#152:概算で候(あるいは、僕らはみんな/要らない描写メン)


 首の中ほどから、手首足首に至るまで身体にフィットする伸縮性の「スーツ」を着用させられる。色は光沢を少し帯びた黒。類まれな巨躯であるガンフ殿も、最も大きいサイズのものに、ヒィヒィ言いながらも何とか体を収めていた。


 男子更衣室。素っ気ない茶色の細長きロッカーがずらり並ぶ。我々以外の男衆はさほどいないらしく、結構なる広さの室内は衣擦れの音くらいしか響いていない。


「……ほへ~、いい身体してんじゃんよ~」


 「執事服」と説明された、私のために誂えられた黒いスーツやら白いシャツやらを脱いで丁寧にロッカーに納めていると、背後からそのような日本ジャポネス語が私に向けてかけられた。


「おめさん、どっから来たの?」


 声のした方へ視線をやると、そこには下着トランクス一枚だけになっていた筋肉質の「少年」がいた。いや、背はやや低いものの、しなやかで締まったいい筋肉をしているように見受けられる。「青年」といったところか。先ほどの「少年」と顔はほぼ見分けがつかぬほどであるが、赤黒く日に灼けた肌の色と、どことなく傲岸そうな表情で判別は可能と思われる。


 しかし裏表の無さそうな、よき面構えをしている。言葉も素朴だが美しき日本ジャポネスの響きである。私は名乗ると、母国の名もその青年に伝える。


「おらぁ、宗谷ソウヤだぁっ!! 宗谷の、ツバサだがぁっ!!」


 返ってきたのは、そのような大声での自己紹介であった。やはり粗野ではあるが、言葉は美しい。私はこのツバサと名乗った青年を、もうすでに好ましく感じている。と、


「貴方が……アオナギ七段か。私はサイノ。若草クンからいろいろと話は聞いています」


 そのような穏やかな言葉を紡ぎ出したのは、黒い全身を覆うスーツを身に纏うと、尚更そのやせ細った体躯が際立ってしまう男であった。ギナオア殿と対峙し、不敵な笑みを浮かべている。


 ……マトモザワの手の者じゃ、ないよね? というギナオア殿の蚊の鳴くような確認の声に否定の意を示したその「サイノ」と名乗った細き男は、もともと「観るダメ」だったのが高じて、こうして「対局」する側に回ってしまいましたよあっはっは、というような言葉で和む空気を醸し出している。


 「共闘」。そのように告げられた時には、果たしてそのような策がうまくいくのであろうかと危惧した私であったが、この場にいる面々はどなたもどこか信用に足るような男たちのように感じられた。


 ここを勝ち抜いたのならば、このうちの誰かと戦わなければならぬ局面にもなろう。だが、そのような詮無き考え、休むに似たると見た。今はただ、目先の戦いに焦点を合わせる。ただそれだけである。


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