#163:紺色で候(あるいは、ひとたびは/伏して仰ぎし/ヴェロシティ)
<平常心乖離率:397%>
ギリギリだった。ギリギリであったのであった……
味方であるはずの姫様からの予期せぬ「攻撃」によって、危うく裁きの雷が落とされる一歩手前まで追い込まれた私であったが。左手首の内側に穿たれた小さき「画面」に、そのような数値が素っ気なく表示されたのを見て(そのようなものがあったのか!)、ぐおおと思いさらに平常心を揺さぶられそうになるも、不断の意志をもって矢継ぎ早に何とか深く呼吸をすることで己を落ち着けていく。
「……」
何であろう、この鉄火場は。なにゆえそのようなことを? と脳からの疑問の群れに思考は押しつぶされそうになるものの、手を伸ばせばおそらく届くくらいの距離まで接近しながら、姫様はその大きく開かれた艶めく瞳で、こちらをじ、と見つめてこられるのであるが。その目つきには普段見せられる冷徹さはついぞ見られぬ。
……ただこちらを見られている、それだけであった。それだけであるというのに。
「ジローネットよ……」
私を呼ばわる声にも、普段の如き、こちらの身が引き締まるような張りは無い。何か多分に水分を含んだかのような、響く音に湿り気を帯びているというか。何事かは皆目分からないものの、のっぴきならない事態に突如として落とし込まれたことだけは、私に備わる野性の本能的な何かで感じ取った。
しかし。今の姫様は何と表現すればよいのだろうか。
……「美しい」。そんな
……これが、もしや……あの、あれだというのであろうか。いや、不敬であるぞ、ジローネットよ。しかしかように自らを叱咤しようが、胸の奥底にある心の焦点のようなものは、一時もぶれずに、ただ目の前の姫様に合わせられていて、動かしようもないのだが。
「ジローネット……お主はわらわのことを護るべき対象と思っておるのか……?」
いま、はっきりと地雷原に足を踏み入れてしまったことを確実に感知する。世事に疎き私にも、己に向けられし真っすぐなる想いくらいは分かる。だが分かるだけに、なぜ今この場で突如として展開されたのかまでは推察することなど出来なかった。しかし、真っすぐな言葉には真摯に向き合い、応えなければならぬ。私は意を決し、精神の視野と深度を限界まで研ぎ澄ます。
息を潜め埋没せし
「……ただの護衛対象としか思っておらぬのか……?」
しかして、この「大会」ですら生ぬるく感じるような修羅の原野は、未だ私と姫様の間に広がっている。いったいどうすれば。
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