♮123:連番ですけど(あるいは、カモナウィークデイ/ウラシマ硬化マン)
「……」
抜けるような青空を尋常では無い速度で疾駆しながら、僕はしかし、右後方辺りから響いて来た声の方向をちらと向いて、その主を確認しとく。相手がもし知った「強豪」だとした場合、速やかにその場……「射程距離半径15m」から逃れるという戦法を取らなければならないかも知れないから。
しかしながら運営側からは毎度の如く全く詳細説明は為されていないものの、通常通りの「DEP撃ち合い」であるという保証も無い。であれば、結局どう転ぶかは分からないのだけれど、警戒しておくに越したことはない。特に相手が僕のことを知っているというのならば、なおのこと。と、
「クックック、レジェンド『ムロトミサキ』よぉッ!! いきなり出くわすとは幸先いいねえ……そしてここで一発伸しとくことが出来たのならッ!! 周りへの牽制にもなるって寸法さね……」
その少女はダメ界隈では非常にありがちな常人ならば高止まるレベルをさらに突き抜けたテンションで言葉を発し始めるのだが。
うん、十代は間違いないだろうくらいの年かさの少女であったわけだけど、口ぶりは何とも言えない年嵩の婆様のような感じだよね……もうこの時点で日常だったら絡みたくないよね……
「ん誰だぁッ!? てめえはぁぁッ!?」
しかして、よせばいいのに、テンプレ的なことだけは食い気味で反応する背後の翼が、声を張りつつそんな取って付けたような誰何をする。やめとけってば……
「フハハハハッ!! 我が名は『
高らかに名乗りを上げてきたけど、その単語群の7%くらいしか理解は及ばなかった。なに元老だって? 「元老」という言葉は、この運営を司る何やらの機関ってことは知っていたけど、まあそんなヒトらも、この予選の下から勝ち抜いていかなきゃいけないんですね……との、どうでもいい思考がぷっかと浮かんだだけだ。
ヒトのことは全く言えないけれど、「コライ」と名乗った少女は、胡坐をかいた男に向かい合うようにして腰を降ろした態勢だ。これ男方は前方全く見えないよね……
改めての狂気を突きつけられ、早くも真顔を晒してしまう僕だったけれど、そんな気合いの抜けた感じじゃあダメだッ!!
「「対局ッ!!」」
おそらくこう叫べば音声認識してもらえるんだろうという思いで放った単語がハモる。まずは手慣らし、いくぞッ!!
<先手:No.00123着手>
っと思ったけど、まずは向こうからか。全くもってその手筋は分からないけど、この多分に芝居がかった少女……「たばかる」術には長けているとみた。気を付けようもないけど、気を付けなければ。
「……『転校初日の登校途中に偶然ぶつかったイケメンと同じクラスだった。ただならぬ恋の始まりを予感した私だったけど、結局何も始まらなかったっていう、そんな話』」
ええー、確かにダメな話ではあるけどぉー、何と言うか、ダメな意味でダメじゃないの? そんな尻すぼみ感の著しいDEPではぁー。
意外にあっさりめの前菜に、かえって勢いを削がれてしまった僕。その一瞬の逡巡が、よろしくなかったわけであり。
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