い光に飲み込まれるか飲み込まれないかの瞬間、視界がブラックアウトして、一瞬後、今度は暖色の光が目に入って来た。VRが切られて再び普通のRに戻ってきたんだろうことは頭では分かっていたけど、身体の方はというと、もう必死こいて手足を立ち泳ぎのように見様見真似で踊る盆踊りのように、ぐんぐる動かすことを止められやしなかったわけで。


「……」


 周りを見渡すと、「お立ち台」の上で顔を引きつらせながら同じような振り付けで舞う若草さんや主任さん、翼の姿が目に入り、それによって引き戻された冷静さによって、ようやく不随意な動作が止まる。腰のぐるりを拘束していたカラビナ付きバンドたちが、音も無く群がってきた黒服たちの手で外されるが。


「……」


 終了と、そういうことだろう。驚天動地級の姫様の「DEP弾」……いやもうあれ「災厄」に近しい現象だったよね……と、VR世界そのものをもすり潰すようにして破壊していったあの「光の柱」を思い出し、驚愕が再燃すると共に、嗚呼となる。


 ここまでだった。「ファイナル」は「ファイナル」だけど、「予選」にて、僕らの戦いは全て終了してしまったわけで。拘束を解かれた僕は、椅子ぐらいの高さの「お立ち台」らしき一段上がったところから、力無くホールの床へと降りる。他の皆さんも同様に緊迫しまくったらしい身体のあちこちを伸ばしながら、何も言わずにただ突っ立っているけど。


「……」


 でも、その災厄の根源たる姫様だけは、背筋を伸ばしたまま、気負いも気落ちも無い、何と言うか非常にニュートラルな感じのまま、腰に手を当てて凛々しく立たれているのであった……その顔にも、落胆や悔悟のようなネガティブな要素は微塵も無い。あるのはただ、涼やかな風に頬を撫でられつつ、ただその風の吹き付ける方へと顔を振り向けているだけのような、そのような爽やかさだけを内包していたわけで。あれ? 何と言うか潔いな。いや、違うなこれ……


 確信だ。確信している。何を? ……もちろん勝利をだ。


 僕がそんなままならない思考をこねくり回している間に、高らかなファンファーレと共に、僕たちの真上から、眩いスポットライトが浴びせかけられる。今日び、あまり見かけないコングラッチュレーション的演出だけれど、確かに僕らにそれは向けられていたわけで。


<いま!! この場にお立ちの皆様方が!! 栄えある『決勝進出組』20組の皆様なのであります!!>


 実況のまたも特徴の無き声が、特徴なく響き渡る。僕・翼、姫様・執事、若草さん・主任さん、そしてアオナギとマルオさん。その誰もが上から射し込む光の中にいた。僕ら全員が……残れたって、そういうこと?


<なにぶん、イレギュラーなどえらい『DEP竜巻』が巻き起こりまして。『70組140名』いました参加者の実に『54組』がッ!! その大禍の只中へと取り込まれていったのであります……ただ、予選通過者は『20組』と定められていましたので、生き残った『16組』と、『最後まで飲み込まれずにいた組』を遅かった順『4組』選出し補ったと、そういうわけでございます。皆様本当におめでとうございますっ!!>


 長すぎて理解の半分も及ばなかったけど、要は補欠拾い上げみたいな形で残れたと。それにしても「あれ」、ほとんどの参加者を呑み込んだんや……どんなDEPを充填すれば、そんなディザスターを巻き起こせるのって。僕は改めてとりあえずは姫様が仲間でよかったなあ……とか思うにとどまっている。決勝で、当たる確率は非常に高そうな気もしているけど。


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