#160:概略で候(あるいは、天空は高きに/メッセグローリオ)
「臆しているのか? ジローネットよ」
思考を巡らせに巡らせていた私の耳に、珍しく悪戯っぽさを宿した姫様の御声が届く。思わずそちらへと首を巡らすと、やはり悪戯っぽい微笑を湛えた姫様の御顔と相対した。何も言えずに固まる私に小さく、臆することなど何もない、と御言葉を続けられる。
「……」
姫様はここ数日で成長なされた。いや、そのように思うことは何と言うか、上からの視線によるものであると思われるがゆえに、不敬なのかも知れない。しかし、それでも成長なされたと、私は思ってしまうのだ。視線を自然に逸らすと、姫様は凛と澄みし御声をさらに響かせていかれる。
「わらわはこの
姫様は自らに向けてそうおっしゃっているのだろうか。それとも風に乗せるが如く、このあまねく世界へたなびかせるように紡ぎ放っておられるのだろうか。
おそらくそのどちらもなのだろう。あるいは、そのどちらも同じことなのかも知れない。頭上を覆う木々の枝葉の隙間をすり抜けるようにして、姫様の言葉は天空へと昇り拡散しているかのように私には思えた。
「人間とは、かくも不思議なものよ。崇高で下衆で、浅はかで思慮深い。傲慢で謙虚で、愚かであり賢しくもある」
姫様はその口にされた言葉の行方を見送るように、遠い目で少し上なるところを見上げている。相変らずその可憐なる口許は美麗に綻ばせてらっしゃる。
「『ダメ人間』……
知らぬうちに私は平伏していた。姫様のおっしゃられていることは、真理ではないのかも知れない。しかし例え真理でないとしても。ないからこそ。
姫様の内でそれは輝き、そして姫様をも輝かせていくのではなかろうか。
その時だった。
「ねやぁ~はっはっはっは。ねやぁ~はっはっはっは」
奇妙なる笑い声が、私の背後、やや左より聴こえてくる。いかん、感激している場合ではなかった。こうまで接近を許してしまうとは、不覚。
「自己啓発はそこまでだッ!! うまいこと目視で見つけてやったっは~、あたいらが一番乗りっつーわけだわいやっはっは!! しかも最重要の『姫君』とは、こいつぁえらいたんまり『賞金』が望めるっつー寸法でわいなっはっはっはぁ」
語尾を全て笑いへと結びつける、これも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます