#162:切削で候(あるいは、点軸/降魔/リフレイン)
文字通り飛び掛かってきた女衆の内、向かって左側のネズミ女が、高々と掲げていた小銃を最上段から振り下ろしてくるのを交わしつつ、その勢いを殺さぬまま、右側の痙攣女に肩からぶち当たって姫様から少しでも遠ざける。
「やるじぇねいか色男ぉ~、おひぃさんを身を呈して守ろうなんざ、あひぃ~妬けるだわいなっハァ~」
「だが生ぬるいッ!! そもそも『コンビ』での共闘がこの大会の趣旨ッ!! 1たす1が3にも4にもならねえ
どちらが喋った言葉なのか判別できぬほどに、はしこく我らの周囲を動き回りながら、二人の小銃をぶん回すといった滅裂な攻撃を防ぎ躱しいなしていく。ここまで耳障りな音声をよくぞ発することが出来るなと最早感心すら覚えるようになった私だが、無論、感心している場合でも無い。
「……!!」
しかして「銃そのもの」を武器とするという考えは面白い。矢継ぎ早に繰り出される「攻撃」を処理しつつ、私も奇怪女衆のように左手に携えていた猟銃を、足元の黒々とした土面に銃口部を突き刺して、軽く地を蹴って自らの身体を宙へと浮かせるように泳がせていく。
私の得意とする「棒術」のようにはいかぬものの、身の丈ほどの長さの「棒」であるとは言え、丸腰よりも遥かに攻撃の幅が広がるのは確か。地に突き刺したる銃先を支点に、私は時計回りに半周しつつ、ネズミ女の首筋を伸ばしたる右爪先にて刈り取るように巻き込む。
はんにばる、のような呻き声を上げつつ、前のめりに地に打ち伏せるネズミ女。私は回転の勢いを殺さぬまま、着地と共に猟銃を抜くと、今度は自身の足先を支点としてその得物を振り回していく。
ほぷきんす、のような短い叫びの余韻を残して、痙攣女がその鋭い円弧を描いた銃床を顔面に喰らいながら、下生えの中に仰向けで吹っ飛んでいった。
「……姫様、ご無事で」
今に至るまでの立ち回りを、大したご興味も無さそうに俯瞰するかのように少し距離を取って眺められていた姫様に向けて、言葉を放つ。脅威は去ったかに思えた。
「ご無事……か。……わらわが自身を自ら守れもしないと、そう思っておるようだな、ジローネットは」
しかし、姫様の言葉は、再び静寂を取り戻した林間に、冷たくも冴え冴えと響き渡る。いや、そこには冷たさだけではない、熾火がごたる「熱」のようなものも徐々に帯び始めているように私は感知した。
まずい。何がかは分からないが、非常にまずいという予感だけは私の本能に近い部分にて警鐘を鳴らし始めるのだが。ただいまの戦闘など
「……決してそのようなことは。私はただ、貴女様をいかなる災厄からもお守りしたい、その思い、それだけであります」
冷静を装いつつも、説明不能の脅威に揺さぶられながら、私はそのような無難なる言葉を紡ぎ出すばかりであったが。
悪手であった。
「……お守り、お守り、って、わらわはもう幼き子供では無いというに……」
ゆっくりと一言ひとこと、御自身で確かめられるように姫様が御言葉を発せられる時。そして御鼻から御息を短く突かれた時。それは炸裂の前の静寂に他ならぬわけで。刹那、
「……べっ、別にアンタなんかに守ってもらわなくたって、全然へーき、なんだからねっ!!」
忘れた頃にやって来るのは、災厄であったか。そうとしか思えぬほどのモノが、私に閃光の如く刺し突きつけられてくるのだが。姫様はその美麗なる御顔を真っ赤にしながら、私に指を突きつけ御身を震わされてらっしゃるものの。
「バッカじゃないの!? えらそーに庇護者ヅラして、そ、そんなんでなびくとか思ってんなら、大間違いなんだからねっ!!」
回避不能と思われるその鋭利な切っ先の連撃を、私は意識を操作するかのように必死で捩じらせ、紙一重で交わしていくより他は出来ぬわけで。
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