#150:最善で候(あるいは、想起/プラネタ/アブソリオーネ)
第二予選とやらが終わり、姫様と私は無事、勝ち残ることが出来たわけであるが。
「……」
消耗は思いのほか激しいのであった……
慣れない(慣れることもないだろうが)、異質な仮想現実の世界にて、身体を、はたまた精神を揺さぶられるだけ揺さぶられた。身一つで空中で滑走するという、おそらくは体感できぬことを「体感」し、脳が茹だったような感覚を帯びている。
そんな中、いつも通りの余裕を、その長き顔に貼り付けたまま、ギナオア殿がねぎらいの言葉をかけてくれたのだが。つまりは揃って突破できたと、そのようであった。
「……次なる戦いの、説明を」
姫様はこの控室なる入り口で待ち構えていたモクより、ボトルに入りし甘くなき茶と純白の見た目にも柔らかそうなタオルを受け取ると、大した疲れも見せぬまま、室内の一段上がったところに靴を脱いでお上がりになられる。その上できちと正座の姿勢を取られると、背筋を伸ばしたまま、ボトルを煽るのだが。
へとへとの情けなき私の姿とは対照的であり、その凛とした声に背筋を伸ばされるような感覚を受けた私は、力を振り絞り、今日初めて履いた革靴から、擦れてあちこちの痛む足を何とか抜き取ると、その傍らに同じく正座の姿勢にて畏まる。その横には、巨体を押しこごめるようにしてガンフ殿が、汗で蒸れたのであろう、覆面を頭の上まで引き上げて荒い呼吸をしている。
私が勤める王城の廊下の如き細長く奥行きのあるこの「控室」は、続々と入って来た予選通過者たちのめいめい勝手に話す言葉にて、いささか騒然となってきている。
「『銃を使った模擬戦』とでも言った方が手っ取り早いか。今回は『DEP』を『銃弾』に換算して、それを撃ち放ち相手を仕留めると。まあお前さんがたの本国でもそんな物騒なことはそうないだろうが、あくまでゲーム感覚で行われてたりするんだわ、この国では」
その喧騒の中、ギナオア殿はさほど興味の無いような体でそう言うが、我がボッネ=キィマでは数十年に渡り、そのような「銃撃戦」など起きたことは無い。しかしゲームとは。つくづく掴めぬところではある。この
いや、そこは今、本質ではないか。対応。それこそが求められることである。大儀を見失ってはならぬ。我々の目的は、姫様のおばば様……カオルコ殿を救うためのカネを得ることにあり。ならば、柔軟に状況に対応すべし……私はともすれば体の中の方、中の方へと堆積していってしまうかのような疲労を、肚からの気合いの深呼吸にて散らしていく。
「70組140人が『半径1km』に散るとなると、『100m』の円の中でお互い出くわす可能性があるってこった。低そうに思えるが……ま、そんな整然と動くわけもなし、しかもDEP放った瞬間、居場所が特定されちまうってんなら、いったんドンパチが始まったが最後、大乱戦に発展しないとも限らねえ。そこが引っかかる」
ギナオア殿は濁りながらも鋭い目つきで私の考えを促すような目つきでそうのたまう。
「……つまりは、多数による殲滅、であると」
私の言葉を、はっはーとわざとらしくいなしながらも、それが本質をついていただろうことは、その後に見せた悪そうな笑みで把握した。もう私はこの御仁のことをそこまで知っているのである。
「運営の本気。そういったとこか。最後の『ファイナル予選』で『部外者』の芽は摘んでおいて、決勝は内輪で、みたいなことを考えてんだろう。だが、そうはいかねえんだよなあ……」
ギナオア殿の笑みがさらに悪魔的に深くなる。私もこの戦いを勝ち抜くという心構えは既に出来ている。ギナオア殿には何か作戦のようなものがあるのであろう。それに……乗るまでである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます