#151:高邁で候(あるいは、閃光のはざまへ/道を貫き通すもの)


「よう」


 と、ふいにギナオア殿が私の背後に向けて、そのような軽い感じの言葉を発するのであるが。


「アオナギ……さん」


 ギナオア殿の背後より、そのような少年のような声が呼応してかかる。


 おうよ少年、生き残ってたか、まあそりゃ当然だよなあ……と、珍しく相好を崩したギナオア殿が、その「少年」と、もうひとり同じ顔をした少し筋肉質の少年を出迎える。


 予選の始まる前に、控えのホールであった「少年」であった。ギナオア殿いわく「要注意」とのことだったが、そこまで両者の間に殺伐とした雰囲気は無さそうだ。何より「運営側」ではない者は次に控えし「ファイナル予選」とやらでは、「仲間」になりうべき存在である。こちらに引き込みたい。そのような考えは当然ギナオア殿にもあるのだろう。


「提案があって」


「『共闘』ってことだろ? 当然OKだ。運営にいいようにやられるわけにはいかねえからなあ」


 即応で「少年」の言葉にそう返すギナオア殿。面食らった表情を見せる「少年」だが、一瞬後には立ち直って、じゃ、じゃあそんな感じで……のような言葉を紡ぎ出す。


 と、その時であった。


「……それ、私らも一枚噛ましてもらっていいのよねえ?」


 多分に諸々の感情の込められし、妙齢の女性の言葉がその「少年」のさらにの背後からかかる。この女性も「要注意」と説明されていた人物だ。「女郎蜘蛛」ともギナオア殿は称していたが。


 ととと当然でございやすよ姐さん……のような、こちらも珍しく卑屈に下手に出たような物言いで対応するギナオア殿。


 これにて「四組八人」の共闘態勢が相成った。最悪残りの「66組」全てが運営の者たちと仮定するといささか心もとないことも無いが……一組よりは二組、二組よりは四組。もとより無謀は承知のこの戦い……しかして必ず勝ちを得なければならぬ戦い。かりそめの「仲間」であろうとも、その絆は何とも心強く感じている。と、


 <皆々様方には、こちらでご用意させていただきました、『戦闘服』に着替えていただきます……その上で、先の予選での先着された順に、『武装』を選択いただくということになります>


 アナウンスの女性の声が、上方より振り落ちて来た。「戦闘服」はともかく「武装」には差がある、ということになるわけであるか……


 我々四組の先の順位は、40位、45位、58位、60位。下位に固まっているわけであり、「選択」の余地ははっきり狭まることであろう。そこは不利であるとみるほかないのだが。


「案ずるな、ジローネット。何であろうと我が前に障壁はあらず」


 そんな私の逡巡を見越したのか、隣に正座まします姫様から、そのような勿体なき御言葉が紡がれてくる。思わず平伏してしまった私であったが、姫様にはもはや、何事をも達観されているような神々しさすら感じるようになっている私がいる。


 得も言われぬ「熱」を肚の奥底に感じながらも、私は伏したまま、その言葉の頼もしさを噛み締めている。


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